BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

羽野キュンという男・FINAL

12R優勝戦
①馬場貴也(滋賀)08
②茅原悠紀(岡山)04
③磯部 誠(愛知)10
④桐生順平(埼玉)10
⑤羽野直也(福岡)11
⑥池田浩二(愛知)14

 羽野キュンが猛烈な局地戦を横目に、ずっきゅーーーーん突き抜けた、おめでとう!
 まずは、羽野をSGの天辺まで導いた局地戦だ。なんとなんと人気を二分した馬場vs茅原のウルトラ大競り!! 馬場クンからしこたま買っていたファンは卒倒しただろう。私はじめ茅原から買っていたファンは無駄な脳汁をだらだら垂れ流しながら、最後にはやはり卒倒しただろう。はい、卒倒しました。

 だがしかし、私は卒倒しながらも不快な気分にはならなかった。ゼロ台前半まで突っ込んで、迷うことなくジカまくりに行った茅原。引き波を浴びたら一巻の終わり、凄まじい伸び返しで徹底抗戦した馬場。それぞれがそれぞれの意地とプライドをすべてぶつけ合って、ともに消え去った。もしもこの大競りを馬鹿とか不毛とか思う方がいるのなら、あなたはこの競技には向かないのではないか。
 今日の馬場vs茅原こそが、極上かつ崇高な『水上の格闘技』なのだ。

 あっという間に大波乱が確定した1マーク。もちろん、もっとも美味しい展開だったのは、茅原の外にへばりついた磯部だ。眼前のふたりが真横に流れて消え去り、イン逃げのような空間が生まれた。
「はい、SGもう一丁、ごっつあんです!」

 本人は思ったかも知れない。茅原を目で追っていた私はリプレイで検証したのだが、磯部は握り過ぎず落とし過ぎず、ターンマークも漏らさずに旋回している。だがしかし、5コースの羽野はそれでも磯部の内からずっきゅーーーんしていた。天才レーサー桐生の外をくるり旋回してのまくり差し!! これをもって「桐生よりターンスピードが速い」とは思わないが、初動からやんわり握り込み、舳先を突き入れるタイミング、角度までまったく隙のない旋回で桐生を追い抜いていた(リプレイ鑑賞)。

 ただ、それで決着が付くほどSGは甘くない。差し抜かれたはずの磯部40号機がじわり舳先を伸ばし、2マークの手前では逆に突き出している。今度は磯部に差しのターンが回る。羽野の内には今節だけで何度も先行艇を追い抜いている桐生。まさに「前門の虎、後門の狼」だ。
 2マークの直前。最内の小回りでは勝ち目がないと見た桐生が、やんわり外に持ち出してマイシロを蓄えた。これを察した磯部は、この桐生にツケマイを浴びせながらの鋭敏な差しハンドル。私の目にはズッポリ突き抜けそうな角度に見えたのだが、そうはならなかった。

 ここだ。羽野キュンがSG初Vを決定づけたのは。そして、SGタイトルを獲るに相応しい男だと完全に証明したのは。先手の羽野は2マークを真っすぐに目指さず、握りっぱなしの先マイで流れるようなターンもせず(磯部はそこを狙っていたずだ)、逆にターンマークを大胆に外しながら磯部に接近し、前を通過する寸前にもみもみ減速した。差しのターンを与えられたはずの磯部は、それでSG連続Vの花道を完全に塞がれた。

 つまり羽野は「ターンマークを大きく外して半端に減速する」という一般にはダメと言われる旋回を、ここ一番の勝負手で放ったのだ。将棋でいうなら「相手の打ちたいところに打て」。桐生と磯部に挟まれながら、これだけ大胆不敵かつ変則ターンで突き抜けたのだから、天晴れと言うしかない。

 昨日も書いたが、準優でバック5、6番手から2着までゴボー抜きした際も、スピードと勝負手を巧みに使い分けながらぐんぐん追い抜いていた。そして今日は1マークで桐生を出し抜き、2マークで磯部の息の根を止めた。SG初優勝の最大の契機は馬場vs茅原の大競りなのだが、「準優~優勝戦のあの展開をすべて乗り越えて頂点に立てる男は、114期以降では羽野直也しかいない」と断言していいだろう。
「2マークを回って先頭に立って、やっと落ち着きました」
 羽野キュンはか細い声でこう言ったが、なんのなんの、キミは1マークも2マークも冷静的確な勝負手をしっかり成功させていたのだよ。

 最近の羽野は一皮剥けた。
 ここ2年ほど、私と黒須田は何度もこんなセリフを交換し、もはや我々にとっての羽野キュンはズル剥け状態なのだが(笑)、今節はマジでズル剥け羽野キュンを堪能させてもらった。誰もが思ってることだから説得力はないけれど、最後にこう予言しておこう。
 羽野キュン、これからあんたはSGをいっぱい獲るよ!(photos/シギー中尾、text/畠山)