9R終了後の団体ポイントは紅組23、白組21と紅組が2点リード。10Rからはポイントが大きい選抜戦、優勝戦だ。この僅差なので、ここからが本当の勝負どころとなる。
まず10R、スリットで3コースの長嶋万記がヘコみ、4カドの土井祥伍が完全にのぞいた態勢となった。「マキ~~~~~っ!」と悲鳴をあげたのは香川素子。これで土井に攻め切られたら、内枠の女子3人が相当に苦しくなる。しかし、長嶋は諦めていなかった。土井に舳先をかけて、粘る粘る。結果、土井は攻め切れずに後退し、逃げた遠藤エミと差した海野ゆかりのワンツー態勢となった。「マキ、ナイスブロック!」、嬉しそうに声をあげたのはやはり香川。最終的に長嶋も3着に追い上げて、上位をレディースが独占した。白組にさらに差をつけた格好で、紅組の気勢はさらに上がっていた。出迎えた西坂香松は、水面の紅組3人に向かって「やったね!」。
11R、ここは2コースの竹田和哉がヘコんでおり、インの山川美由紀は壁なしになった。それでも山川は意地の逃げ切り! 香川を叩いた山田晃大が続いた。問題はここから! まくり差しの格好となった渡辺千草が山田に続ければ紅組が8ポイントをゲットで団体戦の勝利が決まるところだが、遅れ差しで粘った竹田を交わすのに手間取り、最内からは松山将吾も差し込んできている。このとき、残っていた紅組の面々は装着場にはほとんど出てきていなかったのだが、室内のほうから大きな声援が聞こえてきていた。なにしろ、樋口由加里が6番手を走っていたので、渡辺には何としても3着に浮上してもらわねば紅組は困るのだ。渡辺は2周1マーク、先行する竹田にアタックを試みるも届かず。3番手には大きく離されてしまった。「あぁ~~~~~」、室内のほうから女子たちの大きな溜息が聞こえてきた。これでルーキーズが8ポイントゲットで、再度逆転となった。
さあ、ポイントを獲ったほうが団体優勝となった12R。11Rのエンジン吊りが終わった頃、優勝戦メンバーが展示から戻ってきた。「美穂ちゃん、しっかりね! あなたに懸かってるのよ!」と守屋美穂にゲキを飛ばす香川。さらに大山千広にも「6等だけはダメよ!」と肩を叩く。素子姐さん、素敵すぎます!
12Rは、残っていた多くの選手が水面際に出てきて戦況を見守った。まず、紅組の面々が悲鳴をあげたのは、大豆生田蒼が山崎郡にまくられる展開になったとき。香川の先ほどのゲキは、実は大豆生田が逃げ切ってくれるという前提のもとに守屋と大山に飛ばされている。レディースは大豆生田の逃げ切りを信じていたのだ。それが崩れたのだから、悲鳴となる。ちなみに、吉川貴仁の3カドに対しては、森照夫が「おっ、3カドじゃん」と言ったくらいの反応しかなかった。もはや3カドは意外な戦法ではない。
山崎が大豆生田を叩いたとき、さらに外から足を伸ばしてきた艇があった。「あ、美穂ちゃん!」。豆ちゃんがダメでも、美穂ちゃんがいる! ジカまくりの山崎を守屋がまくり切ったとき、ふたたびレディースは歓声をあげている。ここからはもう、水面際の“アリーナ席”は大盛り上がり! あ、3が内から来てる! いや、5だぞ! 美穂ちゃん! ちーちゃんも内から来た! わーっ! バックが大混戦となり、それを見守る選手たちも一気にヒートアップしたのだ。
抜け出したのは吉川で、大豆生田も捌いて2番手に。3番手争いは守屋と野中一平。野中が捌き切れば白組の優勝が決まる。紅組の祈りにも似た歓声が巻き起こる。2周1マーク、守屋が先マイし、差した野中の内に大山が渾身の差し。この両者が絡んだことで、守屋が3番手を獲り切った。あとは大山が6着に後退しなければ、紅組の勝ち!
2周2マーク、ちょっとした異変が起こった。旋回しようとした大山と内から追い上げてきた山崎の航跡が重なり、山崎が内から大山に接触したのだ。そのとき、紅組は全員がバンザイ(笑)。まだ3周目が残っているのにハイタッチを交わし始めた。そう、この接触で山崎が不良航法をとられれば、大山の着順に関係なく紅組に12ポイントが与えられるのだ。ダハハ、現金ですね(笑)。誰かが「最後は後味悪い(笑)」と苦笑いしていたが、いやいや、胸を張っていただいて大丈夫です。大山は5着に粘ったのだ。つまり、紅組が2着3着5着で16点、白組が1着4着6着で15点。文句なしに紅組の勝ち、優勝です! 紅組、初優勝!
帰還してきた選手たちを、香川が笑顔でねぎらった。もちろん大豆生田、守屋、大山に対して敢闘を称え、また白組の選手にも声をかけているようだった。今節の選手班長らしい気遣い。やっぱり素子姐さん、素敵! そして、その香川や渡辺千草ら女子選手たちも、優勝した吉川をおおいに祝福した。おめでとう! その声に恐縮して頭を下げまくる吉川。紅組が勝ち、吉川がデビュー初優勝を果たして、ピットは祝祭の空気が一気に色濃くなったのだった。
ただ、個人戦に目を向ければ、やはり大豆生田の悔恨の大きさも無視できない。完全に顔が引きつり、小さく何度か首をひねったレース後。ねぎらいの声をかけられたときも、うまく笑えてはいなかった。1号艇での敗戦、しかもスタートを踏み込め切れなかった悔いは大豆生田の心を傷つけるものだったのだ。また、守屋もまた納得しかねるような表情で帰ってきている。たしかに内をまくり切った。勝ったと思った瞬間もあっただろう。団体優勝に貢献できたのはよかったが、優勝戦で敗れたことはまた別の話。いや、団体戦の勝敗よりも大きいだろう。
団体戦でも敗れ、また優勝も逃した山崎、野中も実に悔しそうな表情であった。これは両方の敗戦を悔しがっているとも受け取れるのだが、やはり優勝戦で敗れたという事実が大きいと僕は思う。山崎にしても野中にしても、勝ち筋が見えた瞬間があった展開だっただけに、敗戦がただただ大きくのしかかったはずだ。
そんなこんなで、吉川貴仁、デビュー初優勝おめでとう! 皆からの祝福を受け、童顔であり、また人の良さそうでもあり、という笑顔をひたすら振りまいていた。最後まで残った全員に称えられていたと言っていい。今節は陸の上でも本当によく働いてましたからね。
で、初優勝なのでもちろん水神祭。レスキュー上から大時計の前で、ということはファンの目の前で先輩たちから水面に投げ込まれている。ワッショイスタイルだったから、怖かっただろうなあ。僕はピットで帰還を待ち受けていたのだが、レスキューから真っ先に降り、先輩たちが降りる際には直立不動で頭を下げていたのがなかなかかわいかったです。登番は今節出場選手中、下から3番目。祝ってくれたのは全員が先輩だから、しっかり礼を尽くしたわけだ。僕も祝福の声をかけさせてもらった。「これからもよろしくお願いします!」とニッコリ頭を下げた吉川、実に好漢である! 近いうちに大きいレースのピットで必ず会いましょう! できれば今月27日からここびわこボートで開催されるイースタンヤングも優勝しちゃって、ヤングダービーのピットで!(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)