SGのタイトルを持っているから、プレミアムGⅠのタイトルを獲り逃しても悔しくない……なんてことがあるわけはない。格上の桐生順平と岡崎恭裕が2着3着。さすがと言うほかはないのだが、しかしその結果に納得できるはずがないのだ。
「いいターンしてたでしょ?」
モーター格納を終えた岡崎が悔しそうにそう声をかけてきた。たしかに、4カドからの差しは、ターンマークすれすれを鋭く回り、引き波もしっかり超えて、テレビカメラの角度からは舳先が届くようにも見えるものだった。しかし届かず。まだ2マークで逆転の目があるとその態勢を作ろうとしたところに、外から桐生が絞めるように前に出た(差した瞬間は桐生は視界に入っていなかったそうだ)。これで万事休す。文句なしのターンができた手応えがあったから、なおさら敗戦は悔しい。勝てなかったことがただただ悔いとなって胸を締め付けるのだ。
桐生も同様。渾身の攻めを放ち、バックでも舳先がかかるかという場面がありながらの2着だ。ピットに戻って来れば当然、首をひねることになる。サバサバしていたようにも見えはしたが、胸の内はまた別のお話だ。
格上という意味では、篠崎仁志もやっぱり同様。すでにGⅠウイナーで、来年もヤングダービーに出られるからといって、負けて仕方なし、とはしない。スリットではのぞいていたのだから、「もうちょっとプレッシャーかけるべきでしたかねえ」と悔しがる仁志。慰めというわけではないけど、「グランプリには行きましょうね、絶対!」と振ると、行きますよと決意表明はしたものの、「今日勝っとけば、ねえ」となる。敗れれば悔恨ばかり残るのは当たり前だ。
実績では圧倒的にかなわず、キャリア的にも若く、しかも6号艇だから、負けてもどうってことない……なんてことももちろんない。丸野一樹は、自分を挑戦者だとしっかり認識したうえで、しかしチャレンジが失敗したことに悔しげな顔を浮かべている。先輩の遠藤エミや今井美亜とレース後に談笑しつつも、ふとしたときに真顔に戻る。汗だくで顔を真っ赤にしながら、敗れた事実をしっかり受け止めているように見えた。
もうひとり、宮地元輝ももちろん悔しい。僕が見た範囲では、首をひねった回数がいちばん多かった。優出メンバーのなかで、いちばん最後まで調整作業をしていたのが宮地。11R発売中の午後3時30分過ぎにはボートがまだ装着場にあったし、ペラ調整をかなりギリギリまで行なっていた。やることはすべてやったから、悔しくなんかない……なんてことは当然まったくないわけで、調整が実らなかったことも含めて、むしろ悔しさは大きいだろう。
そうした悔しさを敗者に味わわせたのは松田大志郎だ。見事な逃げだった! スリットで3分の1艇身ほど後手を踏んだときにはヒヤリとしたが、伸び返して逃走。桐生が握って攻めてきたが、松田は冷静にターンマーク際をしっかり先マイ。押し切った格好だ。
レース前の松田は、緊張がないわけはなかっただろうが、そこから逃げることもなく、“主役”の時間を味わっているように見えた。9R終了後にすれ違ったので激励の言葉をかけたときには、柔らかな微笑も浮かべている。ガチガチになって失敗することはまずないだろうと思った。
ピットに凱旋した松田もまた、高揚感は大きかっただろうが、そこで歓喜を爆発させるのではなく、チャンピオンとして冷静にふるまっているように見えた。ガッツポーズをしなかった理由を「他の5人の方に敬意を表すべき」と会見で語っていたが、そんな思いもあっただろうか。周囲はもちろんそうではなく、同県同期の岡村慶太、竹井奈美とハイタッチをしていたし、やはり同期の西川昌希も手を突き出して祝福していたが、松田は嫣然と微笑み、全身で喜びをあらわすというふうがなかった。
松田大志郎は、生真面目に己と、周囲と、勝負と、状況と、そのほかさまざまなものと向き合う男だと思った。これからはさらに大きな舞台が松田を待っているが、昨年クラシックでの悔しい経験としっかり向き合った松田は、今日の優勝をもう一丁糧にして、SGでの戦いと向き合い、実績を積み上げていくだろう。今日さらに強さを手にした松田とSGで会うのが本当に楽しみになってきた。SGでもきっと、男っぽい戦いを見せてくれるだろう。
松田大志郎、おめでとう! 今日をひとつの通過点として、さらに大きな志を胸に飛躍してください!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)