BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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トライアル1st第1戦ダイジェスト

グランプリの魔物①

11R
①井口佳典(三重) 12
②馬場貴也(滋賀) 13
③徳増秀樹(静岡) 04
④菊地孝平(静岡) 02
⑤今垣光太郎(福井)04
⑥平本真之(愛知) 08

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 これがトライアル、これがGPだ。
 それまでの10戦はすべてイン逃げ。センター勢の仕掛けはことごとく不発、イン選手が楽々と逃げきったものだが、この11Rはまったく別物の競技になった。スタートはご覧のとおり。天才スターターの菊地はもちろん、人生45年の集大成と腹を据えた徳増、気持ちがすべて水面に反映される今垣もコンマゼロ台まで踏み込んだ。

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 この隊形だからして1マークは大混戦。伸びなりに握った徳増に井口が応戦してターンマークを外し、差しきったかに見えた馬場がバランスを崩して失速し、代わって二番差しの菊地と全速でまくり差した今垣がわずかに抜け出すも、最内から平本がじわりと不気味に艇を伸ばす。

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 別物の競技はどこまでも続く。混戦のままバックでもつれ合う菊地、今垣、井口、徳増が互いに牽制しつつ2マークを大きく外しながら団子状態で殺到。さらに最後方の馬場が激しく内に切り込んで玉突き状態に。唯一、最内をこっそり走っていた平本だけが2マークをくるり回って先頭に躍り出た。

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 もちろん、1着が決まったくらいでGPトライアルが平穏になるわけもなし。その後も今垣と馬場がガンガンぶつかり合うわ、2周2マークでキャビって後手を踏んだ菊地が3周1マークで強烈な切り返しを繰り出すわ、そこで3艇併走から馬場が斜行して今垣をすっ転ばすわ(不良航法で-7点)、てんやわんやのまま5艇がゴールを駆け抜けた。10Rまでの平穏なイン逃げ決着を近代ボートレースと呼ぶなら、このレースはまさに「水上の格闘技」だった。どれだけの選手がどれだけキャビリ、どれだけ接触し、どれだけ着順が入れ替わったか。人間の強い思いが、住之江の静水面を修羅の戦場に変貌させた。
 そして…………

グランプリの魔物②

12R
①柳沢 一(愛知)09
②白井英治(山口)07
③田村隆信(徳島)12
④太田和美(大阪)09
⑤池田浩二(愛知)11
⑥茅原悠紀(岡山)12

 続く12Rは、さらなる大波乱が待ち受けていた。スタートからゴール間際までもつれた11Rとは裏腹に、わずか一瞬で。引き金はインの柳沢。スリットほぼ横一線で絶好のイン逃げ展開になったと思った瞬間、初動段階でレバーとハンドルが噛み合わずにバランスを逸して転覆。直後に4カドから差した太田が避けきれずに乗り上げて落水。さらに6コースから差した茅原もモロに乗り上げてエンスト失格……3つのボートが山積みになった異様な光景は、このレースの重みも含めればボートレース史上もっとも凄惨なシーンだったかも知れない。逆に言えば、レースの重みが作り上げた光景とも言えるのだが。

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 この惨事を引き起こして妨害失格になった柳沢は、もちろん非難するに値するだろう。ファンの大金を背負った圧倒的一番人気の失態。彼の舟券を買ったファンは罵詈雑言を浴びせる権利があると思うのだが、そのひとりである私はどうしてもそんな気にならない。デビュー19年、コツコツと地道に走り続け牛歩の如く成長を遂げ、やっとSGの頂点に立って掴んだ年末の夢舞台。11Rの凄まじい死闘を観た直後の1号艇。絶好のスリット隊形から「完璧に勝ちきりたい!」と思った瞬間に、両腕が硬直してしまったか。

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「初めての賞金王トライアルは、殺し合いみたいだった」
 何度も引用した服部幸男の言葉が、また今日も脳裏に浮かんだ。殺し合いみたいな11Rの乱闘を観た直後の柳沢の心が、どれほど揺れ動いたか。どんな境地でピットから飛び出したか。グランプリの洗礼などという言葉では片づけられない重圧が、新たなる殺し合いみたいなレースを引き起こしてしまった。そんな気がしてならない。
 悲惨なレースではあったが、不幸中の幸いと呼ぶべき事象もあった。まずは、太田も茅原も大事には至らなかったこと。被害者のふたりはもちろんのこと、柳沢にとっても今後のレーサー人生を左右する分岐点だったはずだ。本当に良かった。

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 それに比べれば実に些末的な事象だが、残った3艇が2マークを回って混戦模様になったとき、「優先艇保護違反」などという二次災害が発生する危険性も大いにあった。スリットラインの直前で大外の田村がキッチリ1艇身ほど抜け出して、それを回避できたのも嬉しい限りだ。まかり間違えば、「今日の時点で6人すべてがトライアル2nd当確」という事態までありえたのだから。明日の第2戦を12人揃って水面に向かえること、そして実質的な候補者がわずか7人であっても「勝負駆け」のサバイバルに立ち会えること、この2点を素直に喜びたい。

 さてさて、すべてがイン逃げだったシリーズ戦については、ほとんど書くべきことがないな(苦笑)。珍プレーとしては松井繁の意表の3カドくらいだが、それも不発に終わったし。今日のところは独断のパワー評価だけで許していただきたい。

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★独断パワー鑑定

A+/湯川浩司、深川真二
A/磯部誠、永井彪也、丸野一樹、西村拓也
B+/興津藍、岡崎恭裕、上條暢嵩、萩原秀人、松田祐季、遠藤エミ、辻栄蔵

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 補足するとトップ評価の湯川は【出足B・直線SS】、深川は【出足S・直線A】という感じでほぼ真逆のタイプだと思っている。

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 で、前検の鑑定はソコソコ的を射ていた気もするのだが、ちょっとお門違いだったのが大山千広。ストレート足は昨日の見立て通りに中堅上位はありそうだったが、とにかく回り足が最悪。ターンごとにズルズル下がる様は可哀相なほどで、このままの出足系統では明日のイン戦も心配ではあるな。回転をしっかり合わせ、スタートをバチッと決めてもらいたい。(photos/シギー中尾、text/畠山)