BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

唯我独尊

12R優勝戦   並び順 st
①菊地孝平(静岡・45歳)02
⑤松井 繁(大阪・54歳)23
⑥赤岩善生(愛知・48歳)21
②寺田 祥(山口・45歳)20
③吉川元浩(兵庫・51歳)20
④谷村一哉(山口・45歳)20

 第25回のマスターズは、特異な技能を持つ45歳の特異な技能でケリがついた。勝者は艇界随一のスタート勘を誇る東海の韋駄天・菊地孝平。そのスタートはコンマ02!!
 菊地の外では、熾烈な主導権争いが行われていた。2号艇で4カドに引いた寺田が伸びなりスロー勢に襲い掛かる。昨日同様、カド受けに構えた赤岩が必死のパッチで抵抗する。例によって寺田の伸び足は上々だったが、今日の赤岩の仕上がりも半端ない。昨日と同じように叩かれそうな隊形から素晴らしい伸び返しで寺田をブロックし、昨日と同じように先攻めを敢行した。

 だが、昨日と大きく違ったのは、その先にイン菊地がいなかった。菊地は違う世界を走っていた、と言っても言い過ぎではないだろう。スタートそのものが異次元だった。菊地だけがコンマ02で、他の5艇はコンマ20以上……ビッグレースの優勝戦で、これだけひとりの選手が突出するケースは極めて珍しい。

 デジタルスターター菊地孝平、恐るべし。
 後続を10艇身ほどもぶっ千切る勝者の背中を見ながら、当たり前の感想が浮かんだ。私やファンのみならず、ピットで観戦した選手、全国津々浦々で観戦した選手も背筋をひんやりさせながら当たり前の感想を抱いたことだろう。そして、すぐにこうも思ったはずだ。
 やはり、この異能の天才よりも1mmでも先を走っちゃいけないな、と。(笑)

 スタート以外の話も書こう。1年半ほど前、菊地が優勝戦のイン戦で負け続けた時期があった。2022年8月の浜名湖メモリアルはコンマ19で凹んだところ、センターのフライング艇に一気にまくられて3着に沈んだ。続く10月のとこなめダービーではただひとりゼロ台まで踏み込んだが2コース馬場貴也に差し抜かれた。それらが影響してか、一般戦のファイナル1号艇でも2度敗れ、ちょっと考えにくい4連敗を喫した。

 もちろん、それらは一昔前の話。その後の菊地はしっかりイン戦で優勝しているのだが、今日のビッグ制覇でかつての苦い思いがかなり緩和されたのではなかろうか。この稀代の韋駄天は、来月の多摩川オールスターはじめ今後のSG戦線でも影をも踏ませぬイン逃げを魅せることだろう。

 さてさて、6日間の鳴門マスターズについて、一舟券ファンとしての感想も寄せておきたい。一言でいうと
 楽しかった!!

 これに尽きる。前付けあり匠の技ありのマスターズはいつだって楽しいに決まっているのだが、そこに「インが弱い鳴門」「風の王国・鳴門」というファクターが加わり、例年以上にスリリングかつダイナミックな激闘が多かった。前付けから圧倒的な出足でイン選手を蹴散らした西島義則、3カドから豪快にまくりきった寺田祥、それらの派手なアクションも波乱含みの鳴門水面だからこそ感動が割増しになった気がした。

 できることなら、毎年この鳴門でやってくれないかなぁ。
 なんてありえないことを思ったりしたのだが、それくらいメチャクチャ楽しかった。あまりに楽しすぎて、イン逃げばかりが横行するであろうSGの日々に適応できるかしらん、などと余計な心配まで浮かぶお伽の国のような6日間だった。(photos/シギ―中尾、text/畠山)