BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――王者の魂

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「フライング切ってでもスタート行きますよ」

 名言だと思う。公開勝利者インタビューでも、共同記者会見でも飛び出した松井繁の言葉。SG優勝戦Fのペナルティを知らない王者ではない。もちろん、実際はフライングを切ろうなんて微塵も思っていないし、切ることはありえないだろう。スタートは絶対に行く。その決意を王者流に表現したのがその言葉。そして、それを表現できるからこそ、絶対王者なのである。

 これまで優出者会見では、何回も「明日はフライングできないので……」というコメントを聞いた。当然の言葉だ。それが多くの人を悲しませ、実害をももたらすことを考えれば、誰だってフライングは避けなければならない事態だと考える。それが当然なのだ。王者にだって、その思いはあるだろう。

 だが、松井はそれ以上の言葉で決意を表明した。誰にでもできることではない。いや、松井にしかできないことかもしれない。だから絶対王者なのだ。

 今日はまず、この言葉に尽きる。これを言い切った王者に、死角はあるのだろうか。

 

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 もちろん、他の優出5人も、相手が絶対王者だからといって、怯んでなどいない。特に篠崎元志だ。機力的には、優勝戦メンバーのなかでは弱めだと思う。いや、ベスト6に限らず、全体的に見たって決して強くはないだろう。だというのに、篠崎は準優1号艇をもぎ取り、優勝戦に乗ってきた。明らかに気持ちの勝利である。

 9R後の表情も、とにかく鋭かった。浮かれることなく、頬を引き締めて、キッと前を見据えていた。その視線の先には、すでに明日があるだろう。その明日とは、もちろん王者らを撃破する明日である。

 9R終了後の時点では、優勝戦の枠番は1~3号艇すべての可能性があったわけだが「2なら3のほうがいい」と語った。2コースから差す足はなさそうだ、と。1がいちばんいいに決まっているが、とりあえず首尾よく3号艇となった。渾身の攻め、それが篠崎の絶対的な作戦であろう。

 

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 峰竜太も、レース後は彼らしく明るい笑顔には包まれていたが、表情には逞しさがあった。レース前、緊張に包まれながら厳しい目つきになっているのを見て、「吉川の2コース逃がし率が低いから峰の2着付け」とか言っていた“本紙予想”が外れるのを確信したものだった。明日もきっと、レース前にはさらに緊張気味の峰竜太が見られるだろう。それは同時に、峰が何度も涙を流すことで手に入れた逞しさなのである。

 

 

 

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 毒島誠、SG初優出おめでとう! レース後は若者らしく、他5選手のもとを回って、深く頭を下げていた毒島。彼にとってはレース後にするべき当然の行為なのだろうが、頭を上げて浮かぶ表情には、確実に充実感が漂っていた。

「6コースから思い切り行きます! 無欲で挑戦したいと思います」

 初めての体験、まずはそれで良し、と思う。濱野谷憲吾が優出を逃し、おそらく直線のパワーは優出メンバー随一だろう。6コースでも勝負になると思う。それを力強く語り切ったあたりも好感。実際は峰や岡崎よりも先輩だが、ハツラツとした走りに期待したいところである。

 

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 松井の言葉と並んで印象に残ったのは、白井英治の言葉だった。

「かつて取り損なっていた頃と比べると、今のほうが精神状態はいい」

 SGにもっとも近い男と言われ続けて幾星霜。白井にふたたびチャンスが巡ってきた。誰もがまた、白井にとってはあまりありがたくないそのニックネームを思い出すのだろう。それについて語ったのが、その言葉だ。白井はすなわち、精神的に成長したのだ、ということを言っている。焦りとか、じれったさとか、また獲れなかったという悔恨とか、いろいろなものを白井は味わってきたが、それをも乗り越えるメンタルを手にした、と意訳してもいいだろう。そうした状態で臨む優勝戦。もしかしたら最大のチャンスかもしれない、と思うのだがどうだろう。

 

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 で、湯川浩司ガンバレ、とも言っておこう。SG4冠の湯川が優出くらいで騒がれたり、それに心乱されたりなんてことはあるわけがないが、この優勝戦はちょっとだけ意味が違う。SG連続出場記録が次のMB記念で途切れそうなのである。途切れさせない最後の勝負駆けは、まさに明日の優勝戦。勝って優先出場権を手に入れれば、記録は継続されるのだ。つまり、優勝条件の勝負駆け! ま、そんな記録よりも優勝自体の勝ちが大きいのは当たり前だが、SGのピットに湯川浩司がいない、というのはもう違和感でしかないのである。ということで、頑張れ湯川浩司。ま、本人はそんなことはどこ吹く風ってな風情で、まるっきり頭にはないようであったが。

 

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 敗者のなかで印象に残ったのは、なんといっても今村豊だ。あの負け方、悔しすぎるでしょう。6コースからまくって、いったんは2番手を走りながら、2マークでやや消極的とも見えるレースで揉まれて、後退してしまった。今村らしからぬ、というレースぶりでもあったし、本人はとことん不本意だったと思われる。

 勝っても負けても明るい今村豊。負ければ自虐的にふるまって、周りを笑顔にするのがミスターらしさ。しかし、今日はさすがにそんな今村豊は見られなかった。表情をカタくし、うつむき加減で、落胆と自責がありありと伝わってくる。今村豊の本性である勝負師の顔が矢も盾もたまらずに露見された。それを目撃した僕は、ただただ興奮したのであった。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)