その瞬間、ピットには聞いたことのないような大大大歓声が巻き起こった。女性の嬌声だから、それは実に甲高くピットに響く。観戦していた選手たちが大興奮していたのだ。
差した平田さやかの舳先が、池田紫乃の艇の左側を捉えた。そして艇をこじ入れていった。2マークを先マイ。先頭に立った! 平田さやかの優勝だ!
最も弾んでいたのはやはり東京勢。仲間の金星にテンションを上げる。東京勢ばかりではない。そのときピットに残っていた選手は全員が笑顔で、拍手をし、顔を上気させていたと思う。その証拠に、ボートリフトに集まった選手たちが大げさでなく全員、帰還した平田に手を振り、拍手を送り、おめでとうと叫んでいたのだ。他の5艇の“関係者”も平田の優勝に歓喜したのだ。
平田さやか、デビュー初優勝!
この舞台でそれをやってのけるとは! GⅢとはいえ、スタンドには山ほどのファンが駆けつけ戦いを見守り、全国の場外でも大晦日の戦いを見つめている。そんななかで苦節15年半、30回の優出を数えながら果たせなかった初優勝を成し遂げたのだ。その道程を知る選手仲間たちが心から喜ぶのも当然である。
ところが、当の平田はなぜか恐縮しまくっている(笑)。リフトからの祝福に対して、何度も何度も右手を振って称賛を打ち消そうとし、しまいには両手を合わせて謝りだした(笑)。陸に上がっても同様。駆け付けて祝福した同期の落合直子にも、右手を振り返す。誰におめでとうと言われても右手を振って、「いやいやいや」。ピットに戻ってから表彰式に向かうまで、何度右手を振ったことか(笑)。
1号艇で敗れた池田紫乃や展開を作るかたちになった山川美由紀は、直後こそ悔しそうな表情を見せたが、平田と顔を合わせると笑顔を見せておめでとうと声をかけていた。そして平田は、両手を合わせて謝るという(笑)。
平田さやかよ、胸を張っていい優勝だったぞ!
昨日は池田紫乃をまくりながらも伸び返されて抜かれるというレースだった。しかし今日は池田を内から捉えて締められても引かないという、ガッツも見えたレースだった。準優の借りをきっちりと返したのだ。それだけでも語られるべき勝利だった。それが初優勝なのだから、なお素晴らしい。この優勝をおおいに誇って、令和2年を清々しく迎えてほしい。本当におめでとう!
初優勝だから、もちろん水神祭です! 中心人物はもちろん、東京支部と同期の落合。まさかと思ったが……渡辺千草もサンダルを履いているぞ!
ウルトラマンスタイルで持ち上げられた平田は、このガクンと冷え込んだ徳山の水面に勢いよく投げ込まれる。さ、寒そう……。つづけて東京支部&落合が自らドボン。さ、さ、寒そう……。しかし、水中の平田たちは笑顔を見せて、歓声をあげていた。それはちっとも寒そうな姿ではなく、ただただ喜びを沸騰させる麗しい姿だった。この喜びをステップボードとして、さらに優勝を重ねてください!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)