BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――フレッシュな優勝戦!

10R 貫録!

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 勝って柔らかに微笑むのみ。明日の優勝戦に向けても、気負いは見せない。毒島誠には、もはや貫録のようなものが備わっている。スリットから西村拓也にのぞかれるような気配があったし、だから足的には決して上位とは言えないと思えるのだが、しかし危なげのない逃げ切り勝ちだ。戦いっぷりも、振る舞い方も、感心してしまうほどのとてつもなく高い安定感を覚えざるをえない。
 今節は、今年最後のデイ開催SG。ナイターキングと言われている毒島はそれを問われて、「明日はダメじゃないですか」と会見では爽快に笑い飛ばした。そうしたジョークを阿吽の呼吸で即答で飛ばせるあたりも余裕たっぷり。結果的に優勝戦1号艇になったことを考えれば、明日は楽勝ではないかとさえ思えてきた。まあ、もともとSG制覇がナイターばかりというのは、たまたまである。

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 前田将太は、徳増秀樹に相当に粘られたこともあって、レース後はともかく安堵の表情であった。SG優勝戦は何度か経験してきたから、手放しで喜ぶような精神状態ではない。それよりも、激戦の2着争いをしのぎ切った心地いい疲れが生じたことだろう。そう、心地いい疲れ。
 結果として、明日の優勝戦は全員が“やまと世代”の一戦となった。やまと世代とは、やまと学校(現ボートレーサー養成所)で入所から卒業まで訓練を受けた世代で、石野貴之の90期以降が該当する。前田はメンバーを見て、「フレッシュ!」と言った。たしかに。だが、これに続けて「僕がもういい歳なんだから、フレッシュじゃないか」と自虐(笑)。前田将太がもう31歳かー。いやいや、まだまだフレッシュ、でいいだろう。優勝戦メンバーでは下から2番目。明日はフレッシュな攻撃を見せてもらいたいものだ。

11R 日本一の2コース差し

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 公開勝利者インタビューに向かう馬場貴也に、スタンドから年配のお父さんと思しきファンの声が飛ぶ。
「馬場ーっ! 2コースは本当に強い! 俺、知ってんだ!」
 ワタシも知ってます(笑)。馬場貴也の2コース差しは、もはや日本一だ! 昨日も井口佳典の逃げに舳先を届かせかけ、今日は松田祐季のふところにしっかりと届かせた。今日は昨日よりもさらに仕上がっていたというから、むべなるかな。馬場のスピードターンを活かせる出足が来れば、2コース差しは伝家の宝刀となる。明日も2号艇ですよ。
 カメラを構えるこちらを見つけた馬場は、「若松のインタビューが良かったんです(好結果をもたらしてくれた)」と嬉しいことを言ってくれる。ダービー直前の若松周年、選手宿舎で馬場にインタビューしたのだ。フライング気味におしらせします。11月11日発売のBOATBoy12月号の巻頭インタビューは馬場貴也! チャレンジカップの前年度覇者という人選だったが、これはダービー優勝報告インタビューになるかも!?
 会見では「守田さんのダービー連覇を阻止しようと思ってここに来ました」とジョーク。仲のいい先輩後輩なのですなあ。そのダービー前年度覇者の守田先輩は、昨年の最終日は12R1号艇だったが、今年の最終日は1R1号艇(笑)。明日は馬場を全力でサポートするだろう。

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 松田祐季は無念の2着も、優出は確保。レース前は当人より緊張していたという噂の萩原秀人先輩が、ともあれホッとしたような表情で松田を出迎えた。もちろん1着のほうが良かったに決まっているが、後輩のSG初優出は喜ぶべきことではある。10Rで優出を逃して悔しい思いをした西村拓也も、松田の横で笑顔。98期の同期生、喜びと同時に、大きな刺激を受けたことだろう。
 そういう松田は、後輩の下出卓矢が先日、平和島周年でGⅠ初優勝を果たしたことに大きな刺激を受けたとか。松田もヤングダービーでGⅠ制覇を果たしてはいるが、周年記念制覇では先を越されたという感覚があるかも。ならばSG初優出は誇れることだし、SG初優勝まで突っ走れれば、福井支部の若手たちがさらに切磋琢磨することになろう。

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 地元の砦・山口達也は3着に敗れた。5カド選択で渾身のまくり差しを放ったが、わずかに及ばず。ピットに戻った山口を、寺田千恵ら岡山勢や同期の池永太が慰めた。それには微笑を返していた山口だが、彼らと離れると顔つきがすっと変わる。児島ダービーが決まったときから、この一戦にとことん照準を絞ってきたのだから、これまでの敗戦のなかで最も巨大な痛みであろう。エンジン格納を終えた山口が、こちらに向かって右手の親指と人差し指を狭めて苦笑い。あとちょっとだった、というポーズだ。たしかに、あとちょっとであった。しかし、とことん重い、あとちょっとだった。

12R 笑うしかない

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 進入が深くなるのは想定内。覚悟のうえでインを死守し、コンマ09のスタートを行った。田村隆信の戦いぶりに瑕疵はほぼない。4カドに引いた石野貴之はさらに上を行くコンマ02のスタート。一気に締められてしまっては、インの生きる道はほとんど残されていない。これもボートレース。これぞボートレース。田村はその綾に搦めとられた格好となってしまった。
 予選トップの12R1号艇が連を外してしまうということの意味を、選手であれば誰でも理解している。だから田村の周りの空気は当初、少々重苦しく、重成一人が気遣っている様子もあった。同期の井口佳典も、慰めの言葉をかけていた。それを受けて田村は、笑っていた。敗れて笑うな、ましてや圧倒的人気を集めて敗れて笑い事ではない。ファンのそうした意見はよくわかるし、僕も同じ気持ちになることは多々ある。しかし、今日の田村はもはや、笑うしかなかったであろう。決定的なミステイクがあったのならともかく、この負け方はもう、苦笑い込みの笑いが浮かぶのがむしろ自然だと思う。それが、悔しさを全身で感じている証しなのだ。気遣う周囲を逆に気遣う、という部分もあったかも。その田村の笑みは、ただひたすらせつないものだった。

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 スリット写真を覗き込んだ瞬間、石野貴之はとたんに苦笑いだ。SG準優のコンマ02。メモリアル準優で3選手の大きな痛恨があったばかりだ。石野も早いと感じて何度か放ったそうだが、それでキワキワのタイミングだったわけだから、そりゃあ苦笑いしかない。
 それにしても石野の勝負強さはタダゴトではないな。決然とカドに引いてまくる、はまさに石野らしい戦いっぷり。それで勝ち切れたということもあって、ピットに戻ってきた直後には充実感あふれる表情も見せている。今日は仕上がりが完璧だったともいうから、その部分への満足感もあっただろう。

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 2着の木下翔太もコンマ01! 木下も当然苦笑いで、やはり直前に放っているという。残ってくれてよかった、という安堵の回顧は、まさしく本音であろう。
 優勝戦メンバーをよりフレッシュに見せてくれるのが、この木下の存在だ。ヤングダービーを経由してのダービーで、見事に優出。グラチャンに続く2度目の優出で、ヤング世代では完全に突き抜けた存在になったと言うべきだろう。その木下の賞金ランクは24位。明日は完走するだけで18位圏内に突入し、着が上であればあるほど、グランプリ初出場が近づく!「あ、それ、今言われて思い出しました」と会見で木下。自分の立ち位置は把握していたが、「僕はまだそれ(グランプリ勝負駆け)を意識するような選手ではないから」と言う。まだGⅠタイトルも獲っていない若手選手であり、同じ大阪支部には目も眩むような強い先輩ばかりであり、そうした感覚になるのは自然である。だが、ここまできたら、しっかりと目指してほしい。地元で行なわれるスーパーバトルへの切符をもぎ取ることを! 明日の優勝戦の結果は、グランプリ戦線に巨大な影響を与える。「今年のグランプリはフレッシュなメンバー」と思わせられる存在は木下翔太なのだ。6号艇から、できうる限りの渾身の戦いを!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)