モーターがなぜか装着場にズラリ。整備室の出入口前に並べて置かれていた。普通ならもちろん、モーターは整備室内に置かれる。それがなぜか外に出されているのだ。なかなか見ない光景である。
今日は5日目。最終日の前日。ということで、多くの場がそうであるように、ボートの洗浄日である。レースを終えた艇、試運転を終えた艇は選手一丸となって洗剤のついたスポンジで磨かれる。それと同時に、びわこでは今日が整備室清掃デーのようだ。整備室の奥のほう、主に整備や格納作業が行なわれるスペースはテーブルなども移動させてがらんどうのようになっており、そこを職員の方たちがモップで掃除していた。というわけで、まだ格納されていないモーターは装着場に一時移動させたという次第。試運転を遅くまでやっていた選手などは、整備場に格納作業を行なっており、これはなかなか新鮮な光景なのであった。
試運転を遅くまでやっている選手は多かった。茶谷桜、土屋南など。異質だったのは今井美亜と吉田凌太朗。併走で何周も周回を重ねていたのだが、普通の足合わせとはどうも様子が違う。水面が混み合っているときには、試運転では2マークは旋回せず、そのままスローダウンするのが常だが、終盤の時間帯は試運転をしている艇自体が少なかったので、今井と吉田は2マークも旋回し、ノンストップで併走を続けた。普通の足合わせと違ったのは、外側の艇が内の艇をツケマイで沈めたり、内の艇が握ってくる外の艇を張ったりしていたことだ。外が握らないときには交差旋回となっていたのだが、そもそも足合わせで交差旋回はしない。内の艇は内を小回りし、外の艇は外を握って大回りするものだ。
つまり、これは明らかに競り合い、あるいは競り合いの練習。ホームでもバックでもレースで併走になったとき、ターンマークでどう攻めるか。先行している側はどうしのぐか。そんな練習をしているようにしか見えなかったのだ。眺めていた選手もそう感じたのだろう。松瀬弘美と五反田忍が水面際でこれを見つめてもいた。試運転を先に切り上げていた土屋南も2マークの攻防に見入った。12R発売中に切り上げた今井と吉田。このスペシャルな足合わせについて、充実感たっぷりに振り返り合っていた。吉田が「ああ、楽しかった!」と言うと、「楽しかったよね!」と今井も呼応する。その後に二人に話を聞くタイミングはなかったが、見た目の通りにいわば“1対1のマッチレース”をしていたのだとすると、これは二人をおおいにスキルアップさせるものになったのではないか。レース中は調整作業に忙しい選手が多いので、たとえば後輩が先輩に“稽古をつけてもらう”ことをお願いするというのはなかなか難しいことだと思う。だが、それが可能ならば、こんなにも密度の濃い勉強になるのも確かなことだ。美亜ちゃん、来月のボートレース甲子園では峰だ桐生だ篠崎だといったあたりに挑んでみてはいかが?
というわけで、5日目終盤の光景に触れたところで準優勝戦。11Rは山崎郡がきっちりと逃げ切ってみせた。まずはホッと一息、といったところか。ボート洗浄を終えて着替えに向かう様子は充実感たっぷり。ドリーム1着の面目を保ったというところか。吉川貴仁は、今節のなかでは登番が下のほうということもあってか、先輩たちに次々と声をかけられていた。そしてニッコリ。117期生の面々と仲良さそうにしている光景も数多く見ているが、その先輩たちにも祝福されていた。
野中一平は3着でなんとか優出。装着場のモニターでリプレイが流れるや、素早くベストポジションに陣取って食い入るように見つめていたのが印象的だった。1マークはもちろん、3番手競り気味になった2周1マークなど、確認したいポイントはたくさんあったはずだ。
地元勢の山田晃大、松山将吾は残念無念。結果的に優勝戦に滋賀支部は不在となってしまった。がっくりの二人を慰めるのは香川素子。装着場の真ん中で待ち構えていた、というわけではないかもしれないが、着替えを終えてあらわれる山田、松山に次々と声をかけ、イジるような物言いで二人の表情を柔らかくしていた。まさに素子姐さん! 山田も松山も、今月27日からここびわこで開催されるイースタンヤングに出場する。姐さんの励ましを胸に、そちらできっちり雪辱を果たしてください!
12Rは大豆生田蒼がこちらもきっちりと逃げ切り。優勝戦のポールポジションを手にした。レース前の大豆生田はややカタい表情。準優勝戦の1号艇だから、当然のことだろう。明日は、通常のレースよりはずっと注目があつまる優勝戦の1号艇。やはり緊張感に包まれることになるだろう。立ち向かってくるライバルは、女子は先のSGオールスター組、それにスピード自慢のルーキーたち。プレッシャーはさらに強くなるかもしれない。しかし今日はしっかり逃げ切ったのだから、怯まず立ち向かってほしいところだ。
SGオールスター組とは、2着の守屋美穂と3着の大山千広。序盤は決して楽な流れではなかったが、しっかりと優出してきたのだからさすがである。実は二人とも、戦前ギリギリまで調整をしていた。守屋は展示ピットにつける前に何度も試運転をしていたし、大山は締切7分前にようやくペラ調整を終えて、係留所に全力疾走しているのだ。その成果が出ただろうか。レース後に対戦相手に頭を下げて回る二人はともに神妙な表情。明日は笑顔が出るかどうか。
惜しかったのは渡辺千草。いったんは3番手優勢なポジションにいたのだから、悔しい後退だった。さすがに百戦錬磨だけあって、レース後は淡々としたもの。ボート洗浄も静かに行なっている。しかし、どれだけ味わっても、こうした悔しさに慣れることはないのではないか。悔しさを表に出さず抑え込むことが、ベテラン勝負師の矜持だというのは考え過ぎだろうか。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)