BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――コク深い優勝戦になった!

 

9R 祝・SG初優出!

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 石川真二がデビュー28年にしてSG初優出!
「ちょっと遅いかな。初優出といわれるのは恥ずかしい(笑)」
 思い出すのは07年クラシック。準優でいったんは2番手を走りながら、3着に敗れた。あのときの悔しそうな表情は、今も記憶に鮮明だ。ちなみに、石川を抜いたのは井口佳典、SG初優出を決めた瞬間であった。
 石川が優勝戦に残って、明日の12Rは面白みをグググッーッとぉ!(高橋アナ調で)増した。先に書いてしまうが、10Rを勝ち上がった池田浩二がコースを問われ「いずれにしろ石川さんの右になると思う」と言っているのだ(枠番は池田のほうが内だから、枠なりなら石川の左になる)。
「いろんな方から今の進入は面白くないと聞いていた。ただ前付けにいくのも面白くないし、ピット離れで獲れれば誰にも文句は言われない。それなら、とピット離れ仕様を考えた」
 アッパレ、としか言いようがない。その哲学で、石川はついに優勝戦に辿り着いた。めでたいし、ボートレース史を彩るもののひとつになったと僕は思う。

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 2着は石野貴之だ。レース後に深川真二に祝福されていたのが印象深い。支部も違うし、レーススタイルも違う。それでも、深川には感じるものがあったということだろう。石野は顔をくしゃっとして応えていた。
 優勝戦も6号艇。しかし、進入が一筋縄でいかないだけに、仮に6コースでも簡単に軽視できない存在だ。今年は賞金レースでは少々出遅れた感があったが、ここに来てしっかりと帳尻を合わせてきた。エンジン出しに苦労してきた印象もあるなか、今日はバックの足は明らかに優勢だった。ここ一番の勝負強さは図抜けている男だ。波乱を演出したとしても何も驚けない。

10R ゴキゲン!

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「おぅ、あとは頼んだぜ!」
 出迎えた面々に軽口を飛ばす。どっと笑い声が起こった。池田浩二は、エンジン吊りやボート洗浄(5日目の恒例作業)はお前たちでやっとけ、とばかりに胸を張ったのだ。どうだ、見たか、地元SGで優出してやったぜ、俺だ俺だ、池田浩二様だ! そんな感じ? などと言いつつ、もちろんエンジン吊りもボート洗浄も最後までしっかりこなしてました。
 ようするに、ゴキゲンなのだ。兄貴分のテンションの高さに、西山貴浩も声を張り上げる。二人で顔を見合わせて、ガハハハハ! JLCの勝利者インタビューでは、西山にマイクを持たせていた。マイクスタンドかい! 一見クールな池田浩二の、これがピットでよく見る素の姿。優出を決めて、それが爆発したというわけだ。
 先述したコース獲りの話。「石川さんの右」と言って、池田は一瞬、黙り込んだ。そして……
「石川さん、優勝戦に乗ってますよね?」
 見てないんかーい! 会見場は大爆笑に包まれている。11Rの結果が出る前の会見、もし優勝戦1号艇になったときに「石川さんの右」と言えたかどうかはわからないが、逆に言えば「石川さんが飛んでも勝負になる」という感触があるのだと思う。明日は地元の威信を背負うことにもなっただけに、しっかりと一発を狙う戦いを見せてくれるはずだ。

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 それにしても、篠崎元志は本物のスターだ! 長期休場からの復帰戦がSGで、いきなり優出。こんな芸当をやってのけられる者は、まさに選ばれし者である。仲間からの祝福にはカッコ良すぎる笑顔を返す。11R発売中にピットに姿をあらわし、こちらと目が合うと、微笑を浮かべつつ、力強くふたつ頷いて見せた。ふー、何をやってもカッコいいですな! 
 正直、レース勘なども含めて、ちょっとした不安はあったようだ。しかしエース機を引き、初戦を勝利し、準優もクリアしたことで、そうしたもやもやは完全に払拭した。となると、あとは年末に向けて猛チャージあるのみ。11Rの結果を受けて、その思いはさらに強くなってもいるはずだ。この男なら、復帰戦でいきなりSG制覇、なんてことをやってのける可能性は十二分にある。

11R 悔恨があふれる

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 進入も2番手争いも激しくなったこのレースでは、とにかく敗者の悔恨が渦巻くレース後となっている。
 まずは篠崎元志だ。書き間違いではない。元志である。11Rが終わると、整備室で観戦していた元志は誰よりも早く、装着場に出てきている。その顔が激しく歪んでいた。静かに、悔しさを噛み締めていた。惜しかった。初の兄弟SG優出まであと一歩だった。弟は開会式で「久しぶりに兄弟で頑張ります」と言った。もしかしたら、普段以上に「兄弟で」の思いは強かったかもしれない。それだけに、あと一歩が、とてつもない距離の長さに増幅されて胸に迫る。先に優出を決めていただけになお、元志はつらい思いを抱えた。

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 もちろん、篠崎仁志の顔も歪んだ。兄の優出を展示ピットで見て、仁志は燃えたはずだ。しかしそれは結果には結びつかなかった。2番手争いの走りもアツかった。何としてもの思いはビンビンに伝わってきた。正直、仁志2着の舟券は一枚も持っていなかった僕だけれども(競り合いの相手は2着の本線だった)、思わず仁志を応援してしまっていた。だが、届かなかった。その悔しそうな表情は、単にSG優出を逃しただけのものとはとても思えなかった。

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 平本真之の様子も激しかった。もともと悔しさを隠さないタイプではあるが、レース直後は苦笑すらも浮かぶことはなかった。絶対に先輩の前付けを入れないと決意し、本番が始まってみたら2コースになっていた。それを想定していたかどうかはともかく、しかしそれは確実に平本の闘志を表現したものだった。そこまで胸の内をぶつけての大敗。平本が激情をあらわにしても当然だ。ただ、菊地孝平に声をかけられて、ようやく苦笑は浮かんだ。菊地は「間違ってない!」と平本を励ましたのだ。そう、間違っていない。平本にかけられるべき言葉は「ナイスファイト!」だ。

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 後輩に抵抗された赤岩善生は、かなり苛立っているように見えた。平本に対してではない。自分に対してだ。なにしろ、いったんは2番手争いに加わった、いや、それどころか有利な態勢にあるようにも見えていたのだ。蒲郡で負けるわけにはいかない、の思いを胸いっぱいに溜め、しかし負けた。これで赤岩が笑っていたらおかしい。男・赤岩はひたすら自分を責めるしかなかっただろう。そこにこの一戦に懸ける思いがたっぷりとあらわれていて、それは胸に迫る光景であった。

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 激しい2番手争いをしのいだのは井口佳典だ。明日の井口の進入、ちょっと気になりませんか? そう、石川真二ほどではないけれども、ピット離れで飛ぶのだ。11Rもそう。井口がぐっと出ていったことで、進入争いはさらに激しいものとなった。井口も「正直、インまで行くような調整でした」と語っている。ただし、「でも無理でした」ということで、明日については「石川さんが3号艇にいるので」とイン獲りについては特に考えないということのようだった。でも、ひとつ内の枠の元志をピット離れで叩く可能性はあるよなあ。なにしろ「本能に任せる」とも言っているので、何が起こってもおかしくはない。

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 優勝戦1号艇をゲットしたのは守田俊介。おそらく想定外の進入になったが、問題なく逃げ切った。本人曰く「間違いなく節イチ」。3年前に浜名湖でダービーを制したときよりもいいというのだから、本物である。というわけで、守田の中に不安要素は限りなく少なくなっているようだ。レース後に飄々とした表情を見せるのも、予選道中と変わりはない。メンタル面もかなり仕上がっていると言っていい。
 ただ、進入はどうなるんでしょうね。飛ぶ石川は、守田にとっても相当な脅威のはずだ。「コメント的には死ぬ気でインから。とにかくねじ込みます。強引にねじ込みます、と書いておいてください」
 どういう意味か、その判断はご覧になった皆さんにお任せします。とにかく、守田LOVEの畠山には悪いが、節イチの1号艇に、バナレ飛ぶ3号艇という組み合わせで、優勝戦は実にコク深いものとなったと思う。今日は進入で呑めるな~。石川さんの右と言ってる2号艇、3号艇ほどじゃないけど飛ぶ5号艇、伸びはかなりのものの4号艇、勝負強い6号艇……本当に面白い優勝戦になった。このメンバーで、守田が堂々逃げ切ることになるのか。やはり最大の注目点はそこになるだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)