BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――トライアル初戦の重み

f:id:boatrace-g-report:20191219220949j:plain

 11Rで印象に強く残るのは、レース直後の石野貴之の不本意そうな表情だ。エンジン吊りを終えて、真っ先に控室へと歩き出したのが石野で、そのスピードもまた速かった。池田浩二を抜いて3番手に上がったとはいえ、それは最低限の「ひとつでも上の着順」ということであり、もともと目指したものではない。押し寄せてくる悔恨から逃れようとするが如く、一気に控室へと向かったその姿が、石野の心中と、そして本当に願っていたものをあらわしていたように思う。

f:id:boatrace-g-report:20191219221108j:plain

 瓜生正義が、あんなにも顔をひきつらせていたのを見たことがあっただろうか。6着というのは、トライアル初戦においてはもう後がないということ。第2戦では決して大敗が許されない状況なのだ。レースも瓜生らしさを見せられないものだっただけに、心のざわつきは収まらないはずだ。やはりトライアル初戦で味わう悔恨は、いろいろな意味で大きい。

f:id:boatrace-g-report:20191219221135j:plain

 勝ったのは吉川元浩。1マークはターンマークを漏らしており、それが少しばかりの苦笑を生んでいた。結果的に石野が壁になるような展開にもなっており、吉川自身も失敗があったことを自覚している。それだけに、安堵感も強かったようだ。初戦の大敗とはまったく逆の意味で、初戦の1着は大きい。得点的にはもちろん、精神的にもだ。

f:id:boatrace-g-report:20191219221211j:plain

 田村隆信も、4号艇での2着にはひとまず心を軽くできたようだ。通常の予選と違って、1着との点差は1点だけ。そう割り切れば、1号艇ではなかったのだから、まずまずの初戦ということになろう。レース後は調整室でプロペラのチェック。レースで得た感触の理由を確かめる。調整室に入る直前、目が合った田村は目尻を下げて微笑を浮かべた。やはり悪くない状態で第2戦を迎えられそうだ。

f:id:boatrace-g-report:20191219221255j:plain

 12R6着大敗。菊地孝平は控室に戻るまで、ついにヘルメットを脱がなかった。悔恨にまみれた表情を見せまいとしたのか、それともたまたまか。2マークで決然と2番手先マイを狙った走りは、絶対にひとつでも上の着順を得たいトライアルでは正解のはずである。それが峰竜太に接触はしているが、あの程度の接触は駆け引きのうちだ。しかし、菊地は峰に振り切られてしまった。その反動で、消波装置に激突するのではないかと肝が冷えるほど流れた。結果6着。あの策に悔いは残らなかったと信じたいが、やはり6着という現実は重たい。

f:id:boatrace-g-report:20191219221341j:plain

 菊地を振り切った峰は、そこで桐生順平にかわされて3番手に下がり、さらに2周2マークで平本真之にも逆転を許している。平本に逆転されたのは、「順平を追い抜こうという気持ちが強かったから」。どんなレースでもチャンスがあれば一つでも上の着順、というのは当然のことだが、トライアルでは峰がさらに着順を下げてしまうほど、そこに全身全霊を注ぐのである(トライアルでなくとも、コーナーで前を抜きにいって結果的に着を落とす場面はまったく珍しくない)。ただ……峰、出てるよねえ。9R発売中だったか、感触を問うと峰はやや顔をしかめている。「僕のは出てますよ。でも、みんなも出てる。同じくらい」。間違いなく好感触だが、それがアドバンテージとなるとは限らないほど、他も出してきている、と感じていたのだ。でもどうだろう。レースを見る限り、下降気味ともいわれた88号機を蘇らせているように見えるのだが。

f:id:boatrace-g-report:20191219221407j:plain

 勝ったのは毒島誠。しかし、歓喜が大きかったとは言えない。「反省点が見えた」。勝ってもなお、自分の想像と違ったパワーにネガティブな感情も生まれた。1マークの旋回は文句なしにも思えたものだが、2マークでの押しが足りなかったらしい。勝って兜の緒を締めよ、というが、毒島はそう意識して締めなくても、自然に締まってしまう。そして、その反省点を発見できたということで、明日はそれを解消しようと逆にポジティブに転じていくのである。ちなみに、去年は初戦で好仕上がりだったものが、2戦目では欲をかいて調整して失敗したそうである。明日は逆のパターン。つまり、さらに上昇する可能性が高いということになるだろう。

f:id:boatrace-g-report:20191219221455j:plain

 枠番抽選。毒島誠がふたたび1号艇! というわけで、今日の反省点をより活かせる状況にもなったのである。引いた瞬間はガッツポーズを見せたが、すぐに気を引き締めているあたりもさすが。今年は昨年以上の充実度だ。

f:id:boatrace-g-report:20191219221524j:plain

 もうひとりの1号艇は峰竜太! こちらはド派手なガッツポーズを見せて、抽選会場を沸かせた。初戦4着を巻き返すには絶好枠。その後の峰は、もう悔しさなど忘れたかのように笑顔笑顔なのであった。

f:id:boatrace-g-report:20191219221548j:plain

 厳しい抽選になってしまったのは、初戦6着の二人。なんとそろって6号艇を引いてしまったのだ。というか、二人とも最後にそれしか残っていなかった。ガラポンを回す前からわかっていたわけで、もうひたすら苦笑い、それもひきつった苦笑いしか浮かばない。菊地は「100%動くと決めてるわけじゃない」と言っていたが、黙って6コースのわけがないとも思うのだが、果たして。

f:id:boatrace-g-report:20191219221737j:plain

 シリーズ。湯川浩司が途中帰郷となってしまった。8R、3着は確実という隊形だったところに、後続3艇がドカドカと突っ込んできて湯川に接触。湯川は転覆してしまった。これで負傷し、痛恨のリタイア。ゲージなどを片付けている姿は痛々しく、また寂しさもあった。とにもかくにも早く快癒して、いい年を迎えてもらいたい。なお、今垣光太郎も途中帰郷となっている。

f:id:boatrace-g-report:20191219221907j:plain

 3日目を終えて暫定1位となったのは磯部誠。その8Rを差して快勝した。モニターでレースを見ていた選手たちが「普通に差し切ったな」と感心しきりだったほどで、磯部も気分よさそうにピットに戻ってきた。で、この磯部、自分の舟券を買ってくれた人を喜ばせることがモチベーションにもなっている。今節は、この調子ならもっと舟券を買うファンを喜ばせられそうだ。そしてそれを磯部が喜ぶ機会もまだまだありそうだ。信じて狙ってみる!?(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)