BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――若武者セミファイナル

10R 卒業

 

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 11R発売中や12R発売中には、装着場にあらわれては大騒ぎしていた西山貴浩だが、レース直後はといえば、意外と静かなのであった。

 前付けで内を深くしたことを、なのか、篠崎仁志には神妙な顔で近づいて、軽く頭を下げながら右手を上げた。山口達也や西川昌希と話すときなども、ただ顔を歪めて言葉少な。2着に入っていればやっぱり大騒ぎしていたはずなだけに、そのおとなしさが意外であった。

 5日目は、レースを終えた選手のボート洗浄が行なわれる。後輩たちとともに自分のボートを洗い終え、ひとり控室へと歩み出したとき、西山はボソリとつぶやいた。

「卒業、卒業」

 今年が最後のヤングダービー。曲者軍団として水面でも陸でもおおいに盛り上げてきた西山は、その実、胸に期するものは大きかったのである。西山は新鋭王座決定戦への出場も早かった。ヤングダービーは皆勤賞。たくさんの“若手最強決定戦”を走ってきて、今日の10R、ついにタイトルを手にすることなく、戦いを終えた。だから、卒業。もちろん明日の2走が残されているわけであって、これが次のステージへの助走となる。最後の若武者バトルをおおいに堪能して、新たなる地平へと歩んでいってほしい。

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 勝った篠崎仁志は、淡々とした雰囲気。ここでは格上の存在だから、イン逃げで優出を決めたからといって、歓喜するというわけではない。2着の宮地元輝は、ボート洗浄の最中に、何度もいい笑顔を見せていた。後輩の山田康二らとポジティブな会話を楽しんでいるふうでもあった。2年連続ヤングダービー優出。宮地にとっても、これが最後のヤングダービーだ。悔いのない卒業を迎えてほしい。

 

11R 怯まない

 

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 整備室で観戦していた選手たちがものすごい歓声をあげた。3周1マーク、2番手を走る丸野一樹に遠藤エミが追いつき、さらに小坂尚哉が4番手から2番手争いに加わった場面だ。整備室にいた面々は圧倒的に女子選手で、遠藤が並びかけたことへの歓喜、しかし小坂に舳先をかけられたたことへの悲鳴、その両方だったか。

 

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 ピットに戻ってきた遠藤は、たびたび悔しげに首をひねっていた。小坂は、苦笑いの連発だ。登番最上位の男が、登番下から2番目の男に競り負けてしまった。そんな意味も、苦笑いにはあっただろうか。

 

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 丸野一樹、お見事! ルーキー世代からの優出者が出たのだ。しかも、丸野曰く「偉大な先輩」の遠藤の追い上げを切り抜け、最後は覚悟の切り返しでキャリアが圧倒的に上の先輩をしりぞけ、大殊勲の優出である。とにかくもう、丸野はニコニコニコニコなのであった。

 なにしろ、初めて経験する共同会見でもずっとニコニコニコニコなのだ。実に人のよさそうな雰囲気だ。「明日の出走表に本当に載ってるのか、信じられない」との言葉もあわせて、なんとも初々しいGⅠファイナリストだ。足に関しては「直線は普通、乗り心地はそこそこしっかりしている。回り足、出足は普通よりはある」と、決して上位ではない。ただ、この男には節イチのものがある。「ツキだけは一番あるかな」。最後の最後に準優に滑り込み、準優1マークではいい展開が生じた。たしかに、今節のラッキーボーイ的なところはあるだろう。明日の相手はひたすら強い。しかし、ツキを信じて怯むことなく戦ってほしい。明日もいいニコニコ顔を見せてほしいぞ

 

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 勝ったのは松田大志郎。優勝戦ポールポジションだ! 中嶋健一郎が歩み寄って「あと1コ!」と嬉しそうに声をかける。松田の表情は淡々としたもので、周囲のほうが沸き立っている感じだった。僕と目が合うと、「OKOK」と安堵の様子も見せる。そこに大きな歓喜はなく、気を緩めていない雰囲気もうかがえる。

 結果的に、明日は2枠から外にズラリと今節のオールスターメンバーが揃った。まるで大志郎包囲網だ。「しんどいですけど、今までやってきたことを信じてやれています。プレッシャーを楽しめていますね。1号艇だけど僕は挑戦者。攻める気持ちを忘れずにいきます」と、まったく気後れせずに戦えそうだ。さあ、現時点での登番最若手GⅠウイナーへ、あとひと逃げ。明日も強い気持ちで戦いに臨む。

 

12R ツートップの言葉

 

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 勝ったのは桐生順平。2着が岡崎恭裕。先ほど仁志のことをあっさりと通過したが、同じくあまり書くことがない(笑)。淡々とピットに戻ってきて、すぐに地上波中継のインタビューに呼ばれたから、レース後の様子もそれほど見られたわけではない。強いて言うなら、岡崎が対岸のリプレイに見入っていたことか。「1マークはまくり差しを狙っていたが、寄りすぎてしまった」。それを映像で確認していたのだろう。優出を当然の結果とはもちろん言わないが、岡崎曰く「ノルマ」であるのは確かなので、優出が決まって即座に明日に向けての反省と検証を行なったというところだろう。

 

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 あ、ひとつ。これをどう解釈するか、という二人のコメントがある。岡崎は今日はわりとネガティブな感覚でレースに向かったという。というのも、ボート変更があって以降、仕上がりに不満が残るようになったのだ。今日はチルトを0度に跳ねているが、これは新ボートだと取り付けが低くなってしまうため(昨日はその調整が間に合わないままレースに向かったそうだ)。「優勝戦入って下がらなきゃいいなってくらい」と足は決して強めではない。ただ、「あ、でも順平とは大差なかった」と付け加えている。ところが桐生のコメントは「全体にまずまずですね」と不満を表明していないのだ。「センター枠だからチャンスだと思っている」とも言っている。桐生があえて強気にふるまっているのか。実は岡崎も体感以上の仕上がりになっているのか。桐生が「いいところを強いて言うならグリップ」と、出足行き足回り足伸び以外のことを言ったのがちょっと気になるが……。

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 この12Rの敢闘賞は北野輝季。地元のプライドを前付けというかたちで見せつけた。展示では4コースだったが、本番では2コースまで獲り切った。6コースから何もできずに優出を逃すより、自分自身も見ている者もはるかに納得できる戦略だろう。

 その北野に西山が「テルキ! ナイスファイト!」と労いの言葉をかけていた。「俺も2コース入りたかったよーん」と付け加えて笑わせてもいるが、北野に心のなかで拍手を送っていたのは間違いないだろう。明日の特別選抜A戦は5号艇、そして西山が6号艇。明日は西山相手にバッチリ競り合って、地元ヤングダービーを盛り上げろ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)