BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――大晦日の12Rへ

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 山川美由紀が、会見で気になることを言った。
「今日の12Rはさすがに回りすぎていましたね。11Rと12Rではぜんぜん違うとは聞いていたけど、本当に違った」
 山川は、初戦2戦目はともに11Rに出走している。2着1着ときて、12Rで5着に大敗したのはもちろんそれだけが原因ではないが、その感触の差の大きさを強く実感したようだ。ようするに、11Rと同じ調整では、12Rの時間帯には合わないのだ。
 たしかに、11Rと12Rでは気温が違う。11Rが始まる直前には10℃を切るくらいだったものが、12Rが始まる直前には8・2℃にまで下がっていた。11R後に一気に日が陰ることで、気温も急速に下がる。これがモーターの回転を上げてしまうのだ。結果、「後ろを走ってたらとにかく乗れなかった。操縦性が良くなかったですね」というように、機力に影響を及ぼす。「昼間だと回り足に自信があったのに」と、山川のパワーには不安がなかったのだから、たった1レースの違いが実に大きい。

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 明日の優勝戦で、まだ12Rを走ったことのない選手が一人だけいる。松本晶恵だ。
 小野生奈の前付けには抵抗すると、心に決めていたそうだ。これが大正解。しっかり展開を突いて1着ゴール。優出当確を真っ先に決めた。しかも、12Rの結果を受けて、ファイナル1号艇! 足は間違いなく上位だし、なにしろ2年前の平和島クイーンズクライマックスを1号艇から逃げて優勝している。その再現を果たすシーンは、容易に想像できる。それだけに、12R経験のないことがどう出るか、がカギになる。もちろん、「12Rはぜんぜん違うよ」という話は周囲から聞かされていることだろう。これに対応すれば2度目の戴冠は充分。2年前の優勝戦では直前までペラ調整に走る姿があったものだが、明日も同様の光景を目にすることになるかもしれない。

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 松本が12Rの経験を今節していない一方で、日高逸子は今節はすべてスロースタート。初戦は中村桃佳が好ピット離れを見せ、2戦目は小野生奈が前付け。ともに3号艇4コースだったわけだが、どちらもスローを選択している。今日は枠なり2コースだ。明日は4号艇。ピット離れうんぬんはともかくとして、前付けがなさそうなメンバーだ。ならば日高は4カドがとれる。もしかしたら、今節初めてのダッシュ戦になるかも、なのである。日高も「ダッシュのスタートを練習したい」と語っている。まあ、百戦錬磨のグレートマザー、4走目にして初めてのダッシュだからといって、慌てることなどないだろうが。あるいは、意表を突く作戦もあるかも!?

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 12Rの結果を受けて、6番目に滑り込んだのは寺田千恵だ。それを報道陣に聞かされて、「ウッソー! 乗れるの! ヤッターーーーーー!」。嬌声はピットに轟いた。カメラマンも一斉に寺田に向かってフラッシュを焚く。寺田はニッコニコで応えた。さらに、ともに優出を決めた同支部の守屋美穂がそばにいたので、隣に引き寄せてツーショットをカメラマンに強要(?)。1着勝負と思い込んでいたので、11R2着で諦めていたというテラッチ。まさかの滑り込みだったようで、その分、女学生のごとくはしゃぎまくるのだった。って、喩えが古いな。
 テラッチは、「今年は本当にいろいろなことがあった」と振り返る。自身のこともそうだし、岡山は夏の豪雨で大きな被害を受けている。岡山に元気を伝えられるように、という思いもあるようだ。その岡山からは2人が優出。寺田にとって、感慨深い優勝戦になる。

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 守屋のほうも、「感慨深い」という言葉を口にしている。寺田と一緒に優勝戦に乗れたことを会見で問われたときのことだ。寺田は新人の頃からお世話になってきた大恩人。岡山支部の結束はとにかく強く、レース後には集って長く話し合う姿は名物ですらある。その中心にいるのはもちろん寺田。この偉人の存在が、岡山支部を女子王国にのし上げたところはあるはずだし(あと福島陽子の存在も)、守屋の成長を助けてもきた。そんな恩人と大舞台の優勝戦に一緒に乗れる。感慨は当然沸いてくるわけだ。もちろん水面では敵同士。外枠から一矢報いんと、岡山勢はガチンコバトルを仕掛けてくる。

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 遠藤エミはレース前にちょっとした異変があった。11Rの締切5分前の頃、展示ピットに呼び出すアナウンスがあったのだ。駆けつけた遠藤は、検査員さんに見守られてレバーとモーターをつなぐワイヤーのあたりを手当てしていた。何か異常があったのだろう。それは11Rメンバーが本番ピットで敬礼する頃まで続いていた。直前に慌てなければならない出来事があり、メンタルに影響しないだろうか……。はい、杞憂でございました。きっちりと逃げ切り! 逆に、展示前に手当てできたことで不安なくレースに向かえたかもしれない。明日は3号艇。攻撃力抜群の遠藤の赤いカポックは、脅威である。

 

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 残念ながら優出を逃した選手たちについては、やはりまず小野生奈だ。今日も敢然と動き、しかし5コースまでしか獲ることはできなかった。決意を込めた回り込みを見せているが、松本もまた絶対に譲らないという決意を見せ、弾き返した。さらに小野は、スタートで遅れた。とにかく悔いが残る最終戦だった。だから、レース後はただただ表情を失っていた。対戦相手に声をかけるときは、たとえば竹井奈美に対して少し柔らかくなったりもしていたが、とことん己と向き合うその様子は、ひたすらせつないものだった。昨日も書いたが、小野の孤独な戦いには拍手しかない。今日も貫いたその姿勢は、孤高であり、崇高ですらあった。いろいろ思うところはきっとあるだろう。だが、別次元の意識で水面に立つ小野は、間違いなく視線は上にしか向いていないし、そのこと自体が尊いのだ。それはボートレースにおいては絶賛されるべきものだ。

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 賞金ランク2位で臨んだ長嶋万記も、1位の小野につづいてファイナル行きを逃してしまった。しかも勝負駆けを転覆というかたちで終えることになってしまった。勝負を懸けたレースだっただけに、選手責任ではあるが、責められない。レスキューから降りた長嶋は、足取りこそ確かで安心させてくれたが、ヘルメットのシールドを下ろしたまま戻っていく背中に悔しさがあらわれていた。来年は、今日傷ついたプライドを取り戻し、さらにビッグになるべき1年だ。

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 優出を逃した者はみな悔しいが、ある意味で最も大きな悔しさを抱いたのは中村桃佳だったかもしれない。昨日は6コース大まくりを決めて、最終戦で1号艇を手にした。ファイナル行きはハッキリ見えていたはずである。しかし1号艇を活かせないというただでさえ悔しい事態となり、さらにファイナル行きも逃した。レース直後はもちろん、その後も何度も何度も、顔を歪めている中村を見た。今夜も引きずってしまうのかもしれない(明日は切り替えて頑張れ!)。

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 中谷朋子は、舟券に絡んで意地を見せた、と思う。しかし、そんなことで満足している様子は微塵もなかった。なにしろ、バックでは逃げた遠藤に届くか、という展開だったのだ。それを逃し、レース後も唇をかみしめる。勝っていてもファイナルには届かなかったが、しかしひたすら勝ちたいという姿勢で臨んだことはハッキリと伝わってきた。それは素晴らしきレーサー魂である。

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 竹井奈美は、スタート展示では小野の前付けに抵抗したが、本番では6コースに。水をもらったのが痛かったか、待機行動中はアカクミで水を掻き出す場面もあった。それでも、小野が遅れたことで締めまくりを狙った。ただ、伸び切れなかった。勝っても負けてもレース後に表情を大きく変えるタイプではなく、今日も淡々と見えてはいたが、その心中やいかに。昨日1号艇で敗れたことも含め、考えることはいろいろあるだろう。

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 細川裕子は残念だった! ポイントでは寺田千恵と並んでいたのだ。ただ、寺田にはある2着が細川にはなかった。上位着順の差で次点に泣いた。先述した、寺田が嬌声をあげた場面。まさにその瞬間、細川がその真横を通り過ぎている。おおよその状況は理解していたはずで、ならば細川は大歓喜する寺田の脇をどんな気持ちで歩いたか。その明暗のコントラストは、残酷ですらあった。ただし、それがまた細川を強くするのだと信じたい。来年こそは、笑ってファイナルに進んでもらいたい。

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 シリーズ組。ベテラン60期勢の快勝に大拍手だ! 8R、まずは谷川里江が豪快にカドまくり! そして10Rで高橋淳美が見事なまくり差し! 若手も台頭しているなかで、まだまだ負けないわよ、とばかりにド派手な勝ち方を見せてくれた。マスターズ世代の奮闘は、同じような世代の者として、やはり嬉しいものだ。また、谷川も高橋も、あれだけの勝ち方を見せたのに、レース後は粛々としたもの。そのたたずまいにも、修羅場を数々くぐってきた女傑たちの凄みがあった。

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 一方で、登番4900番台の関野文が優出。若手の頑張りも、やっぱり嬉しい。大阪支部の選手だけでなく、さまざまな選手から声をかけられており、その奮闘ぶりはピットにいる多くの者の気持ちを明るくさせたのだった。

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 結果的に優勝戦1号艇を手にすることになった若狭奈美子には、岡山勢が沸き上がっていた。準優で唯一逃げたのが若狭で、岡山勢の輪のなかで嬉しそうに目を細めていた。福島陽子、寺田千恵とはハイタッチ! 福島の喜びっぷりも印象に残った。

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 その若狭に強烈なツケマイで迫ったのが岩崎芳美。2着は残念ではあっただろうが、優出に頬を緩めていた。こちらは、同期の海野ゆかりが祝福。71期もベテランの域に入ってきているわけだが、レースぶりはまだまだ若い。明日は6号艇から何を見せてくれるだろう。

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 予選トップ通過の塩崎桐加は逆転2着。足の良さを見せつけるかたちとなった。ただ、スタートはコンマ45とまさかのドカ遅れ。それもあってか、レース後には笑顔はなかった。反省や後悔が渦巻いていただろう。あ、写真は反省の正座、ではありません。塩崎のレース観戦時の定位置がこのリフト脇の隅っこ。ここから対岸のモニターに見入っているのだ。今日の失敗をしっかりと消化し、明日は今日の鬱憤を晴らせ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)