BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――第2戦の明暗

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 いちど落水した時点で失格。ルールとしてはそういうことだろう。しかし、田村隆信は自力でボートに這い上がって3周を走った。これをどう受け取ったらいいのか。2マークの奥で観戦していたこちらには、1マークの出来事はヴィジョンの映像に映っている範囲でしかわからない。だからもちろん、田村は失格なのだろうと当初は思った。しかし、黄色のカポックは、大きく離されてはいなかったけれども、確かに3周したのだ。落水失格という結果に、それを聞いたときには何のことだかわからなかった。田村自身は正直、不服そうだった。

 僕の疑問は失格なら、なぜ3周走らせたのかということになる。失格と表示してピットに帰すべきではなかったのか(リプレイを見ると1マークにレスキューがいるのだが)。聞けば、実況でも「田村はゴールできそうです」という意味の言葉があったという。実況は審判室で行なわれているのが通常だから、その時点でどういうジャッジだったのだろうか。今もよくわからないでいる。田村としては、6着なら4点で13点、明日につながったものが、失格で0点(平本真之が不良航法をとられており、田村は選手責任外)なら9点、明日は1着でも厳しい状況なのだから、やはり理解しがたくて当然だろう。別れ際、田村は「(明日からは)無事故で」と笑ってみせてくれたが、それは心の底からの笑みには見えなかった。

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 初戦5着の白井英治は、2着で明日に望みがつながった。それでも、レース直後は不満げに眉間にしわを寄せ、心を軽くなどしていないようだった。2走14点だから、ボーダーを21点とするなら2着以上が必要。簡単な状況ではないことも確かだ。だからこそ、2着で緩めないというのもよくわかる。それが白井英治の信条でもある。

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 11Rを勝ったのは毒島誠。これで2連勝! もちろん、明日は無事故完走でファイナル当確である。ただし、それでもまだ満足はしておらず、まだまだ埋めるべき部分がある様子だ。優勝するにはファイナルに行かなければかなわないのだが、しかし目指すは優勝であってファイナル行きではないというのも事実。連勝で浮かれている場合ではないのである。

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 菊地孝平のあの様子を、なんと表現したらいいのだろう。進入からカギを握っていた菊地は、池田浩二がピット離れで後手を踏んで結局5カド。スタートも攻めた。しかしそこから伸びていかず、4着に敗れてしまった。明日は勝って相手待ちという状況。それも先に記すが、ふたたび6号艇である。結果が出なかった今日を受けてまた戦略を練り直すには違いないが、同時に戦略を練りに練っても今日は結果が出なかったのも確かなこと。ということは、菊地の様子はすなわち、茫然、だろうか。落胆と先の見えなさが重なり合った茫然。ここから菊地はどう立ち直っていくのだろうか。

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 石野貴之は2着ではあったけれども、ある程度の感触を得られたようだ。やはり、本体整備が当たったと考えていいだろう。勝利には及ばなかったという不満はありながらも、しかし足取りは決して重くなかった。枠番抽選を終えた後の表情も、澄んでいたと思う。前を見れば、連勝の毒島誠が軽快に走っているわけだが、追撃態勢は整ったということになろうか。

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 12Rを勝ったのは峰竜太。鮮やかな逃げ切りだった。スリットから明らかに前に出て行っており、ターン出口からもスムーズ。峰自身、感触は抜群のようで、1分45秒9という上がりタイムを聞いて、「転んでもいいっていうんなら、1分43秒台が出ますよ」と誇らしげに言った。転んだら43秒台もクソもないわけだが(笑)。翻訳すれば、転覆覚悟で全速全速で走ればとてつもないタイムが出るほどエンジンが噴いている、ということなんですけどね。ようするに、峰竜太ゴキゲン、なのである。前半の記事では武田修宏さんが元気がないと感じるほど物静かだった峰。勝ったあとは正反対(笑)。これもまあ、いつもの峰竜太なのであって、2連覇に準備万端ということだと判断したい。

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 枠番抽選では、その峰は5号艇。奇しくも昨年の第3戦と同じ枠番を引いた。すでに伝説ともいえる5コースまくり差しでファイナル1号艇をもぎ取った、あの黄色いカポックだ。「今でもあのまくり差したビデオを見ると、涙が出てくるんですよ。苦しいこともいっぱいあったじゃないですか。それがあの瞬間に報われたって」。人知れず泣き虫王子(笑)。当然、去年の再現を狙ってくることだろう。もし現実になれば、2020年もビデオを見て涙するんでしょうね。

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 その峰も含めて、比較的淡々と進んだ抽選。井口佳典は1号艇を引いても、昨日の峰のようなガッツポーズは見せなかったし(そもそもそういうキャラじゃない)、同じく1号艇の瓜生正義はニンマリとはしていたものの、昨日の峰のようなガッツポーズは見せていない(まったくそういうキャラじゃない)。

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 12人以上に大きなアクションを見せたのはもう一人の竜太。中田竜太だ。報道陣用のモニターをこっそり覗きに来た中田は、桐生先輩が引く順番までに白が出ないことを祈った。実際に出ないと、次は桐生先輩に白が来るように祈る番。中田が強く願いつつモニターを注視していることをおそらく知らない桐生は、ガラポンを回して……赤を出した。ヴァァァーッ、と天を仰ぐ中田竜太。艇界の竜太はことごとく可愛げがありますな(現役で竜太は2人だけです)。

 

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 シリーズ組。予選トップは木下翔太! このイン激強の住之江で、あと2回逃げればSG制覇。走ったのは10Rだけど、予選全体のラストレースを逃げて予選トップ→準優1号艇→逃げれば優勝戦1号艇の王道ラインに乗ったわけである。ご近所さんで子供のころから翔太をよく知っているという内田和男さんが喜ぶこと。木下はまずは明日、大阪支部の威信と内田さんの期待を背負って走ることになる。

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 予選トップの可能性は、深川真二と桑原悠にもあった。というか、9Rが始まるまでは深川1位、桑原2位が暫定順位で、直接対決の様相だったのだ。これが深川5着、桑原6着とそろって大敗したことで、木下は暫定首位に浮上している。敗れればいつでも険しい表情を見せる深川だが、普段よりもずっと憤怒の表情に見えていたし、控室へ向かう足取りもかなり早足に見えた。桑原も、表情をカタくしていた。

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 この結果、準優1号艇が回ってきたのがやはり地元の西村拓也。飄々とした様子を崩してはいなかったが、その心中やいかに。層の厚い大阪支部、台頭してきた後輩たちの活躍を指をくわえてみているわけにはいかない。先輩の意地を、またこの支部で奮闘してきた意地を、見せてもらいたい。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)