●9R
寺田祥がインから先マイにかかるところを、土屋智則が意表のツケマイ。そうだ、土屋にはこれがあるんだ……と不明を恥じたりもしたわけだが、寺田はどこまで想定していたか。リプレイを見るとしっかり動じないターンをしているようにも見えるが、レース後、土屋に頭を下げられると、途端に苦笑いを見せていた。あっぶねー、といったところか。とにもかくにも地元SG優出! というわけで、そうした高揚感は特に見えなかったが、逆転グランプリに向けてもまずは第一関門を突破だ。
土屋は会見で「2等でも届かない」と言った。何に届かないかといえば、ベスト6だ。昨年の土屋は、クラシックを制していきなりグランプリ当確を出しながら、最終的に賞金ランク13位での出場となっている。そして、トライアル1stで敗退。今年も賞金ランク12位でチャレンジカップ参戦、このままでは昨年の二の轍を踏みかねない。そのためにも、狙うは優勝してベスト6入り、のみだ。飄々としたところのある土屋だが、胸の内は熱い。
逃げた寺田とのワンツーを願った白井英治は、6コースから2番手争いには持ち込んだものの3着に敗れた。グランプリ行きは消滅。一昨年のグランプリ覇者が屈辱の2年連続不出場だ。しかも地元チャレンジカップでの優出漏れだ。白井にとって悔いと無念と虚しさばかりの11月23日になってしまった。ヘルメットを脱ぐと、ひたすら悔恨に耐える険しい表情があらわれた。カポック脱ぎ場では、他の選手がレースを振り返り合っているなか、無言でヘルメットを磨いていた。その様子はあまりにせつなく……。ここが下関だからなお、その姿は哀しかった。
●10R
佐藤翼がスリットでのぞいた瞬間、おそらく清埜翔子が声をあげた。まずは「はみ出してないか」という不安の声だっただろう。すぐにスタート正常がビジョンに表示され、「よしっ!」という声になった。行ける! 2コースの菊地孝平は超えたが、逃げた坪井康晴には届かなかった。それでもしっかり2着! 明日完走なら、確実にF休みの賞金ランク16~18位は超える。つまり初のグランプリ出場、当確!
会見にあらわれた佐藤はとにかくテンションが高い! もちろん、ゴールしなければその座も危ういが、そんなのは普通考えない。佐藤の中で、グランプリに出られるという、今節の最大の目標をクリアしたことが、とにかく気分を高めていたのだ。これぞチャレンジカップ! 佐藤はこの大会の醍醐味をおおいに体現してみせたわけだ。
佐藤に叩かれた菊地は、それでも瓜生正義を抜いて3着に。ベスト6勝負駆けの菊地にとって、優出を逃したのは痛いが、しかし特別選抜戦の好枠が手に入る3着は大きい。最善を尽くす、逆転3着だったのだ。ピットに上がると、まずは瓜生のもとに駆け寄って直立不動から深々と頭を下げている。次には佐藤のもとに向かい、してやられたとばかりに脱帽の雰囲気を醸し出していた。複雑なレース後ではあったが、菊地のことだから明日に向けて気持ちを切り替えたはずだ。
片岡雅裕が思い切り顔をゆがめていたのが印象深い。昨日も書いたが、それほど感情をあらわにしないタイプなだけに、優出を逃した悔しさがうかがえる。2年連続で出場していたグランプリ、しかし今年はそれが途絶えた。昨年のグランプリは優出を逃し、しかし来年のためにと優勝戦は水面際で間近に実感する姿があった。その思いは塵芥と化し……。来年のリベンジを心に誓う日にしてほしいと願う。
勝った坪井は、佐藤が攻める気配を感じて一瞬、焦ったというが、そこは百戦錬磨。冷静に先に回って優出を決めた。レース後も基本的には冷静。ただ、「明日は欲を出していきたい」と言った。繰り上がりで出場を果たし、優勝戦進出。大下剋上でのグランプリ行き、もちろん本気で狙っている。
●11R
池田浩二が攻めて2着で優出確保。ピットに上がるとやけにテンションが高い! エンジン吊りに加わった仲間たちにはおどけたような敬礼! 菊地孝平と森高一真にからかわれるように声を掛けられると、右手で左腕をポンポン。腕が違うよ、って!? うーん、ゴキゲンな池田浩二は素敵だ。
今日は「理想のターン回り」だったそうだ。足に関する発言として、池田がこんな表現を口にするとは! ファンならご存じの“泣きの池田”。このコメントは、かなりの仕上がりということを証明してはいないか。ベスト6については、「そういうのは特に」と言ったのだがどこまで本音か。狙えるとなったら渾身で獲りに行く、それが池田浩二だと思うのだが。
一方、平本真之はいつも以上に悔しさをあらわにしているように見えた。感情を隠さない男だから、悔しがるのは想定内だが、まるで優勝戦1号艇で取りこぼしたときのように顔をゆがめ、何度も何度も首を傾げたのだ。しかも控室へ戻る歩様は牛歩の如し。こんな遅いスピードで歩く平本は初めて見た。賞金ランク6位。優出ならベスト6はほぼ確実だった。しかし、ボーダー上で追われる身となってしまった。いや、崖っぷちだ。池田との賞金差は約700万円差。優勝戦は6着でも780万円だから、平本は明日の2走で、特に特別選抜戦でできる限り上積みしておかねばならない。外枠3人が優勝すれば、一気に抜かれる……。それを思えば、悔しさが激しくつのるのも当然ではある。
勝ったのは河合佑樹! 優勝戦1号艇ゲットだ! 控室に引き上げる際、一瞬目が合って、河合はにこやかに汗を拭う素振りを見せた。ホッとした~、というところだろう。緊張はあまりなかったというが、進入に動きがあっただけに不安がなかったはずがない。そこを押し切ってみせたことは、河合にとっては会心だったし、だから逆におどけて見せたのだろうと思う。
10R後の会見で、坪井は「僕が勝ちたいし、でも佑樹が勝ったらそれは嬉しいし、どちらにしてもガチンコで」と語っている。それを聞いた河合は同じ気持ちだとしたうえで、「ガチンコで戦います」と力強く語った。師弟ガチンコ勝負! しかも1号艇と2号艇! もちろん相手はあと4人いるが、すぐ右側に師匠がいることは心強いことでもあるに違いない。
GⅡの勝負駆けは、一応というか何というか、予選ラストの8Rまで持ち込まれている。5号艇の大瀧明日香と6号艇の細川裕子が1着条件。外枠でのピン勝負という厳しい条件であるうえに、1号艇は田口節子。ハードルはかなり高かったと言わざるをえない。
惜しかったのは大瀧だ。4カド松尾夏海が3コース山川美由紀がヘコんだ隊形を利して締め込んでいったため、大瀧に展開利がありそうだったのだ。しかし田口が強かった。松尾を制して先マイすると、その時点で決着逃げ。大瀧は差したものの田口には届かず2着だった。得点率的には川野芽唯に並んだのだが、上位着順差で大瀧は7位次点。無念の予選落ちでクイーンズクライマックス行きも消滅した。控室へと消えるまでヘルメットをとらなかったので表情はうかがえなかったが、2年連続出場が果たせなかったのだから悔しくないはずがない。
さて、選抜戦からも漏れてしまった賞金ランク実質12位の寺田千恵は、風前の灯となってしまった。田口は優勝戦完走で寺田を抜く可能性があるのだ。ついにクイーンズクライマックス皆勤が途絶え、この偉業を続ける者が誰もいなくなってしまうのか。寺田はといえば、レース後は同世代の岩崎芳美や海野ゆかりと談笑しており、そのあたりへの思いのようなものは感じられなかった。あるいはすでに覚悟の上ということなのか。なんだかこちらのほうが感傷的になってるかも……。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)