優勝戦メンバーの様子は、昨日までと特に変わらない。いや、逆に雰囲気が良くなっているとも言うべきで、非常にいい状態で優勝戦の日を迎えているようだ。
もっともプレッシャーのかかる平本真之にしても、緊張感はあるだろうけれども、今のところはそれに押し潰される気配はない。優勝戦が近づいても大丈夫だろう。「こういうの(予選トップで優勝戦1号艇)は初めてですからね。気分はいいですよ」と言い切ったのだ。もともと注目を浴びる職業に就きたくて、ボートレーサーを選んだ男だ。この状況、ドキドキはするけれども、ワクワクもしているはずだ。いちど失敗を経験したことで、ワクワクが勝ってもいると思う。
服部幸男は、関係者と柔らかい顔つきで話し込んでいた。こちらも気分は上々のようである。ペラ調整に向かう服部とすれ違ったとき、いつものように挨拶を投げたら、服部はいつも以上に大きな声で、しかも目を見開きながら「おはようございますっ!」と返してきた。明らかに、テンションが高い。優勝戦を走るということが、気分を高揚させているとしか思えなかった。進入のキーを握る存在である服部が、どんなかたちでベストを尽くしてくれるのか、楽しみだ。
峰竜太は、本当にいい意味で肩の力が抜けている。当たり前のことだが、1号艇だった去年のメモリアルとはまるで違う。やっぱりこんなときこそ怖い、のである。
峰のSG初優出は、11年のオールスター。舞台はここ尼崎だった。優勝戦の連敗はここからスタートしたのである。そのことを、峰自身も認識していた。そして、因縁深い舞台で勝っちゃったりしてねー的な感覚もあるようだ。そんな話をしたあと、峰は「調子に乗らないようにいきます」と言って、大笑いした。うん、やっぱり怖いと思う。
岡崎恭裕も同じように怖い。内から峰、岡崎、服部というのは、艇番は違うが3年前の福岡オールスター優勝戦と同じ並び。岡崎は指摘されて気づいたようだったが、だからもちろん、6コースに回って敗れたあの日の悔しさも思い出している。
「入れないですよ。もう決めてます」
岡崎は服部の前付けに抵抗する構えだ。もちろんレースはナマモノなので、実際にどうなるかは何とも言えない。しかし、岡崎は決意を携えてレースに臨む。それは確実にパワーになる。一発があるとするならこの男。そんな気もしてくるというものだ。
重成一人と松井繁は、早くも忙しそうに調整していた。重成は朝のスタート特訓から戻るとペラ室に直行していたし、松井はギアケース調整のあとにすぐさまペラ調整に向かっている。まさに休む間もなし、といった感じだ。「お客さんに納得してもらえるよう、一生懸命仕事をする」は、今日も有言実行されているわけだ。二人もまた、決意をもって、優勝戦を走る。そんなふうに朝のピットを見ていたら、誰が勝ってもまったくおかしくないとしか思えないのだった。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)