BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――令和初のクイーン争奪戦、出揃う

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 11Rは遠藤エミがトライアル唯一の1号艇以外の勝利をもぎ取った。この時点で、ファイナル1号艇は確定! 2度目の女王、そして令和初の女王に王手をかけるまくり差しとなった。ただし遠藤はといえば、淡々としたもの。エンジン吊りの間にも特に大きな笑顔は見えなかったし、ティアラへの最短距離にいることの高揚感もあまり見えなかった。会見での見せ場といえば、その前に会見していた香川素子が帰り際コードに足を引っかけてスピーカーのコンセントを抜いてしまい、遠藤がスピーカーをいじって状態を回復させたこと。香川先輩のつまずきをナイスリカバリーしたのだった。滋賀支部の素晴らしいコンビネーション。ってなことはともかく、もちろん会見では「逃げたい。優勝しか見ていない」ときっぱり言い切っている。優勝すれば賞金トップにも立つだけに、明日はしっかりと大魚獲得を見据えて戦う。

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 守屋美穂は4着だったが、その結果として4戦連続2号艇という椿事を出来させた。守屋は14年のクイーンズクライマックスでもトライアルから優勝戦まですべて6号艇だった。オール緑で優出もすごかったわけだが、今回はより内枠で同様の事態を完成させた。もちろんそれは望んだものではなく、勝てば1号艇だったわけだから、むしろ不本意。そして、単に黒カポックを続けても仕方ないわけで、明日は勝利を渇望して臨む一戦となるだろう。今日はスタート遅れが痛かった。守屋曰く「しっかり集中していれば、いいスタートが行けると思う」とのこと、つまり今日は集中をやや欠いていたということで、ひとつ反省点=解消すべきとわかっている点ができたのは、むしろポジティブと考えるべきだろう。

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 香川素子は逆転3着で優出。3周1マークで大山千広を逆転した先マイは見事だった。これはまさに百戦錬磨のターンで、大山が後ろを見ていなかったことを察知して、イチかバチか突っ込んだものだという。徳山は対岸にビジョンがないレース場だが(徳山と江戸川のみ)、ビジョンで確認できない分、相手との距離感をしっかり確認しておかないと突然相手が間近にあらわれて驚くことになるという。それを知悉していた香川が、まだキャリアが浅い大山を見事に出し抜いたわけだ。ちなみに評判の足色は、いいのはいいが、周りも出してきて差はなくなってきているそうだ。

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 香川に抜かれ、さらに最終コーナーで守屋の逆転も許した大山千広は、この時点では優出当確を出せなかった。そのこともそうだし(優勝戦に乗れないと覚悟したそうだ)、抜かれまくるというレースぶりもあって、レース後の大山は文字通りの憮然たる表情だった。大山のここまでの険しい顔を今まで見た記憶がない。それほどまでに大山はおそらく自分への憤りを抱えてしまっていたのである。
 結果的には、大山は6番目の椅子を手に入れた。大きな大きな注目を集めての出場となった今節。本人はそう語ることはないが、プレッシャーは確実にあったはずである。だから、緑のカポックはかえって気楽に戦える材料になるかもしれない。大山とは何度か話してきたが、いつだって「自分はそんなに注目されるような選手ではない。まだ実力がぜんぜん足りていない」と口にしてきた。今日の会見でも、勝てば賞金トップで寺田千恵の女子記録を抜くと問われても、「将来はそうなりたいが、それが今だとは思っていない」と言っている。つまり、自分はまだまだチャレンジャーの身だということだ。ならば、6号艇はまさにチャレンジャー。むしろ本領を発揮できる枠番なのかもしれない。

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 12Rは今井美亜がイン逃げで1着。見事に勝負駆けをクリアした。なにしろクライマックス組ではワーストと思われるモーター。勝つにはスタートで踏み込むしかないと、コンマ02まで突っ込んで逃げ切った。「早すぎました」と反省するが、しかしその覚悟は称えられなければならない。勝って帰還したヒロインを、香川素子が笑顔で出迎える。そしてカポックの上から体をパンパンパンパンと何発か叩いた。飛び跳ねながら。香川と今井は何度も足合わせをしており、香川も今井の状態をある程度把握していただろうから、意地の逃げ切り勝ちに高揚したのだろう。自分が優出を決めたときよりもずっと喜んでいた。今井は、心の底からホッとしたような微笑みをたたえている。

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 12R組から優勝戦に残ったのは、4着の寺田千恵だ。もし長嶋万記以外の選手が2着で、自分が6着なら優勝戦には残れなかったのだが、しっかりと走り切って4着。長嶋が2番手キープの時点で6着でも当確ではあったが、最後は小野生奈との4着争いに競り勝ち、優勝戦の枠番を4に押し上げている。
 会見での寺田の発言で思い出したのだが、この4号艇には因縁がある。かつて、寺田がレディースチャンピオンを優勝できないことは艇界の七不思議と言われていた時期があって、そのジンクスを打ち破ったのが07年のレディチャン。涙のレディチャン初優勝は今も印象に鮮明だが、それがここ徳山で、しかも4号艇だったではないか! 寺田はクイクラ唯一の皆勤賞。これで優出は6回目で、8回中優勝戦に駒を進められなかったのは2回だけ。もはや寺田がクイクラを獲れないのも七不思議化しつつあり、それにピリオドを打つのがふたたび徳山での4号艇でもおかしくない!? 明日の予想がどうなったとしても、こっそりテラッチアタマを買ってみようかな……。

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 敗れた選手からは、松本晶恵を取り上げておきたい。ここまでギリギリまでドタバタ動いている選手はそうそう見ない。ギリペラではない。ギリギリまでの本体整備、略してギリ整なのだ。朝からさんざん整備をしていたが、8R発売中にセット交換をしている。さすがに時間がないと、整備士さんが3~4人くらい取り囲んで見守り、さらには佐々木裕美ら選手仲間も心配そうな顔で寄り添っていた。その後、大急ぎでペラ調整などをし、10R発売中にスタート特訓。松本は終わるとボートを陸に上げて、整備室に直行! なんとふたたびセット交換を始めたのだ。次のレース中には展示ピットにボートをつけなきゃいけないのに! 8R発売中と同じように整備士さんたちは工具などをセッティング。やはり大急ぎの整備で、10R発走間際には整備を終えてプロペラ調整に移っている(これもまたギリペラでした!)。直前情報に部品交換がなかったところを見ると、特訓で違和感を覚えたことで、最後の整備は元に戻したということだろう。結果的には12R3着で勝負駆けには失敗しているが、ここまでとことんやり切ったのだから胸を張っていいと思う。劣勢な機力をなんとか立て直さんと、最後の最後まで諦めなかったディフェンディングクイーンに拍手だ。さすが平成最後の女王!

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 シリーズ準優8Rは堀之内紀代子が1着、落合直子が2着。このレースは事故レースということもあって、二人とも淡々としたレース後だった。ただ、周囲の仲間たちは笑っていて、優出を称える雰囲気は色濃くあった。

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 事故は1号艇の喜多須杏奈だ。2周1マークで3番手競りの際に落水してしまった。幸いにも体は無事で、レース後はレスキューではなく、なんとボートに再乗して自力でピットに戻ってきている。ただ、もちろん心は傷ついていただろう。着替えを終えてピットにあらわれた喜多須の瞳は濡れていた。この借りを返す日はかならず来る。まずは最終日、笑って帰れる結果を残してほしい。

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 9Rは池田紫乃が1着、平田さやかが2着。いやはや、池田の足はバケモノでしたな。平田に完全にまくられていたのに、内からぐいぐい伸びて逆転してしまった。クライマックスに入っても戦えるかも!? その展開での1着に、向井美鈴が池田の顔を見るなり、両手を広げて「セーーーフ!」と笑顔。香川素子も嬉しそうに池田の勝利を祝福した。香川は元長崎支部、仲間同士なのだ。

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 10Rは細川裕子が1着、山川美由紀が2着。予選トップの山川が敗れた。その瞬間に池田の優勝戦1号艇が決まり、仲間たちが続々と池田のもとに駆け付けている。池田は照れ笑いとも苦笑いともつかぬ複雑な笑みを見せていた。

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 細川と山川は並んで控室に戻っている。山川は調整に悔いが残ったようで、それを細川にも話していた。細川はにこやかにそれを聞いており、なんだかそれ自体が勝敗の明暗にも見えたものだ。細川は足色にかなりの自信を持っているようで、明日は3号艇で展開のカギを握る存在になるかも。山川の4号艇も怖いぞ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)