シリーズ戦は一般戦である。グランプリとグランプリシリーズは、賞金格差こそあれ、ともにSG。しかしクイーンズクライマックスとシリーズ戦は、プレミアムGⅠと一般戦。強烈な差が存在する。それだけに、外野としては選手のモチベーションが気にかかる。正直に言うと、選手のそんな声を耳にしたこともある。
だが、戦いを前にすれば闘志は燃える。準優勝戦となれば、さらに気合は入る。この舞台に来るような選手たちは、だからこそ女子トップクラスに君臨できるのだ。
イン逃げを阻まれた長嶋万記の表情。レース直後こそ、やられた!感が漂う苦笑いを見せてはいたが、その後に微妙な表情というか、ややひきつったような表情の長嶋を見ている。
まさかの勇み足を喫してしまった香川素子の落胆ぶり。もちろんフライングの痛手というのが何より大きいわけだが、またこれで女子戦からしばらく遠ざからねばならないという痛みもあるわけだが、しかし準優1号艇という大チャンスを活かせなかった悔恨は、非常に大きいようだった。しばらく経ったあとには、水口由紀に抱きついて甘える姿も目撃。水口に慰められて、少しは心が癒されただろうか。
一方、遠藤エミの誇らしげな表情も印象的だ。豪快なツケマイ! 遠藤らしい攻撃力を存分に発揮して、長嶋のイン戦を撃破したのだ。本人は無意識であろうとも、やはり胸を張ったような様子になるのは当然である。そして、シリーズ優出。これもまた、彼女のからすればノルマにも近いわけだから、ただただ朗らかになっていくのはやはり自然というものである。
この舞台に自分が戦うべき戦場がある以上、やはり全力で勝利を掴みにいくのがレーサー魂。優出を果たした6人は、せめて優勝して溜飲を下げたいと、明日もまた全力を尽くすことだろう。
そう考えると、本来はこちらにいるはずではなかった(といったら12名に失礼かもしれないが)山川美由紀は、まずは優出して安堵の思いがあるかも。なにしろFがあっての繰り上がり首位だったため、笑顔を満面に浮かべるというわけにはいかなかったが、しかし満足感はうかがえた気がした。遠藤にとって優出はノルマに近いと書いたが、山川にとってはまさしく最低限の結果であろう。
10Rでは優出最後のイスをめぐる激闘が繰り広げられている。松本晶恵と今井美亜が接戦を繰り広げたのだ。今井が松本に迫った瞬間には、選手仲間からの歓声もピットに響いた。結果、松本が獲り切って、道中でこの争いに絡んできた津田裕絵が3着に浮上しているのだが、松本と今井は真っ向勝負を繰り広げたという思いはあったようだ。
エンジン吊りから控室に、松本と今井は並んで戻って行っていたのだ。しかも二人ともニコニコとレースを振り返り合っていた。今井には悔しさがあったに決まっているが、本気で剣を交え合った二人だからこそ、笑い合えるのである。松本にはこの争いを乗り切った充実感があるはずで、いい気分で優勝戦に向かえるだろう。
そして、準優唯一の逃げ切りを決めて、ポールポジションで優勝戦を迎える中谷朋子。一言で言えば、淡々とした雰囲気だった。カポックを受け取りに歩み寄った山川美由紀とは爽快に笑顔を交わし合っていたが(それを見て、細川裕子が飛びつくようにカポックをもぎ取り、控室に運んでいる。山川さんにさせるわけにはいかない!と咄嗟に思ったんでしょうね)、その後は喜びをあらわにするわけでもなく、穏やかに微笑みを浮かべているのみであって、それは昨日までとは変わらない様子なのであった。
終わってみれば、クライマックス経験者が3名、先のレディースチャレカに出場していた選手が3名、SG経験者が2名、ヤングダービー出場者が2名と、「優勝戦」にふさわしいメンバーが揃ったと言えるだろう。シリーズであってもモチベーションを下げずにプライドを見せつけてきた強者たち、というか。で、そのいずれにも当てはまらないのが唯一、竹井奈美である。準優の後も、遅くまで新兵作業に飛び回っていた竹井。たしかに相手は格上ばかりと言える。しかし、来年の地元クイクラには是が非でも出場したい竹井にとって、このメンバーでの優勝戦は大きな戦いだ。張り切って戦ってほしいぞ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)