BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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W優勝戦 私的回顧

勝蒲真帆、V2達成!

11R優勝戦
①勝浦真帆(岡山) 11
②實森美祐(広島) 13
③守屋美穂(岡山) 16
④長嶋万記(静岡) 22
⑤今井裕梨(群馬) 23
⑥刑部亜里紗(静岡)17

「新・ガマの申し子」勝浦が勝った。
 スタートは絶品トップのコンマ11。1マークはややハンドルを早く切りすぎて横に流れるような旋回になってしまったが、3コースから握った同県の守屋はシャットアウト。

 逆に、2コースから鋭角に差した實森の舳先が入りそうな勢いだったかが、2本の引き波を越えた直後にバウンド。減速を余儀なくされて勝浦の逃げきりが約束された。こう書くと「恵まれ」っぽい優勝に聞こえるかもだが、實森がすんなり舳先を越えたとしても、その後のパワー差で勝浦が突き放した気がしてならない。

「蒲郡、大好きです!」
 レース後のインタビュー、勝者は弾んだ声で言った。今節、このセリフを聞くのは何度目か。そりゃそうだ。つい2か月前、この水面で嬉しい嬉しいデビュー初Vの水神祭を遂げたばかり。相棒の62号機は噴きに噴きまくり、ファイナル1号艇はインコースからコンマ01のドッキリSで逃げきった。

 デビューから9年半での初優勝。ひとつの箔を引っ提げて再び蒲郡に舞い戻った勝浦だが、お世辞にも格上とは呼べない。同県の守屋、同期の大山千広(不在だが)などに比べれば、言葉は悪いがぺーぺーにも近い存在だろう。
 そんな勝浦が2カ月前と同じ相棒62号機を引いたら面白いなぁ。なんてモーター抽選記事でも書いたが、新たに巡り合ったパートナーは61号機。ひとつだけ足りなかった(笑)。
「うーーーん、残念!」
 なんて記者席で笑ったものだが、ひとつ足りなかったはずの61号機がまた噴きまくる。3日目の勝利後には「出足をつける調整をしたら凄く良くなって、なぜかもともと良かった伸び足がさらに良くなりました!」

 絶好調時には、そんなバカな、みたいなことが起こるものだ。ひとつ足りなかった61号機はいろんなものが加わって、2カ月前の62号と同じくらいの超抜機に変貌した。もちろん、これは偶然でもなんでもなく、2カ月前に培ったガマでの調整力、それ以上にガマからもらった確たる自信が勝浦のレースっぷりそのものまで変えた気がしてならない。

「12月30日、誕生日プレゼント待ってます。(蒲郡の)2連覇目指してがんばりまーす♪」
 オープニングセレモニーの言葉を思い出す。昨日、待っていたはずの大きなプレゼントを自力で勝ち取った。そして今日は、目指していた“2連覇”も自力で勝ち取った。超格上だった同県の守屋を完封し、「ガマ嶋万記」と呼ばれる長嶋も寄せつけなかった。2カ月間で新・ガマの申し子に君臨した“勝蒲真帆”は、ふたつの勲章とさらなる自信を引っ提げて2025年に立ち向かう。

もっと強く!

12R優勝戦
①遠藤エミ(滋賀) 13
②渡邉優美(福岡) 17
③細川裕子(愛知) 16
④三浦永理(静岡) 16
⑤海野ゆかり(広島)18
⑥平山智加(香川) 12

 遠藤が勝った。いやーーーーー、やっぱ強かった。わかっちゃいるけど、強かった。それ以外に讃える言葉が見当たらない。レースを振り返ろうとしても、何度も何度も書いてきた強い勝ちっぷりをリフレインするだけになってしまう。

 エミの強さをあからさまに象徴するのが獲得賞金額だ。今日の優勝で8057万円。2位の三浦永理を2300万円も突き放した。年間トータルで、女子では無敵と呼ぶべき存在を貫いた。
 ただ、女子界ではべらぽーなこの数字を、いちばん物足りないと感じているのは遠藤自身ではないか。いや、正確には、遠藤エミにいちばん物足りないと感じてほしい。男子レーサーの賞金は、毒島誠の2億4600万円を筆頭に1億以上が13人。遠藤以上に稼いだレーサーも20人に及ぶ。もちろん、賞金だけがレーサーの軽重ではないが、この人数が何を意味するか。その意味を、女子のトップレーサーとして感じているだろうし、感じて欲しい。

「(現状に)まだまだ、満足してません」
「もっと強くなりたいです」
 3行前まで書いた直後、表彰式の遠藤はキリリと引き締まった顔で言い放った。うんうん。これで、今日の勝者について語るべき言葉は、もう何もない。遠藤エミのファンの皆さん、こんな短い扱いですんません!

 敗者についても少々。細川裕子だ。3コースのほぼ同体から、鬼気迫る全速のまくりで遠藤に肉薄した。その鋭角な航跡はあまりにパーフェクトで、ほんの一瞬だけ「決まる!」と思った。思った直後に幻想と知った。相手は遠藤エミだった。

 もちろん、細川にとって悔しい準Vだったと思うが、あるいは何度も何度も挑戦した女子ビッグ優勝戦の中で、もっとも自身を誇らしく思える敗戦だったのではなかろうか。細川の歴史はスタート凹みの歴史だ。一般シリーズやGIの予選ではイケイケで踏み込めるのに、なぜかビッグレースの優勝戦になるとドカ遅れを連発した。
「どうして今日も……どうしていつも……」
 まくりフェチの私は細川を◎に推すたび、哀しい気持ちになった。1マークのはるか手前で、持ち味を発揮できずに負けが決まってしまうから。今節の第2戦でもインからコンマ28と立ち遅れたときも、同じ感慨を抱いた。

 それが今日は……コンマ16はバカっ早いわけじゃないけど、ほぼ横一線でスリットを踏み越えるだけで、背中あたりがじんわり熱くなった。
「行けた!」
 変な叫び声をあげた。そして、女子界の絶対エースに真っ向から襲い掛かり、あわやというところまで追い詰めた(私が思っただけだが)。こんな表現をしたら失礼に当たるのは分かってるが、正直、こう思った。

 やればできるじゃん!!
 いや、馬鹿にしてるのでもなんでもない、やればできるはずの強い女子レーサーが、やっと全力を出しきれるスタートを切って、全力を出しきった。それが無性に嬉しかった。おそらく、蒲郡に詰めかけた凄まじい数のファンの声援が、彼女の背中を押したのだろう。そして、1マークで逆に凄まじいファンを熱狂させた。私も背中をじんわり熱くした。

 やればできるじゃん!!
 今日の“普通の”スタートを自信に換え、来年も“普通の”スタートを切れるようになれば、細川裕子はどこかしらの女子ビッグタイトルを手中にできる。今年の最後の最後に、そう予言しておく。さらに予言するなら、センターからの一撃まくりで。(photos/シギ―中尾、text/畠山)