BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――尼の魔物……

 

 

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 今日の尼崎には魔物が棲んでいたとしか思えない。なにしろ、あの茅原悠紀が予選落ちしてしまったのだ。3日目終了時点では予選トップ、Vロード一直線かと思われた茅原が、である。

 6Rの転覆は、実に驚かされた。茅原ががりがりに競り合った場面ではないところで、単独転覆するとは。幸いにも身体は無事で、12Rに向けて改めて調整に励んでいた。その成果か、12R、豪快なまくり差しは逃げる秦英悟をたしかに捉えていたように見えた。ところが、次の瞬間に黒井達矢ともつれてしまう。黒井は転覆、茅原も大きく後退し、結果、茅原は不良航法をとられてしまった。前半の選手責任転覆と、あわせて12点減点である。12R後の茅原は、どこか複雑な表情を見せている。黒井に対しての思いもあっただろうか。茅原にこんな結末が用意されているとは、まったく想像できなかった。なお、黒井は負傷帰郷となっている。

 

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 12Rにはもうひとつ、驚くべきことが起こった。前田将太が周回展示で転覆したのだ。前田が正真正銘の単独航走中に転覆するなんて……。前田は、前半のレース後にピットでペラを破損。新プロペラでの出走となっている。それ自体も不運だったが、しかし調整によってむしろ感触は良好。自信をもって12Rに向かったそうだ。それなのに展示で転覆とは……。悔しいのはもちろんだが、前田は「情けない……」を連発していた。これが初めての展示転覆だそうだ。「それを全国発売のレースでやってしまって……」。気持ちの晴れようがない。

 今節の前田は、ツキに見放されていたような気がする。展開がなかったり、接触があったりして着を落とす場面も何度かあった。リズムが悪いというより、まさに魔に魅入られた一人だったような印象がある。前田は両膝打撲により途中帰郷。うまく歩けない様子が痛々しかった。その傷と、心の傷を早く癒せ。そしてまた、大舞台に帰ってきてほしい。

 

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 今日はそのほかにも、いろいろなことがあった。昨日あざやかにツケマイを決めた青木玄太が、不可解な不良航法で減点を喰らい、その影響で予選落ち、とか。茅原の脱落で予選トップの最有力候補だった岡崎恭裕が9Rでずるずると着を落とすとか。魔物の存在をじんわりと感じる一日。

 そんななかでももちろんツイていた者もいる。予選トップに立った松田祐季もその一人だったか。12Rは、松田に完全に追い風が吹いていた。6号艇出走で、スタート展示は6コース。それが、前田の欠場で5コースを走ることになった。これだけでもかなり有利になったと言える。さらに、バックで茅原が後退したことによって2番手に浮上。この時点で、松田は予選トップの座を手にしたわけである。茅原と前田の挫折が、そのまま松田に利となった。このツキは怖い! レース後の松田は、事態が事態だけに淡々とした表情だったが、この流れの良さをじわじわと感じることになるであろう。現時点で優勝にもっとも近い位置にいることは間違いない。

 

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 篠崎仁志にとっても、12Rの結果は大きかった。11R終了時点で、19位。準優圏内に浮上すR条件は、黒井達矢が5着以下に敗れたときのみだった。つまり、前田の欠場によって、黒井はシンガリ負けさえ避ければよかった。2号艇だから、さほど難しいことではない。ところが、黒井が転覆してしまった。その瞬間、仁志は18位に浮上である(結果的には茅原が減点で17位)。仁志としては、まずは驚くしかない結果である。それまで不機嫌そうな顔さえ見せていた仁志は、12R後は目を丸くして見開いていた。まさか残るとは! もちろん、その原因を思えば、素直に喜べはしない。だから、準優行きを決められた笑顔も、実に微妙なものだった。それでも、松田同様に、このツキは怖い! 一度死んだ身なのだから、明日は捨て身で勝負ができる。力が上位の男がそんな勝負をしてくるとしたら、それは脅威でしかないはずだ。

 

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 ツキという意味では、平高奈菜も大きなツキを手にした。10R、スリットを超えてすぐに、スタート判定中の文字が対岸のビジョンに表示されている。内3艇が早いスタートだったのだ。それがバックで「スタートOK」に変わる。セーフ! 平高のスタートタイミングは、コンマ00だった。ツイてる!

 ピットに戻った平高は、まずは「よかった~~~~~~~」と泣き声のような甲高い声で叫んだ。やっちまった、の思いはあったのだろう。2着条件の勝負駆けを2着と、お見事なノルマクリアでもあったのだが、それよりもスタート残した安堵のほうが大きいようだった。着替えを終えたあとも、予選突破を祝福する声に対して、スタートが残ったことを喜んでもいる。このツキも、当然怖い! 尼の魔物が平高を残したいと願っていたのだとすれば、優勝戦にも残したいと願っているはずだからだ。

 

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 そうしたなかで、西山貴浩は何を考えただろう。11Rを逃げ切った段階で、準優1号艇は確定。そして、12Rの松田祐季の結果次第で、自分に予選トップの可能性があることは、おそらくわかっていたはずだ。というのは、12R前の西山は、なんか緊張気味に見えたからである。実際、12Rをともに観戦した岡村慶太が、西山の胸に手を当てて笑っている。西山はころんと横になっておどけてみせ、岡村は起き上がった西山の肩をぽんぽんと叩いた。何を緊張してるんですか、西山さん。そんなやり取りにしか見えなかったぞ。そうそう、11R後はニッシーニャ劇場を期待していたのにパフォーマンスをほとんど見せず、その後も淡々と過ごしていた。予選トップを意識していたとしか思えないのだ。

 松田は12R2着でトップ確定。それを記者さんの資料で西山は確認していた。一緒にいた塩田北斗にも準優入りの可能性があると思っていたようで(残念、次点です)。そちらを確認していたふうでもあったが、予選トップが逃げていった残念さもあったに違いない。

 僕は、その一連の西山を「本気で優勝しか狙っていない」ものだとして好意的に捉える。予選トップ=優勝ではない。有利なのは確かでも、それは絶対にイコールではないのだ。だから西山には、あと2日、さらなる闘志を見せてもらおう。前検日から言っている通り、今節の西山貴浩は一味違う。それを最大限に見せつけてほしいのだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)