BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――シリーズ組の個性

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 もっとも印象に残ったシーンは、優出者絡みではなく、田中信一郎が思い切り悔しがっている姿だった。1マークで渾身の差しを放とうとしたものの、前が詰まるようなかたちで減速せざるをえず、上を江口晃生に叩かれた。地元で気合満点だったはずの田中にとっては、悔やんでも悔やみ切れない戦いになってしまったことだろう。

 控室へと戻るあいだ、田中は何度も何度も首を傾げ、悔しさを噛み締めるしかなかった。ヘルメットで表情はよくわからなかったが、その体の曲がり具合が、田中の心中をあらわしていたと思う。こんなふうに体全体から悔しさが伝わるような仕草、あまり見たことがない。それがまた、田中の思いを表現しているような気がして、正視するのがちょっとつらくなったほどだった。

 今日は、田中をはじめとする大阪勢が、みな悔恨を味わうことになってしまった。決定戦組も、だ。この思いをそのままにして収めるような最強・大阪軍団ではないだろう。倍返しが炸裂するのはいつか、それを楽しみに待ちたい。

 

 

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 一方で、前本泰和はやっぱり淡々で、その姿を見ているだけでは喜びがあまり伝わってこないのであった。これが前本の個性ということだろう。共同会見でも淡々と語るのみであり、だからやっぱり感情がよく見えてこないのであった。

 嬉しくないわけがないですよね。だって、これがSG初優出なのだ。それも、優勝にもっとも近いポールポジションなのだ。まさか早くも緊張でガチガチになっているわけがないし、それだけにその淡々とした様子がひときわ独特に見える。明日も淡々と勝っちゃうのかな~。艇界レコード「7節連続優勝」男が、ついにSGにも手が届く瞬間、ちょっと見てみたい。

 

 

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 反対に、優出の歓喜がよく伝わってきたのは、茅原悠紀。会見でも「めっちゃくちゃ嬉しいです!」と声を弾ませていたし、笑顔も多かった。そのうえ、若手選手が支部問わずに祝福の声を浴びせていたから、なお顔つきが明るくなる。9Rワンツーを決めた桐生順平も祝福していたし、だから茅原の周りには笑顔があふれていたのだった。

 茅原と桐生はそのまま、笑顔で語り合いながら控室へ。茅原99期、桐生100期。世代が近い二人には、通じ合うものもたくさんあるだろう。ともに同期とSGで一緒になることは少ないから、もっとも心安い相手だったりするかもしれない。決定戦のほうも、若い世代が優勝戦に名を連ねた。まずはこの二人が優勝戦で活躍し、時代の扉をこじ開ける準備をして決定戦組にバトンタッチ、なんて構図はいかがでしょうか。

 

 

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 では、名人・江口晃生は若者たちの作り出す大波に呑まれればいいのかといえば、そんなことはちっとも思わない。今年の名人がSGでも優出。すごすぎるでしょ。しかもツケマイですよ、1マーク。その若々しさには感服するしかないし、レース後の優しすぎる笑顔にはひたすら癒されるのみだ。もちろん、同一年SG&名人戦優勝という快挙をぜひ見てみたい。

 江口にも、バトンタッチの願いがある。弟子の毒島誠が決定戦で優出したのだ。

「1年間頑張って来たという思いを大事にしてほしいので、あまりアドバイスはしてないんですよ。ただ、レースでの姿勢をブスには見せているつもりで、そういうかたちでエールを送っているというふうに考えているんです」

 ならば、決定戦の毒島にシリーズ戦優勝戦での師匠の激走を見せなければならないだろう。その決意がレースを動かす。キーマンは、実は江口なのかもしれない。

 

 

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 山口剛は、同じレース=シリーズ戦優勝戦で絆を感じている。

「前本さんが1号艇なので、1、2コースは広島で固めて、そのうえで自分のレースをしたい」

 そう、広島勢が内枠を占めたのだ。ただし、江口の前付け策というのは充分に考えられる。それもふまえたうえで、山口は強固な広島ラインを11Rの水面に築き上げるつもりだ。

 今節、決定戦も含めて、広島勢はこの二人だけなんですね。辻栄蔵はF休み、西島義則は長期欠場から復帰したばかりで、市川哲也も出場を逃した。広島支部もかなり層が厚いわけだが、今回はたった二人での参戦だった。その二人が、シリーズ戦の主役となった! もしかして、この二人の仁義なきガチンコバトルもあったりして!?

 

 

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 さて、8Rの徳増秀樹には驚いた。2コースからツケマイ策に出たのだ。徳増の2コースといえば絶品差し。まさかツケマイに出ようとは思わなかった。

 徳増曰く、選択肢としては9対1で差し、というのが徳増の戦法だから、そこでツケマイを放てばみんなが面食らうだろう、とのこと。実際、外は予想外だったらしく、センター勢は差し場をみすみす逃している。また、自分が前本に勝つならば、1マークでハメるしかなかっただろう、とも。考え抜いたツケマイだったのだ。

 ただ、少し引っかかったのは、「前本に勝つならば」だ。これは僕の勝手な舟券戦略なのだが、準優の2コースは差し、がセオリーのはずである。なぜなら、2着に入れば優出できるからだ。2コースツケマイには1コースに抵抗されて大敗するというリスクもある。9対1で差す徳増ならなおさらで、しかもその差しは強烈ではないか。つまり、徳増は優出ウンヌンの前に、ひたすら勝ちにいったということなのか。

「もちろん、僕もいつもの準優なら、最低2着ということで差しを考えますよ。ただ、ここでまくっておけば、他の選手に印象付けられますよね。大舞台でやれば、僕にツケマイがあると印象に残る。それによって、9対1の差しが決まりやすくなるんですよ。差しばかりなら、警戒されませんからね。もちろん、先々のことだけ考えていたわけではない。ここは最低2着なんだから、残せるまくりを打ったつもりです。差して2マーク勝負になったとして、舳先がかかった程度では前本さんにバックで押し込まれてしまうし、勝つためにはやはり差しでは厳しかったと思う。その点ではうまくいきましたね」

 理路整然と、今日のツケマイについて語った徳増。そう、徳増は頭脳派なのだ。しかも今日は、目の前のレースを勝ち抜くことと、さらに先の戦いを見据えることを両立させた。

 優勝戦もきっと、徳増はさまざまな戦略を練って臨むに違いない。何を見せてくれるのか、楽しみにしよう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)