「そこはあまり……」
意識していないです、と続くのだろう。夏のレディースチャンピオン、冬のクイーンズクライマックス、女子PGⅠ年間独占を問われたときのことだ。これはもちろん史上初。そのこともそこまで響いてはいないようだ。
「それもあまり……」
これで女子PGⅠ5度目の優勝。これは史上最多だ。それを問われても、苦笑いを浮かべるばかり。それではあんまりと思ったのか、最後に「嬉しいです」と付け加えたが、無理やり感は否めなかった(笑)。
遠藤エミにとって、そうしたエポックメーキングは特別目指すものではないのだろう。しかも、女子という括りにはなおさらこだわりはないはずだ。「1走1走、一生懸命走るだけです」「もっと強くなりたい」、そういう積み重ねの先にあるものは、きっと巨大なものだ。決して女子というカテゴリが小さいというのではなく、そうした区分けのようなものとは別のところで走っている。
それが遠藤エミだ。
もちろん、女子PGⅠコンプリートも女子史上最多GⅠ制覇も、おおいに称えるべきものである。本当に凄い。遠藤だからこそ成し遂げられた快挙。そんなふうにも言いたくなる。しかし、それは「1走1走一生懸命」のなかでの通過点に過ぎないのだろう。どんなに凄いことをやってのけても、巨大な到達点に辿り着くまでは、遠藤はずっとこんな具合に、我々の称賛に戸惑う様子を見せるのかもしれない。
いやはや、ともかく強かった! 細川裕子の攻撃も強烈に見えたが、きっちり受け止めて押し切った。いや、押し切った、という表現はどこかギリギリ感がつきまとうから、ここは堂々と逃げ切った、のほうが適切か。
遠藤は「ホッとしました」とレースを振り返っているが、昨日の失敗が頭にあったのだろう。同じ轍を踏まなかった、その安堵。当然、遠藤でも優勝戦1号艇のプレッシャーを感じもするだろうし、それを振り払ったこともホッとした要因。もしかしたら、平山智加の前付けに起こしがふかくなったことも、ちらりと不安をよぎらせたか? ともかく、1号艇にすわった以上、勝利を至上命題としてピットインしたのは間違いない。それを果たせた安堵。それは傍から見れば、ただ淡々としたレース後とも見える。それは同時に貫禄をも感じさせるから、とにもかくにも快勝だ。やっぱり強かった!
そういう、女子で最も実績を残す強豪が強い勝ちっぷりを見せつけたレースだったからか、敗者もどことなく淡々として見えたのだった。深刻そうなレース後だった選手は、5人のなかには見当たらなかった。内心がどうだったかはともかく、返納作業も粛々とこなされていったような印象を受けた。
あえて言うなら、地元の細川裕子。1マークの攻めは揺るぎないものだっただけに、あと一歩届かなかった、それが大きな差にも感じられたことだろう。少しだけ、眉根にシワを寄せる表情も見えている。
あと、渾身の前付け策も全員に抵抗されてスロー6コースとなり、結果5着に終わった平山智加の表情がややせつなくは見えた。実りはしなかったが、黙って6コースでは勝機がないと、勝利だけを見つめて積極策に出た、その思いについては称賛したい。もちろん勝てなければ虚しいだけで、平山はそれを感じもしただろうが、そうしたリスクを厭わなかったことは、勝負師の立派な姿勢だと思う。
シリーズを制したのは勝浦真帆。こちらも完勝だった。トップスタートを決めて、寄せ付けない逃げ切り。先輩である守屋美穂の攻撃も完全に封じていた。遠藤は係留所でのインタビュー、撮影、表彰式と渡り歩いてピットには戻ってこなかったが、11Rの勝利である勝浦はピットで仲間たちの万雷の祝福を受けている。というわけで、ひたすらに笑顔! なんか、レース後は笑顔しか見なかったような印象がある。モーター返納作業後には守屋先輩の祝福も受けており、それはまた喜びを倍加させたことだろう。
10月にここ蒲郡でデビュー初優勝を飾り、その2カ月後には全国的な注目を集める場所で2度目の優勝を果たした。今年終盤は、一気に実績を積み上げた。勢いをつけて、新年の戦いに臨むことができるだろう。初優勝がホップ、2度目Vがステップだとするなら、どんなジャンプを見せてくれるのか。令和7年の勝浦真帆にはおおいに注目させてもらおう。
こちらの敗者では、長嶋万記がしっかり悔しい表情を見せていたのが印象的だった。優出を決めた昨日はとことん喜び、敗れた今日はとことん悔しがる。そんな長嶋がカッコ良かったし、それがまた長嶋の強さでもあるだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)