BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

住之江グランプリTOPICS 4日目

報われなかった疾駆

11R 並び順
①毒島 誠(群馬)07
②平本真之(愛知)12
④白井英治(山口)07
⑥瓜生正義(福岡)22
③井口佳典(三重)11
⑤田村隆信(徳島)11

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 ファンファーレが鳴って6艇が一斉にピットから飛び出す。2マーク側のスタンドにいた私は、3号艇・井口への若い声援の多さに驚かされた。
「いぐちぃぃぃ、ぶち込んだれ~~!!」
「まくっちまえ、いぐちぃぃ!!」
 もちろん、毒島のアタマ舟券を買っているファンが多いに決まっているのだが、穴党の若者は井口のぶち込み一撃に期待しているのだろう。そして、その井口と田村がこぞって瓜生の前付けを看過し、舳先を翻した瞬間に若者たちのボルテージは最高潮に達した。
「よっしゃ井口、それでええっ!」
「行けるで井口、まくったれまくったれっ!!」
 大歓声の中で12秒針が回り、彼ら若者たちの期待どおりスリットから突き抜けた、かに見えた。が、すぐにそれが目の錯覚だとわかる。ダッシュ2艇が大きく凹んだ瓜生を楽々と交わした先に、チョモランマのように高い壁が待ち構えていた。
 コンマ07全速の白井。
 井口の絞めまくりはわずか数秒で跳ね返された。今日の白井の出足~行き足は実に素晴らしく、同じく07まで踏み込んだ毒島(今日もっ!!)よりもその足色は際立っていた。勢い、内の平本を叩いて得意のまくり差しハンドルを繰り出す。初動のタイミング、スピードともに申し分のないターンではあったが、それでもわずかに毒島のインモンキーを捕えきることはできなかった。

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 そして、レースはその直後に大きな梗塞を強いられる。白井の引き波をモロに食らって外によろけた平本が、大外をぶん回していた田村と接触。運悪くその舳先が田村の艇尾に何らかの悪しき影響を与え、田村の舳先が天頂を貫くほどに舞い上がって崩れ落ちた(肉眼では確認できなかったが、VTRで観る限りは田村の予後が心配になるほどのド派手な事故だった)。驚くことに、この凄まじい衝撃で落水した田村は再び乗艇して走りはじめている。なんという執念、なんというド根性!!

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 1周2マーク、先頭の毒島が回り、白井、井口、瓜生、大きく離れた平本の順で旋回したところで実質的なレースは終わった。田村の落水を確認したレスキューが現場に駆けつけていたのだ。レスキューのみで事故艇のいない不思議な現場を、5人の選手はゆっくり間合いを取って通過した。いや、正確には6艇だ。落水裁定を知ってか知らずか、はるか後方の田村も走り続けた。必死に。

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 2マーク寄りのスタンドでは、田村が鬼気迫るモンキーターンで旋回するたび、大きな拍手が沸き上がった。
「頑張れ、タムラ~~~!」
「まだ間に合うぞ、田村!」
「おーーーい毒島、ゆっくり走ってやれ~~~!」

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 2周目より3周目の方が拍手&声援のボルテージは上昇し、さらに3周を走り抜いて帰還した田村には嵐のようなスタンディングオベーションだ。なんと感動的な! やんと優しきボートレースファンたち!! もちろん、2マーク寄りの人々は、私も含めて落水~再乗艇の時点で失格とは露も知らない。
「お帰り田村、よう頑張った!」
「偉いぞ田村、明日も頑張れよ~」
 ほぼ全員の拍手と歓声を浴びた田村は、こちらを向いて詫びるように頭を垂れた。

鬼時計

12  並び順
①峰 竜太(佐賀)17
②吉川元浩(兵庫)17
③石野貴之(大阪)13
④桐生順平(埼玉)10
⑥菊地孝平(静岡)04
⑤池田浩二(愛知)06

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 11Rの瓜生より激しく動くと予想していた菊地が、真逆の作戦に打って出た。前付けどころか、早い段階でのダッシュ選択。ピット離れで池田が遅れたため、5コースで満足した? いや、9R後の特訓とスタート展示でも単騎ガマシに構えていたから、すでに腹を括っていたのだろう。
 たとえ6コースの単騎でも、スタートを決めて自力で攻める。
 と。さらにバナレで遅れた池田がこの作戦に追随し、望外の?5カドを得た菊地が行かないわけがない。攻めも攻めたりコンマ04。カド受けの桐生より半艇身ほど突出したのだが、得意の絞めまくりに移行する間もなく内4艇に伸び返されていた。おそらくスタート前にアジャストしたのだろうし、トップ級のモーターを得た内4艇の行き足が半端なかったに違いない。

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 菊地(外の池田も)がやるせなくスリットから直進している間に、スロー勢はそれぞれの支度に取り掛かっていた。もちろん峰は艇界最速レベルのインモンキー、吉川の差しハンドル、今日の行き足がバカに良く見えた石野がその吉川を叩くように握り、桐生はスピーディな二番差し。パワーもスピードも完備した4人の交差旋回は、ゼロ台まで踏み込んだダッシュふたりを置き去りにした。ただひとり、今日の吉川はまったく調整が合っていなかったようで、ターンするたびに流れたりキャビったりでいい所がなかった。夕刻から急速に冷えたせいか。

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 一方、豪快なインモンキーで独走態勢に入った峰は、その後も飛ばしに飛ばした。その走破タイムは泣く子も笑う1分45秒9!! 11Rの「タイムトライアル毒島」も事故での減速がありつつ1分47秒2という出色タイムを出しているのだが、できればまっさらな3周同士でその時計を比べてみたかった。

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 レース後、平本は不良航法で減点7、事実上のファイナル脱落となった。2日間の成績トップ6は毒島、峰、石野、桐生、吉川、白井。さらに井口、菊地、瓜生と連なる面々は、まさにここ数年のGPファイナルの常連レーサーばかり。スピードと技術と強運を兼ね備えたレーサーたちが、今年もぬかりなく1億円の椅子取りゲームに近づいている。


GPシリーズ勝負駆け

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 今日の準優ボーダー争い(最終的に5・60まで下落)の「勝手にMVP」は枝尾賢! 2002年のデビューから17年後の今年9月に江戸川でGI初制覇。そのご褒美という感じで今節の初SGの舞台に参戦したのだが、初日からの成績はオール3連対の32331着!! 今日の4Rは5コースから豪快にまくりきって準優の当確ランプを点した。この成績でありながら予選17位で明日は6号艇。昨日の不良航法(-7点)がなければ2号艇くらいの良績なのだが、それと同じほど機力が仕上がっているという見方もできる。準優では間違いなく人気の盲点になるはずで、パワー&勢い的には是非ともヒモ穴に据えてみたい。

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 そして、現実に2号艇を取りきった女子レーサーが遠藤エミ!! 今日の7Rは6コースの苦しいポジションから萩原秀人の絞めまくりに連動し、全速ぶん回しで3着を取りきった。これまで3度のSG優出チャレンジは失敗しているが、もっとも好枠の2号艇で4度目の正直となるか。女子レーサー史上3人目の快挙に期待したい。

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 さて、さらに節間成績の上に目をやると……最後の最後にてっぺんに立ったのは、地元の将来を担うグラッツェ木下翔太!! 昨日までトップの磯部誠、同2位の深川真二、同3位の篠崎仁志らトップ候補が勝ちきれずに迎えたシリーズ最終予選の第10R。そのトップ条件は「①木下vs③新田雄史でどちらか勝った方が自力トップ。どちらも負ければ結果待ちの篠崎がトップ」だった。こうなってしまえば、ここは地元水面にしてイン天国の住之江。木下がインから鮮やかなインモンキーで頂点に立った。あと2回、同様に逃げきれば28歳にしてSG初制覇。大阪支部では2010年オーシャンカップの石野貴之以来、約10年ぶりSGウイナー誕生となる(予選3位の西村拓也、同16位の上條暢嵩も然り)。日曜の夜にその石野とのW優勝を決め、住之江の夜空に高らかな「グラッツェ」の雄叫びが響き渡る可能性は高い。(photos/シギー中尾、text/畠山)