BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――違う光景

 今さらながら、なのだが、SG取材の後に女子戦を取材すると、選手の動きの違いがハッキリとわかる。いや、シリーズが始まればそうでもないが、前検では男子と女子の違いが顕著なのである。今日はそれを強く意識したのであった。

 ようするに、いちばんの違いは「プロペラ調整室の人口密度」だ。新プロペラ制度導入以降、SGの前検ではいきなりプロペラ室にこもってペラを叩く選手を多く見るようになった。選手には大別して2パターンあって、まったくプロペラを見ないで水面に行き、走ってみて得た感触をもとにプロペラをチェックし、その後に調整をするタイプと、まずプロペラを見て、自分の形と違えば叩き直してから水面に向かうタイプがいる(プロペラを見るだけ見て、そのまま走る選手もいる)。SGではざっと見て半々くらいかな? しかし今日はプロペラ室には空スペースが非常に目立っていた。大きく叩き変えているらしい選手が少ないのだ。

 

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 まず目に入ったのは福島陽子。これは、今日ダントツで早く試運転を始めていた選手だ。10分以上も着水が早かったんじゃないかな。つまり、静かな水面で何度も何度も周回を重ね、その感触をもってプロペラ調整室に向かったと思われる。これはSGでいえば、田中信一郎タイプだな。田中も試運転一番乗りの頻度が高く、それを記者席で確認してからピットに入ると、プロペラ室で田中の姿を確認したりすることは頻繁にある。ほかには喜井つかさの姿もみかけたし、樋口由加里もいた。岡山支部だ。福島を中心に、その背中を追いつつ、みんなで高め合おうというところもあるのだろう。

 

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 整備室に目を移すと、機歴簿を見つめている選手がSGより少ないように感じた。部品交換はむしろ女子戦のほうが多いんじゃないかという印象もあるのだが、前検から本体に目が向くというわけではないということか。機歴簿チェックをしていたのは日高逸子。こちらもベテランなのですね。なるほど。おっと、こちらでも喜井つかさを見たぞ。前検から精力的な動きを見せているというわけである。

 

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 そんななかで、男子とか女子とかSGとかに関係なく、普段の前検では見かけない光景を見た。いったん着水した選手が、陸に戻ってきたのだ。

 前検日の試運転は、いったん着水したら係留所にボートをつけて、タイム測定とスタート練習が終わるまで陸に戻ってこないのが普通である。手応えを確認する一日でもあるから、悪ければ悪いでその後の調整に結びつければいいし、良ければゴキゲンでいればよろしい。だというのに、ボートを陸に上げてしまったのだ、魚谷香織は。

 あまりに珍しい動きに驚いたわけだが、何もなければ陸に上がったりはしない。魚谷は手早く工具を使ってネジなどを外し、最後はステアリングバーを外したのだった。ステアリングバーとは、モーターとハンドルをつなぐワイヤーを装着する部分。けっこう大きな三角形の部品だ。すなわち、これはハンドリングに影響する部分。モーターのパワーに関連すると言うよりは、操縦性に関わるものだろう。魚谷によれば、これが曲がっていた! 試運転で異常を感じ取った魚谷は急いで陸に戻り、正常なものに交換したという次第。

「そのあとに乗ったら、良くなってました!」

 と笑った。いや~、お見事。素早い察知と交換が、ひとつのビハインドを排除したのだ。早く見つかってよかったね、と振ったら、魚谷はもうひとつニコッ。これを感じ取れたか取れなかったかで、明日の成績が変わっていたかもしれないのだから、デカい! 乗ってみて何を感じるか、というのも、上に行くための大事なスキルなのかもしれないですね。

 

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 さて、ドリーム組。いろいろあるが、僕は平山智加のワンランク上の意識を感じた。女子戦はとにかくコースを動かないという印象で、今節もコース争いはほとんど見られないのではないか、と推測している。日高逸子、谷川里江くらいですかね。山川美由紀も6号艇なら、という感じか。だから、ドリーム会見の平山のこの言葉に、ピクッと針が動くのである。

「基本は枠なりですが、ピット離れが良ければひとつでも内という姿勢です」

 もちろんバナレで飛び出れば誰でもコースは獲るだろう。だが、それをハナから意識として持っているかどうか、というところで、実は差がつくんじゃないかと僕は思ったりする。そして、それがSGを走り続けてきた平山が自然と身に着けた感覚なのではないか、と裏読みしたりするのだ。

 今節は地元である。やはり意識、たたずまいは抜けている。オーシャンで思ったのだが、SGでのレースぶりもかなり変化を見せてきた。あと、前検での手応えも良かったようです。いよいよ来たんじゃないかな、女王戴冠が。気が早すぎるけど、そんなことをふと思ったりしたのでありました。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)