BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦私的回顧

童顔の鬼武者

12R優勝戦
①深谷知博(静岡)06
②毒島 誠(群馬)12
③金子龍介(兵庫)08
④上平真二(広島)10
⑤枝尾 賢(福岡)11
⑥佐藤 翼(埼玉)15

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 戦乱の世を逞しく生き抜いた若き武将が、新たなスターとして艇史にその名を刻んだ。4524深谷知博。SG初優出にして初優勝。103期のSG制覇はもっとも若い期の快挙でもある。おめでとう!
 レース自体も、勝者に関してケチの付けようがない。スタートはコンマ06のトップタイミング。1マークは2コース毒島が「素晴らしかった」と絶賛するほど完璧な高速インモンキー。3コースから決め打ちのまくり差しを狙った金子も、それをブロックしながら差した毒島も、この絶品の大逃げには鈴をつけることすらできなかった。

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 バック直線ではや一人旅を決め込んでからも、飛ばす飛ばす。本人は2マークを過ぎて勝利を確信し「あとは大事に回れば」と思ったそうだが、ゴールまで緩めることなく1分46秒6=節間2位の猛タイムで疾駆し続けた。ちなみにトップ時計も深谷自身の1分46秒4なのだが。

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「深谷訓練生は、間違いなくSGで活躍すると思います」
 12年前の卒業式の前夜、やまと学校の教官がこう言ったのを、おぼろげながら覚えている。まあ、このセリフはほぼすべての期のトップ訓練生に贈られる常套句なので、やまとリーグ成績8・23というブッチギリの首席には当然の讃辞ではあった。私がはっきり覚えているのは、そのエリートのルックスが驚くほど童顔だったことだ。当時は坊主頭だから、そのクリクリのつぶらな瞳が余計に大きく見えたものだ。

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 こんな可愛らしい、勝負事には縁遠いようなベビーフェイスがこの期でいちばん強いのか。
 そんなことを思いながら、やまとチャンプ決定戦に向かう深谷訓練生を見つめた記憶がある。そして、その教官の言葉どおり、深谷は浜名湖を中心にすくすく育ってデビュー3年ちょいでGI初出場、6年足らずでSG初参戦(ダービーだ!)、さらにはその半年後の2015年にはSG予選を突破している(準優4着)。こうした経緯を考えれば、この若者にとって32歳でのSG初制覇がとりわけ早かったわけではない、という気にもなるな。三十路を超えてもベビーフェイスは変わらぬまま、この優勝できっと新たな女性ファンがわらわらと出現すると予言しておこう(笑)。

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「ずっと暮れのグランプリに出ることを目標にしてきました」
 レース後にこう語った勝者は、3900万円の加算でもちろん目標の圏内に到達した。2カ月後の平和島での活躍が楽しみだし、103期のSG初制覇は小野生奈や黒井達矢など同期の面々にも「自分たちでもやればできる」という具体的かつ大きな指標となることだろう。
もちろん、今日の同じ舞台を走った佐藤翼、現在GPボーダー付近で奮闘している磯部誠など105期の後輩にも大きなカンフル剤となったはずだ。あ、長期の産休明けから徐々にレース勘を研ぎ澄ませている奥方の鎌倉涼にも!
 101期の仁志先輩、103期の深谷先輩に続け。
 年々、出世が遅くなっている感のあるルーキー世代にとって、この“新世期”レーサーの立て続けのSG制覇は身近なお手本にもなるだろう。戦国ダービーから飛び出した童顔ニューヒーローは、我々が思う以上にボートレース界に多大な影響を与える存在なのかも知れない。(photos/チャーリー池上、text/畠山)