BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

細くて太い糸

12R優勝戦
①上田龍星(大阪・117期)06
②磯部 誠(愛知・105期)13
③木下翔太(大阪・108期)07
④関 浩哉(群馬・115期)11
⑤春園功太(三重・113期)09
⑥井上一輝(大阪・114期)11

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 この6日間、予選トップの龍星がシリーズをグイグイ牽引したが、最後に笑ったのは今大会の選考順位トップの磯部だった。逆転の2着も選考3位の木下。SG常連とも言うべき格上ふたりの底力が、まんま水面に反映される結果となった。
 スリット隊形はやや凹凸があるものの、インコース龍星がしっかりゼロ台半ばまで踏み込んで主導権をゲット。横一線ほど盤石の隊形ではないが、「これならキッチリ押しきれる」と思わせるスタートではあった。

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 外から先に仕掛けたのは、龍星とほぼ同じだけ踏み込んでいた木下。半艇身ほど凹んだ磯部は、龍星の伸び返しを待って差しの初動に入った。
 正念場の1マーク、おそらく龍星がもっとも警戒したのはその強さを痛いほど知り尽くしている同県の先輩・木下だった。ターンマークを少し外しながら、ブロック気味の張りマイで応戦。凹んだ磯部より同体から攻めてきた木下。セオリーに適った旋回にも見えたが、そのスキを勝負師・磯部は見逃さなかった。
「龍星が漏らしたように見えたので、しっかり差せばワンチャンスある!」
 瞬時にそう判断した磯部は、絶妙なスピードで舳先を最内に突き入れた。速い。瞬く間にその舳先は龍星の内フトコロを捕え、先端が揃うほど深くえぐり込んでいた。

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 2マークでは外の龍星が「最後のお願い」とばかりに全速のツケマイを放ったが、それも磯部にはお見通し。「逆転を狙うには握ってくるしかないと思った」磯部は小回りではなく、完璧な握りマイのブロックでそれを封じた。

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 その間に、最内からスルスルと差し伸びていたのが木下だ。バックで外に開いて、サイドをまったく掛けない省エネ旋回だから伸びる伸びる。ツケマイが流れた龍星の内にその舳先は突き刺さり、あれよあれよで2-3隊形が出来上がっていた。この1周の攻防を振り返るに、木下と磯部の実力者コンビの“経験値”がないまぜとなって、25歳の龍星を幻惑した気がしてならない。もちろん、悔しい悔しい3着によって、もっとも高い経験値を得たのは龍星でもある。この経験値は来年のリベンジのみならず、もっと大きな舞台でも生かされることだろう。今日のところは、大いに悔し涙を流してもらいたい。

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 磯部にとっては、順風満帆にはほど遠い優勝だったはずだ。前検ではドリーム班の中でもやや弱めで、「このままでは厳しいかも」と首を傾げた。そのドリーム戦を枠番の利でなんとか逃げきり、2日目からじわじわと底上げをして33221着で準優1号艇をGET。このあたりの経緯は、今節の木下と酷似している。

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 なんとか軌道に乗って迎えた準優では、最大のピンチに見舞われた。(昨日も書いたが)3コース出口舞有子の攻めに2コースの関が反発しながらのジカまくり。この猛攻を受け止めている間に出口と大上卓人が抜け出し、少し離れた3、4番手に置かれてしまった。が、2マークで出口vs大上が大競りとなって、ミラクルな1着が転がり込んだ。
「大上と出口に感謝、ふたりに何が欲しいか聞かなきゃ」
 レース後、磯部は苦笑を浮かべてこう話したが、この薄氷の逆転劇が今日の激差しへと直結したわけだ。いつでもどこでも切れそうな細い糸を、だましだまし手繰り寄せて優勝戦のゴールまで辿り着いた。そんなシリーズだった気がするのだが、裏を返せば中堅以下のパワーを底上げした整備力、道中で取りこぼすことなく拾い続けたオール3連対の着順、死地から蘇った強運、そしてファイナルでの的確な判断とそれを実現させるべきスピード&テクニック……優勝するに相応しいファクターをフル稼働し、自力でもぎ取った栄冠とも言えるだろう。選考1位の実力は、やはり伊達ではなかった。

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 この優勝でぴったり賞金ランク18位まで浮上した磯部は、もちろん嫌でもアレを視野に入れたことだろう。昨日の優出インタビューでは「西山(貴浩)さんじゃないけど、グランプリなんて知らんぷりです」などと茶化していたが、18位という具体的な数字はなかなかに艶めかしい。そして、勝負師にして軍師にして策士でもあるこの諸葛亮公明のような男が参戦するグランプリは、なかなかに楽しそうだと思うのは、もちろん私だけではないだろう。暮れの平和島のトライアルにやって来なさい、磯部クン!!

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 さてさて、最後に……今節の台風の目にして「陰のMVP」として重宝してきた出口舞有子が、今日もイケイケの韋駄天ぶりを貫いた。7Rが2コースからコンマ03、からの10Rがインコースからまたまたコンマ03!!!! 記念として今節のタイミングを列挙しておきたい。
 コンマ11・08・14・09・02・05・03・03。
 ここまでやらかすと、拍手喝采を通り越して「どっか頭のネジが外れてしまったのではないか??」などと心配になってしまうのだが(笑)、とにもかくにも今節は『イケイケマアコ』にとことん惚れ込んでしまう6日間だった。舞有子ちゃん、次節からは1本持ちだということを忘れずに!!(photos/チャーリー池上、text/畠山)