BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――讃岐レディース躍動

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「よぉーっしっ!」
 6コースから中村桃佳がトップスタートを決めて締めていった瞬間、ピットでは力強い声があがっている。誰の声かはわからなかったが、関係性でいえばやはり山川美由紀だったか。実際、山川は6人の帰還を待つ選手たちの最前列で、中村に対して諸手をあげて歓喜を示している。

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 中村を応援していた者なら(アタマ舟券を持っていた人も)、あの会心のショットには声をあげて当然。なんとも気持ちの良い6コースまくり炸裂! 中村自身も爽快だったことだろう。ヘルメットの奥で瞳はキラキラと輝き、仲間に声をかけられるたびにニコニコと返していた。

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 12Rが讃岐6コースまくりなら、11Rは讃岐イン逃げ! そう、山川美由紀だ。今日のトライアルは香川支部が主役を奪ったわけだな。山川はコンマ01の超絶スタートからの逃げ切り。松本晶恵に迫られる場面もあったものの、ファイナル当確を決める逃走劇に、満足そうに笑っていた。モーターを整備室に運搬する役を買って出た實森美祐には弾んだ声で、「置いといてね!」。気分の良さが伝わってくる、レース後なのであった。
 で、あまりにも意外なことだったのだが、山川はこれがトライアル初1着、なのである。怪我による長期欠場があった14年以外はクイーンズクライマックスに出場し続けている山川に、まだトライアル1着がなかったなんて! 抽選運で苦労してきたことを物語るようでもあり、そう考えると男子のあの人を思い出して、山川には王者のような風格を感じてしまう。「素直に嬉しいです」とトライアル初1着にニッコリ笑った山川。まあ、水神祭は行なわれませんでしたが(笑)。

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 2着は、11Rが松本晶恵。レース後、支部を問わずに多くの選手に話しかけられているのが印象的だった。ピットで見られる松本の絡みというのはもちろん群馬支部の選手が多いわけだが、それ以外にもさまざまな選手と話し込んでいるのをよく見かける。今朝も、落合直子と長く話し込んだりしていた。選手内で愛されているのがうかがえるシーンだ。その松本は、会見で進入を問われて長く考え込む場面があった。もし6号艇なら前付けに動くか否か、という質問に対してだ。抽選前の会見だったので、なかなかイメージしにくいところもあっただろう。ただ、前付けを否定はしなかった。結果的に、これはひとつのポイントになるかもしれない。

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 12Rは遠藤エミ。中村に締められる苦しい展開も、握り返して2番手奪取。さすがのテクだ。初戦が大敗だっただけに、レース後は安堵の表情。今日も大敗なら明日を待たずして、ということもあり得ただけに、この2着はやはり大きかっただろう。今日の遠藤は、まさにギリペラ。昨日の守屋美穂のように、直前まで調整を続けていた。それもけっこうガンガンと強めに叩いている。ようやく調整を終えた遠藤は、首を揉み、さらに両肩をほぐしながら係留所に向かっている。とことん木槌を振るって、肩も首も凝ったことだろう。その成果が出たわけだ。明日に向けて気分は完全に上向きになっているはずだ。
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 中谷朋子は5着。2走9点で、最終戦で勝っても想定ボーダーの21点には届かないことになる。ピットに戻った中谷の足取りはなんとも弱々しく、よろめいたように見える瞬間もあった。中谷は前期の女子勝率トップ。ここ何年かは明らかの女子の一線を張っている実力者である。しかし、なぜか大舞台に縁がない。レディースチャンピオンでも優出は1回だけだし、クイーンズクライマックスでは常に苦戦を強いられる。勝負のアヤをまともに喰らってしまっているのだ。言うまでもなく、この2戦が中谷の実力ではない。残りの2走でらしさを見せてほしいし、来年こそは大きなタイトルに手を届かせてほしい。

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 それにしても、小野生奈には拍手しかない。10R発売中のスタート練習も、12Rのスタート展示も、ピットでは選手たちがモニターを凝視している。小野の動きを誰もが気にしていたのだ。見ていた選手たちはどんな感情を抱いていたのか……。ほぼ前付けが見られない女子戦の現状を考えれば、小野は孤独な戦いをしているのだと思う。展示準備に向かう際、小野は貼り出されたスタート練習のスリット写真に長く見入った。スタートタイミングを頭のなかで計算していたのだろう。その時間はわりと長く、少なくとも1分はそこに立っていたように思う。その背中には哀愁のようなものが感じられたし、横顔には険しさもあった。本番でも小野は前付けを貫き、したがってレース後には5人の選手たちに頭を下げて回っている。3着という結果に対してでもあっただろうが、小野の顔は引きつっているように見えた。遠藤エミは、小野に対して何度かうなずき返していた。それを見てなんだかこちらが嬉しくなってしまった。やはり小野にはひたすら拍手を送りたい。

 

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 枠番抽選。その小野がまたしても6号艇を引いてしまった。明日も前付けか……? 小野の次に引いた寺田千恵が2号艇をゲット。寺田は小野に「ありがとう~~~。あなたが出してくれたから黒が引けた~~。あなたが出してなかったら、私が引いてたよ~~」と上段っぽく笑いかける。でも、深い起こしになるかもしれませんよ(笑)。

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 小野の前には松本が5号艇を引いていた。小野が動くなら、そのままだと6コース。ここで俄然、前付けを否定しなかったことが気になってくる。一緒に動くこともあるのか? それとも……。小野は2戦連続の6号艇で複雑な心境だろうが、進入争い的には実に面白くなったぞ。

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 先に抽選をしたのはA組(12R)で、山川がいきなり緑を引いて苦笑い。昨日は白を引いたのに、今日はまた“いつもの”緑。呆れて笑っているようにも見えましたね。ちなみに、会見で「もし緑を引いたら」の質問に「動きません」と答えている。こちらは枠なりだろうか。

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 白を引いたのはA組が遠藤エミで、B組が中村桃佳。遠藤は小さくガッツポーズをし、中村は初っ端に白を引いたので、目を丸くしていた。今節は決して1が強い流れとは言えないが、勝負駆けには心強い枠番であるのに変わりはない。今日の12Rのワンツーコンビが、勢いに乗ってティアラに王手をかけられるか。

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 シリーズ組。予選トップ通過は塩崎桐加だ。11R発売中に声をかけて1位突破を祝福すると、困ったような表情で笑顔を返してきた。やっちゃいました、てな感じ? そう思ってたらちょっと違った。塩崎は試運転組の動向を気にしていたのだ。今日も遅くまで試運転を続ける選手が何人かいて、塩崎はそのエンジン吊りに飛び回っていた。だから始終、水面に目を配っていたのである。お仕事中に声かけちゃってすみません。ともあれ、1位突破で浮かれたところは微塵もうかがえない。

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 シリーズのドリーム戦1号艇だった、つまりはバリバリの主役候補だった大山千広が勝負駆けに失敗。よもやの予選落ちとなってしまった。予選最終走は1号艇で、それを活かせなかったのはやはり痛かった。ピットに戻った大山は先輩たちに慰めの言葉をかけられ、やるせない表情を見せる。ドリーム1号艇の責任感を覚えていたかどうかはともかく、その姿には確実に女子一線級となったと感じさせるものがたしかにあった。この悔しさは、来年の大晦日のティアラ争奪戦で晴らせ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)