BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――大歓喜

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 12Rが締め切られて、水面際は選手たちで鈴なりになっていた。まずは3選手が出走している大阪勢。特別選抜B戦でワンツースリーを決めた3人を含む愛知勢。三重勢も並んで観戦。関浩哉を応援する金子賢志は群馬勢たった一人で、ちょっと離れたところに姿があったが、そこはまるでサポーター席であるかのように、仲間に声援を送る面々が並んでいたのである。

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 うおぉぉぉぉーっ! 磯部誠が差した瞬間、野中一平らが声をあげた。上田龍星のふところをぐいぐいと捉えていくにしたがい、ボルテージは上がる。完全に捕まえたそのとき、愛知勢は諸手をあげて咆哮した。そのとき実は、前田篤哉だけは僕の隣にいた。なかなか会話を交わしづらい厳戒態勢、最後だからとようやっと、レースが出走する前に今節やその他もろもろを話し込んでいたのだ。二人で並んで磯部が2マークを先頭で回るのを見届け、僕は磯部本命の都合上、こっそり高揚感を高めていたわけだが、隣にいた前田のテンションがぐいぐいと上がっていくのを体感している。矢も楯もたまらなくなった前田は、愛知勢に合流。周回を重ねる磯部を見ながら、愛知勢全員で拳を突き上げていた。

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 大阪勢はその左側で観戦していたのだが、やはり声もなく水面を見つめるのみ。木下翔太と上田龍星が2番手3番手を走ってはいたが、願っていたのはそれではない。木下や上田の思いを共有するように黙り込む大阪勢。水面にも明暗はくっきりとあらわれていたが、陸の上にもたしかにそれはあった。

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 磯部誠がVゴールを決めて、愛知勢はさらに爆発! ボートリフト前まで戻ってきた磯部は、まずはピットから歓喜の声を送る仲間たちにしっかりと応えている。ウィニングランに向かうため、その時間を長くはとれなかったが、後輩たちの顔を見ながら、磯部は喜びを噛みしめていたことだろう。

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 その後も、写真撮影やらインタビューやら表彰式やらと、優勝者には行事が目白押しである。仲間たちと歓喜を分かち合う時間はなかなかとれなかったが、その間あいだに短く、優勝を喜び、称える雄叫びが轟く。磯部も、後輩たちも、実にテンションが高い。磯部は、そんな濃密な空気を感じながら、ついにGⅠタイトルを手にしたのだということをじわじわと実感していたに違いない。

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 磯部は、2012年1月のヤングダービーの前身的レースの新鋭王座決定戦でGⅠ初出場。それから両若武者決戦には9回出場し、今回でいよいよ卒業ということになる。僕が磯部と初めて会ったのは、まさに12年1月新鋭王座……ではなく、実はその5年前、蒲郡のスタンドが初対面だった……そうだ。そうだ、というのは、僕自身はそれを記憶していなかったからだ。蒲郡でBOATBoyカップが開催され、読者イベントでピット見学会を実施した時、高校生だった磯部少年は親御さんとともに参加。立ち会っていた僕に磯部は、自分が選手志望であることを話し、僕は「じゃあ、SGのピットで会いましょう」と磯部に言ったのだという。それを指摘されたのが、まさに12年新鋭王座のピット。「黒須田さん、僕にそう言ったの、覚えてます?」。申し訳ない、まったく覚えてませんでした(笑)。

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 それ以来、なんだかんだと磯部とは会話を交わしてきた。他愛もない話題も多々。新幹線でバッタリ会って、コーヒー奢ってもらったこともあったな。今日の木田峰由季の水神祭では、磯部が「スペシャルゲストだ!」と木田に宣言し、僕を指名するという一幕もあったりしたのだった。もちろん丁重にお断わりいたしましたが(笑)。そんなふうに言葉を交わしているうち、磯部のいい意味での悪ガキっぷり(笑)がどんどんとわかってきたし、そして実はファンを大事にし、舟券を買ってくれるお客さんの期待に応えようと全力で戦う若者なのだということも強く感じてきた。そして、その「SGだろうが一般戦だろうが、ファンが買ってくれる舟券は同じ」と考えて全身全霊で戦うスタイルは、いずれタイトルに結実するだろうとも信じてきた。

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 そんな磯部が若武者バトルを卒業することも感慨深いし、その卒業シリーズで初GⅠタイトルを獲得したことも心から嬉しい。「(池田)浩二さんには、こんなのGⅠじゃねえ、って言われるかもしれないけど」とも言っていたが、A2級もいる若手限定戦をあのスーパースターがGⅠと認めなかったとしても(それはもちろん叱咤激励である)、次はだれもが認めるGⅠ、そしてSGでのタイトルを獲ってほしいと願う。ちょっと個人的な話になってしまったが、磯部、ヤングダービー制覇おめでとう!

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 比較的サバサバとしていたように見えていた敗者のなかで、やはり上田龍星だけは顔を歪めるシーンが何回もあった。決してプレッシャーに負けたようなレースぶりではなかっただけに、それでも敗れ、掴みかけていたタイトルをこぼしてしまったことは、ひたすら痛恨だったことだろう。今日は磯部が一枚上手だった。必ずタイトルホルダーに輝く日は来るだろう。月並みだが、この悔しさはきっとそのための糧になる。

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 あと、木下翔太はさすがの貫禄と感じた。終わってみれば、実績上位勢のワンツー決着となったわけだが、それが何も特別なことのように見えないということが、木下らが格上であることを強く証明している。足もかなりの仕上がりだったようで、それで敗れたことでかえって悔いを残していないように見えた。

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 繰り返すが、磯部はGⅠ初優勝。ということでもちろん……水神祭! 今日は木田峰由季の水神祭で飛び込んでいるので、「また落ちなきゃいかんの?」とブー垂れてもいたが、それは半ば照れ隠しと見ました。何よりも、後輩たちが「やっと磯部さんを突き落とせる!」とめちゃくちゃ喜んでる(笑)。いつも突き落とす側でしたからね、磯部先輩は。

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 会見を終えて後輩たちの輪に飛び込むと、レース直後よりも大きな歓声が響いた。愛知勢はもちろん同期の渡邉優美、あとなぜか倉持莉々も参加。さらに、すでにスーツに着替えた松山将吾が挨拶と祝福に来ると、フライングの罰だとばかりに参加を強要され、松山はなぜか嬉しそうに服を脱ぎだしてパンツ一丁に(笑)。

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 というわけで、後輩たち待望の磯部突き落としはウルトラマンスタイルで壮絶に敢行され、次々と後輩たちも飛び込んでいったのでありました。水面には総勢10名ほどの笑顔の花が咲いていた。
 そして、磯部の後輩といえば…………

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 いっぺーーーーーーーーーーーーーーーっ! いやー、最後の最後までこの人のドボンが見られるとはなー。今節のMVPはもちろん磯部誠だが、ピットを盛り上げた裏MVPは野中一平で決まりです。来年は自分の水神祭を見たいなー。

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 最後は全員で記念撮影。磯部、本当におめでとう!(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)