BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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宮島マスターズ準優ダイジェスト

瓜三つの激闘

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10R 並び順

①太田和美(大阪)18
②吉川元浩(兵庫)20
③松本勝也(兵庫)29
⑤前本泰和(広島)30
⑥間嶋仁志(三重)32
④野添貴裕(大阪)27

 伸び仕様にした代償なのか、野添のピット出が悪く前本と間嶋が4、5コースを楽々ゲット。この入れ替わりで進入争いは収束し、それぞれ助走に余裕のある123/564という最終隊形になった。こうなれば、もっとも有利なのはイン太田。たっぷり120mの起こしから抜かりなくレバーを握ってトップスタート。怖い2コース吉川の決め差しを寄せつけずに鮮やかに逃げきった。

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 太田の足は起こしからスムースに出て行く加速感が魅力で、全部の足にちょっとずつ余裕のあるバランス型でもある。前検で取り上げた贔屓目もあって「A」の評価にしているが、「Aに近いB+」あたりが正しいかもしれない。ただ、今節の準優メンバーに突出したモンスターパワーは不在なので、明日のファイナルでも互角に戦える足だとは思っている。

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 1着が内定しても、準優の醍醐味はここからだ。焦点の2着争いは吉川vs松本vs前本の熾烈な叩き合いになった。3者の展示タイムは同じ、私の評価もすべてB+だったのだが、まさに直線もターンも瓜三つの足色でなかなか決着がつかない。抜きつ抜かれつの攻防の中で地元の前本が優位な態勢を築いたように見えたが、今日のこの三つ巴は相手が悪かったか。吉川、松本の兵庫コンビが挟撃態勢からあの手この手で前本に競りかけ、わずかな隙を突いて吉川が抜け出した。実際には同県意識など考えるヒマもない激闘だったと思うけれど、私の目には前本が兵庫ふたりにバッサリ斬り捨てられたように見えたな(笑)。

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 接戦で生き残った今日のゲンコーの足は、やはり「B+」が妥当だろうか。どこと言って欠点は見当たらないが、同時に特筆すべき特長もないちんまりまとまったバランス型という印象。それは、松本や前本が残っても同じだったと思う。今日の足のままでは、横一線のダッシュから自力で攻めきるのはかなり難しいだろう。

王者の試算

11R 並び順
①今垣光太郎(福井)09
②渡邉英児(静岡) 12
⑥松井 繁(大阪) 16
④一宮稔弘(徳島) 12
⑤上平真二(広島) 12
③明石正之(兵庫) 13

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 松井がどこまで入れるか、がそれなりに大きな鍵を握る一戦。スタ展は12356/3の5コースだったが、いざ本番は他艇のブロックを交わして3コース奪取。結果的にこのコース取りが大きくモノを言ったか。

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 126・4/53という変則隊形から、スリットで力強く出て行ったのはインの今垣だった。今垣32号機は「トップ級のストレート足」として下馬評が高いモーターなのだが、今節は今垣の調整によって伸びたり伸びなかったりという印象がある。ただ、スローからの行き足は常にゴキゲンで、今日も自慢のパンチ力を如何なく発揮した。しかも、そこから1マークに向かう直線足も強烈の一語。初動のハンドルを入れるときには、2コースの渡邉を2艇身ほどぶっちぎっていた。これで負ける光ちゃんではない。

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 さて、このレースの焦点も早々に2着争いに絞られた。内から二番差しの一宮、一番差しの渡邉、3コースから握ってぶん回した松井がターン出口でほぼ横一線。この時点の足色は、明らかに一宮が一枚上手。期待していた節イチ級の出足が火を噴き、このまま1-4態勢で揺るぎないと確信するほどの勢いに見えた。
 だがしかし、バック中間あたりから3艇の景色がまるで変わる。完全に手前寄りの一宮、2コース仕様の出足型に仕上げたであろう渡邉の勢いが止まり、大外でやや遅れていた松井が猛然と伸びはじめた。今日のこの3艇では、松井のストレート足が突出していたのだ。一宮と渡邉の弱点を指摘するように、松井は2艇を軽々と追い抜いて2マークを先取りした。無論、この展開から再逆転を喰らう男ではない。あっという間に後続を突き放し、4つめのファイナルチケットを確実なものにした。

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 何度か書いてきたが、今節の松井の成績が煮え切らない最大の要因はスタートに尽きる。予選6戦の平均タイミングはコンマ24。絶対スタート勘の秀でた松井としては驚くほど遅い数値だ。出足が仕上がらなかった可能性もあるが、私の目には「今節は絶対に無理をしない。まだ先は長い」と自分に言い聞かせているように見えた。すでにFを切ってしまった境遇と、前年のマスターズでFを切った悔恨と、それらが相まって“自粛”というスタイルを貫いている気がしてならない。
 今日の松井はコンマ16まで踏み込んだが、やはり6人の中ではワーストタイミング。それでも準優を突破できたのは、コース取りと行き足が強力なモーターと、迷わず握って付け回った準優の経験則。それらのファクターをすべて活用して難関を突破したのだから、流石と言う他ない。

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 ではでは、明日も6号艇になった松井はどこまで攻め込むか。ピットアウトからどれだけ激しく攻めたてて、スタートはどこまで張り込むつもりなのか。この松井の意思表示ひとつで、明日のレースはいかようにでも変質するだろう。すべてのレースを年末から逆算して長期的に考える王者にとって、「平成最後の名人」という勲章がいかほどのものなのか。明日はその軽重を問う一戦となる。
 準優2個レースが終わってファイナルに生き残ったのは「太田和美、吉川元浩、今垣光太郎、松井繁」。SGタイトルの合計がナンボになるかも数えきれない超ゴージャスな面々だ。
「次のレースの上位も信一郎、憲吾、市川が独占したりしたら、明日のファイナルはマジでグランプリ級だな」
 などとぼんやり思いながらスタート展示を見ていたのだが、本番ではその3人が……。

惨事

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12R

①市川哲也(広島) 06
②三角哲男(東京) 09
③矢後 剛(東京) 09
④田中信一郎(大阪)07
⑤大場 敏(静岡) 13
⑥濱野谷憲吾(東京)07

 3連単12万4970円の大波乱。
 何が起こったのか、まったく見当もつかなかった。大場をヒモ軸に据えていた私は、ひたすら5コースの動きだけを追いかけていたのだ。ひとり凹んだスタートから、大場が信一郎にツケマイを浴びせるようなまくり差しを繰り出した瞬間、同時多発的に激しいスプラッシュが舞い上がった。1マークのかなり手前で!

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 なんだなんだなんだなんだ? とパニックになっている間に、さらに最内を差した憲吾まで水しぶきをあげて横転した。バック水面を走っているのは大場と矢後と、エンストから息を吹き返した三角の3艇だけ。やがて実況アナが市川が妨害失格であることを沈んだ声で伝えた
 レース後、VTRを何度か見てそれなりに起こったことを把握した。1マークの手前で市川が振り込んで転覆したことによる玉突き事故。もはや明日のファイナルとは無縁の出来事なので、これ以上の検証記事は書きたくない。ただ、あれだけの激しい接触が多発しながら、誰ひとりとして帰郷した選手はいなかった。それが何よりも得がたい不幸中の幸いだった。

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 難を逃れてファイナルに進出したのは大場と矢後。当然、このレースの足色について言及すべきことは何もない。それまでの気配だけで言うなら、やはり大場の出足は一宮と並んで節イチ級だと確信している。で、行き足~伸びも中堅上位あたりを維持していて、これが一宮との違いだろう。ストレート足では今垣と松井に及ばないが、スリット付近から覗いて内艇を自在に攻め潰す破壊力は優勝戦でもピカイチだとお伝えしておこう。

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 錚々たるメンバーの中で唯一SGタイトルがない52歳の名脇役。数々の50代の伏兵が頂点に立った平成の“名人戦”を思えば、「大場敏名人」という字面がなかなかイケているようにも思えるのだが、どうだろうか。(photos/シギー中尾、text/畠山)