BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――これぞ最高峰!

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「皆さんも展示はアテにしないほうがいいんじゃないですか」
 トライアル1stを勝ち抜いた菊地孝平が、記者会見でそう言った。12R、スタート展示は枠なりだったが、本番では新田雄史が決然と動いた! 思い切った前付けで、2コースまで潜り込んだのだ。いや、それはまさに奪い取ったという表現のほうが正しい。それをふまえて、菊地は続ける。
「新田も勝負を懸けて戦いました。これが最高峰の勝負なんです」
 そう、これぞグランプリ! そしてトライアル! 新田には徹底的に拍手を送るべきだ。新田自身、動いて満足などということがあるはずがなく、レース後には落胆を隠していなかったが、結果以前にその覚悟、決意、闘志はひたすら崇高である!

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 そして、我々ファンもまた、最高峰の勝負で別の勝負をしていることを自覚しなければならないだろう。展示と進入が違ったらわかりにくい、などと言っている場合ではないのだ。すべてを想定して、我々も勝負するのがグランプリなのである。なにしろ、最高峰の戦いを経験してきた菊地は、「本番では新田が動くかもしれない」と想定していたという。だから、どんな状況になっても対応できる準備をしてきた。スロー4コースも想定外ではなかったということであり、だからきっちり2着を獲り切って、2ndに進むことができた。我々も、菊地に刺激を受け、そして見習わねばならない!

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 逃げた馬場貴也も、新田の動きは想定にあったという。レース間のスタート特訓で新田が2本とも6コースに艇を持って行っても、馬場は油断せずに深い起こしの練習もした。そして、しっかり逃げ切った。これがグランプリなのである。初出場の馬場が、浮足立つことなく、その戦いぶりをまっとうできたこともすごいことだ。初出場にしていきなり2連勝という結果もすごいが、それ以上にこの最高峰バトルにきっちり対応していることが素晴らしい。

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 1stを勝ち抜いて2ndに駒を進めたのは、ほかに吉川元浩、桐生順平、笠原亮、岡崎恭裕。吉川は記者会見で、「1st組ではトップクラス」と言い切った。あとは2nd組との比較にもなってくるわけだが、このシステムになって初めての出場でもしっかりクリアしてみせたのは、吉川の積み重ねてきた実力と、その上位のパワーがマッチングした結果であろう。

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 その吉川と「変わらない」と言い切ったのが岡崎恭裕だ。昨日よりも乗りやすかったといい、11R5着という結果ではあるが、足的には不安がないようだ。11R終了時点では2nd当確は出なかったわけだが、しかしさすが聡明な岡崎、12Rの得点状況なども勘案して「有利な“待ち”でしたからね」と、それほど冷や汗をかいてはいなかったようだ。ただ、12Rの進入がもつれたことで、「うわあ、④-⑥はぁぁぁ、と思った(笑)」。その2連単で決まれば、たしかに岡崎が落ちる可能性はある。そうした条件も瞬時に計算してしまうのだから、算数にめちゃ弱いワタシは脱帽です。

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 笠原亮は、勝ち抜いた選手のなかでは、手応えにはやや不満あり、のようだ。行き足や伸びが足りない、というコメントは、前検から口にしている「パンチがない」と同義語だろう。2ndを戦い抜くためには、そこを何としても上積みしたい、と考えているようだ。ペラ調整に没頭するのはいつものことだが、明日はかなり切羽詰まっての調整になるのかもしれない。

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 それにしても、やはりトライアル1stは過酷である。何しろ、前年度覇者の桐生順平が「いっぱいいっぱい」と口にしたのだ。菊地も「しんどいですよ」と言っていた。何度も書いているが、たった2戦で天国と地獄を分けるこの戦いは、過酷さでいえば1年で最高の一戦かもしれない。桐生は、初出場だった14年は1stから出場して、敗退してシリーズへ回った。それから3年連続で2ndからの出場。1stから勝ち上がったのはこれが初めてということになる。それも、4年前とは置かれた立場が違う。期待の若手だった14年と、前年度覇者として臨んでいる今回。本人も数倍強くなったという手応えはあるだろうし、我々が桐生を見る目はまるで違っている。そうしたなかで勝ち抜くのは、桐生であっても精神を追い詰めるものなのだ。我々は今、そうしたとてつもなくレベルの高い戦いを目の当たりにしている! 改めて、グランプリを目撃できる幸せに痺れますね。

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 さあ、明日からトライアル2nd。ベスト6が合流する。6人とも、最後まで精力的に試運転や調整を続け、戦いの準備を整えた。1stの激闘を目の当たりにしながら、闘志を高めてもいただろう。やはり1st組に比べると余裕がうかがえており、いい緊張感で戦いを始められそうだ。

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 いや、守田俊介だけは例外と言うべきだろう。馬場が「乗れない乗れないって、焦りまくってた」と証言しており、足自体はいいのだが、まったく乗り心地が来ていないようなのだ。守田自身の表現では、こうなる。「ここ5年くらい……いや、5年10年、記憶にないくらい乗れない。なんやこれ、って」。レースができるレベルではないほどに、サイドもかからないし、乗りやすさがないというのだ。そこはまさに守田の生命線なのだが。だから、こんなに働いている守田を見たことがない、というくらい、昨日も今日も守田は朝から夕方まで調整と試運転を繰り返した。それでも、「(前検日も含めて)3日間、得たものがない」とまで守田は言う。明日1日、それを解消できるかどうかが、大きなカギになりそうだ。ちなみに、「足は白井英治とほぼ一緒」とのこと。乗りやすささえ来れば、上位なのだ。

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 シリーズ。整備室に陣取っていたのは小野生奈だ。今日は2走目に6着をとってしまい、レース後には本体にメスを入れた格好だ。レースぶりは決して悪くないのだが、結果に結びつかない。明日からは上位モーターを手にしているトライアル敗退組が合流するとなれば、少しでも上積みをはからずにはおれないだろう。その小野が、12Rの進入を見て、思わず立ち止まっていた。展示6コースの新田が動くとは想像していなかったか。この極限の勝負を間近で目撃したことは、小野にはかならず刺激になるし、小野をさらに成長させる糧になるだろう。

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 10Rを逃げ切った湯川浩司が、同期の井口佳典と笑い合う姿があった。昨日のシリーズ特別戦6着後にはひたすらうつむいていたし、今日の前半は2着でも深刻そうな表情だったし、そもそもレースが始まった昨日からは笑顔をついぞ見ていなかった。選手にとって、こころを明るくするのは、モーターの良化と1着しかないということだろう。湯川はやっぱり笑顔がいいですね。

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 その10Rで2着の平尾崇典は、エンジン吊りを終えると突如、猛然とダッシュした。全力疾走で控室へ。なんだなんだ。その数分後、通勤服に着替えた平尾があらわれた。なるほど。10R終了後に、帰宿バスの1便が出発する。それに乗ることになってたんですな。急いで着替えなきゃ、ということで全力疾走。控室に戻るにはいちど右折しなければならないのだが、そこはもちろん全速ターン。今節の平尾の伸びはかなりのものだが、陸の上でも超抜の伸びでありました。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)

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勝負駆けが実らなかった石野貴之は、エンジン吊りのあとはヘルメットのシールドを上げることなく、肩を落として引き上げていった。グランプリへの思い入れを思えば、その心中は察するに余りある。明日からのトライアルに、地元大阪勢が皆無……。