BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――復活のノロシ

●10R

 準優一本目は、池田浩二が差し切り1着! ものの見事に先マイの篠崎元志のふところを捉え、優出を決めた。篠崎は惜しくも2着。
 池田は相変わらずコメントは冴えないのだが、しかしレースぶりは見事。平和島SGで2Vと相性は抜群で、そのあたりも好走の要因……と考えるしかないのだろうか。ただ、レース後の振る舞いはゴキゲンそのもの。モーターを整備室に運んでいこうとする選手たちを軽業師のようによけながら、5日目恒例のボート洗浄に勤しむ。その様子は、紛れもなく快勝に心躍る人のそれだった。

 篠崎のほうは優出を決めたとはいえ、1号艇で2着というのは手放しで喜べるものでもない。池田がおどけたふうに腰を90度折って礼をしてくると、やられましたとばかりに大きな苦笑いを浮かべている。そんな篠崎に、菊地孝平が何か話しかけていたのが印象的。差された要因を問うていたのか、レースぶりに対しての助言を送っていたのか。それが優勝戦に向けての何かの糸口になるだろうか。

 吉田拡郎は1マークで握って攻めたものの及ばず。最後は3番手争いで河合佑樹に逆転を許してしまってもいる。2周1マークでは2番手先行する篠崎に押っ付け気味の動きを見せており、それについて篠崎に頭を下げる場面もあった。21、22年と丸2年SGに出場できず、ようやく返り咲いた今節で準優出は上々と言ってもいいと思うのだが、やはり準優で敗れてしまっては元も子もないとばかり、顔をしかめた吉田。ふたたびSG戦線でバリバリ戦う姿を見せてほしいし、そのいい契機になったとは信じたい。

●11R

 田中信一郎が惜しかった! 1マーク、最内を差して2番手浮上。田中のSG出場は19年グラチャン以来。3年9カ月ぶりのSGで、華麗に優出復活! たしかにそう思われたのだ。しかし、2マークで突っ込み気味に内から回ろうとした近江翔吾の舳先が田中のモーターに接触。大きく右に進路が振られて、これで遅れをとってしまった。不運だったとしか言えない、敗退となってしまった。ボート洗浄のあと、松井繁、太田和美と神妙な顔つきで話し合っていた。20年以上もともに記念戦線を戦ってきた盟友たち。松井、太田にしても釈然としないものは残っただろうし、そうした会話が田中を労うことにもなっただろう。田中も気づけば50歳となったが、まだまだ老け込むには早すぎる。まだまだSG記念戦線で奮闘してもらわねば困る。そう思わされた今節である。

 その田中を交わしていったのが、同支部の後輩である石野貴之だ。逆に石野はツイていたということになるわけだが、やはり複雑なものもあるのか、淡々とレース後の作業を終えて、控室へと戻っていっている。明日は外枠になるが、だからこそ一発を期待したいところ。

 勝ったのは羽野直也だ。これが2度目の優出。ほんの2週間ほど前の芦屋周年優勝戦で、羽野はフライングを切ってしまっている。これにより、F休み明け半年間GⅠに出場できず、ということは今年のGⅠをほぼ棒に振ってしまうことになる。昨年グランプリ初出場を果たし、今年も連続でと燃えていたはずが、かなり厳しい状況を招いてしまったわけだ。だからこそ、SGで大きく上積みしたいところで、この優出は実に大きい。レース後はもう、特に表情を変えることのなかった羽野であったが、明日は最高の笑顔を見せてくれるのだろうか。

●12R

 土屋智則が優勝戦1号艇だ! 1マークは茅原悠紀が2コースからのツケマイ攻撃。攻めてくるならエース機の山田康二と想定していたのではないかと想像するわけだが、すぐ右隣からの強烈な攻めにも冷静に対処。その落ち着いた走りは、優勝戦にもプラスに作用するだろう。

 このレース、毒島誠が装着場の柱の基礎の部分に上って、水面に目を凝らしていた。後輩がSG初優勝に王手をかけることを祈り、願い、その瞬間をしっかり目に焼き付けようとしていたのだろう。土屋が先頭に立っても、身じろぎもせずにいた毒島だが、先頭ゴールがほぼ確実になって、ボートリフトに歩を進めるそのときには、池上カメラマンが向けたレンズに笑顔を見せている。やはり後輩が悲願に一歩近づいたことは、毒島の気持ちを和らげたことだろう。

 明日はそりゃあ緊張するだろう。平静でいられなくて当然だ。しかし土屋は、毒島という心強い先輩の後押しを受けて白いカポックを着る。関浩哉や椎名豊ら後輩もいる。久田敏之もいる。彼らの存在が土屋にとって大きな強みになってくるだろう。

 2着はツケマイからの追走で茅原。皆さん、平和島SGの優勝戦で茅原悠紀が緑のカポックを着ますよ! レース後の茅原は終始気分が良さそうで、池田浩二と顔を見合わせて大笑いする場面もあった。SG優出は意外にも20年オーシャン以来。グランプリを制したゲンのいい水面で久々のファイナル行きだから、優勝戦の枠はどうあれ、気分を上げたのだろう。枠はどうあれって、まさにグランプリを制したゲンのいい枠でもあるんだから。明日はあの衝撃の再現を狙っての戦いとなる。

 エース機・山田康二には悔いの残る戦いになってしまった。一撃を狙って全速スタートを意識して、起こしをやや溜めてしまったか。スタートで後手を踏んでしまえば、さすがのエース機も威力を発揮できない。レースを見ていて、起こした瞬間にもう、遅いと感じられたほどだったから、追い風が強めだったとはいえ、痛恨であろう。レース後にボート洗浄をしながら、淡々と振舞っていた山田だが、ふとしたときに顔がゆがむ、ということが数度あった。思い起こしては悔しさが湧き上がってきたのだろう。この3年間は20年グラチャン以外はSG出場がかなわなかった山田。残念ながら優出は逃したが、復活のノロシをあげるには十分な一節だったと思う。準優の悔しさを噛みしめつつ、また次の舞台への意欲を高めてほしい。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)