BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット@シリーズ――スタイル

 

 

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 当たり前のことだが、人それぞれに行動のスタイルがある。たとえば前検日の動き方も、選手それぞれにスタイルがある。SGだと、水面に一番乗りで出てくるのは、田中信一郎が多い。川﨑智幸や鎌田義というパターンもある。一方、ギリギリまで出てこないのは今垣光太郎。点検や装着の作業を丁寧に行なうのが今垣のスタイルで、だから試運転できないままスタート練習とタイム測定に臨むことが圧倒的に多い。

 今日の水面一番乗りは茶谷桜。それに福島陽子が続いている。茶谷はまだ誰も走っていない水面を2周ほどして、係留所にいったんボートをつけて、それからプロペラを外していた。福島は着水した後にまず係留所にボートをつけて、しっかりと点検。茶谷が走り終わったころに試運転を始めていた。

 それからしばらく経って、二人の姿をペラ調整所で目撃。着水が早い選手のスタイルというのは、とにもかくにもまずは走ってみて、その感触によってプロペラを調整するというもの。前検日の早い段階から、調整を始めていくスタイルということも言えるだろう。

 

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 逆に、いわば今垣タイプだったのが、海野ゆかりだ。これまでのレディースチャンピオンなどでも、同様の姿を見かけている。やはり試運転の時間はあまりとれないわけだが、それも含めて、点検を納得するまでやってから水面に出ていくのが彼ら彼女らのスタイル、あるいはルーティン。もちろん、スタート練習とタイム測定のあとは、時間いっぱいまで調整作業を続けている。

 

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 ところで、新プロペラ制度以降、前検日のプロペラの扱いに関しても、いろいろなスタイルがある。たとえば瓜生正義は、プロペラをまったく見ずに試運転、スタ練、タイム測定をして、そこで得た感触をもとにプロペラの形状をチェックして、調整を始める。もらったままの状態でどう感じるのか、を大切にしているのだ。今日で言えば、平山智加が同様だったようで、それでいてまずまずの感触で、足合わせでは金田幸子より分が良かったそうだ。その感触が、どんなプロペラの形からもたらされるものなのか確認し、そこから調整の方向性を探し出していく。さまざまなことを試しながら、万全を期していくわけだ。

 

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 一方、まずはもらったプロペラをチェックして、いきなり叩きはじめる選手もいる。自分の形にこだわりがある、あるいは現在の自分の傾向で当たりが出ている場合には、その形にして感触はどうなのか、ということを大事にしているわけだ。SGでは坪井康晴がこのタイプだろう。今日は、長嶋万記、藤崎小百合、山下友貴らがボートを水面に下ろす前にペラを叩いている。もっとも、彼女たちに共通しているのは、スタ練&タイム測定の班が後半であること。長嶋が5班、藤崎と山下が6班だ(今日は7班まで)。5班以降が後半組で、4班のスタ練&タイム測定の後には後半組の試運転タイムがある。つまり、時間に余裕があるわけである。1班だったらどうしていたか、は何とも言えない。

 

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 1班では、中谷朋子が茶谷と福島の次くらいに着水している。試運転後にプロペラを叩いていたかどうかは、ちょっと見逃してしまったのだが、スタ連&タイム測定の後には、プロペラをガンガンガンガンと叩いていた。かなり大きな金属音を響かせて。一気に形を変えようとしているようだ。

 会見で中谷が語ったことによれば、「新品リングが入っている。独特な形、独特なセッティングで、このまま行きたくない」とのこと。つまり、自分のセッティングともペラの形ともまったく違うわけなのだ。だから、中谷はまずエンジンのほうに着手し、会見はその途中で行なっていて、おしぼりで手についた油を拭いながらのものになっている。「本体、ギアケース、プロペラ、全部やります」と、前検の段階からやれることをすべてやっておこうという心づもりなのだ。あの力強い木槌の振り下ろしは、ペラを自分の形に直そうとしているもののはずである。

 

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 その後も、柳澤千春、津田裕絵がやはりガンガンとペラを叩いている。津田の引いた22号機は2連対率27.6%。やはり感触が悪かった? 自分の形にして反応を見て、さらに調整をということだろうか。柳澤の引いた71号機は、2連対率34.9%。しかし、実はこれ、整備士さんのオススメモーターとのことで、今日整備士インタビューをしたという高尾晶子さんが「いいモーターなのにえらい叩いている」と驚いていた。たしかに、動いているモーターについているプロペラである。むしろ大きく叩くのに勇気がいるような気がするのだが。

 

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 元選手の方と話していてよく出るのが「男子と女子では出方が違う」。体重差がある分、いくら出ているモーターでもそのまま女子が乗れるとは限らないし、女子戦で噴いていたモーターに男子が乗ってその通りに噴くとは限らないということだ。だから、仮に出ているモーターでも女子がプロペラを叩き変えることがあるのは、実は日常的なこと。以前、SGのあとの女子戦で、前検日からガンガン女子選手がペラを叩いていて驚いた、なんて話も聞いたことがある。SGレーサーが仕上げたペラを叩いちゃうんだから、まあ、驚いてもおかしくはない。でも、それは変わったことではないようなのである。ちなみに、さっき書いた中谷の「独特な形とセッティング」の前操者は柾田敏行。ベテランと女子の攻撃派ではスタイルが違って当然かも。さらにちなみにその数節前に宮本紀美が乗っていて、ちょっとほくそえんでしまいました(笑)。

 

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 そんなこんなで、叩き方の強弱の違いはあるが、7班のスタ練&タイム測定が終わったあとも、3か所あるペラ調整所は大盛況。おぉ、福島陽子も最後まで調整をしていたぞ。今日もっとも仕事を長くした人だったりして?(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)