BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――歓喜も落胆も

9R めでたい優出

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 平本真之が2番手を獲り切った瞬間、ピットには歓声と拍手が巻き起こっている。その主たちすべてを確認できたわけではなかったが、愛知勢以外の選手も含まれていたように見えた。やはり地元の選手が優勝戦に残るというのは意味が重い。それをどの選手も理解しているだけに、そのレースに同支部の選手がいたりするのではないのなら、平本を祝福する気持ちに自然となったということだろう。
 平本は悔しさを隠さない男だ、とは何度も書いているわけだが、同様に嬉しさも隠そうとはしない。村田修次との接戦を制しての2着、地元優出。ピットに戻ったときから、もう笑顔笑顔なのである。深谷知博に向っては超ド派手なガッツポーズ! さらに同期の篠崎元志とは力強いグータッチ。ある意味、レース後に最も充実感をあらわにしていたのは、この平本だっただろう。

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 勝ったのは久田敏之だ。平本とは対照的にそれほど感情を表に出すことはなかったが、これが嬉しいSG初優出である。
「自分を評価したいと思っています」
 久田は会見でそう語っている。3年前の平和島ダービー。予選トップ通過で迎えた準優勝戦、久田は痛恨のフライングを切ってしまっている。ビッグチャンスをモノにできなかったことや、それからしばらくSGやGⅠから遠ざからねばならないことなど、それはあまりに痛い勇み足だった。その空白期間も乗り越えて、久田はまたSGの舞台に戻り、そして準優1号艇に乗り(3位通過ではあったが)、そして今度はしっかりと逃げ切った。それも、進入がもつれて深い起こしになったインから。おそらく、あのFは頭によぎった。それでも力強く乗り切った。これは久田自身だけでなく、大向こうから称えられるべきことだと思う。
 もちろん、優出がゴールではない。明日はポールポジションに強くてたまらない後輩が鎮座しているが、久田は怯むことなく打ち破りに行くだろう。ともかく、まずはSG初優出おめでとう!

10R ただただ優勝したい

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 3コースの岡崎恭裕に頭を超えられた瞬間、桐生順平のGP行き消滅が決定的になった。桐生のいないグランプリ……まあ、シリーズには出るので平和島には姿があるわけだが、しかし18人のなかに桐生がいないというのは、なかなか衝撃的である。
 レース後、エンジン吊りやボート洗浄を終えて控室に帰るまで、桐生はヘルメットを脱ぐことはなかった。控室への途上にはカメラマンが待ち構えているから、表情を撮られたくないという思いもあったか。シールド越しにわずかに見える桐生の目は、たしかに落胆しているように見えた。桐生らしからぬレースもたびたび見られた今年、それが一瞬のうちに頭をよぎり、悔しさは脳みそのなかで猛拡大していたか。来年は、いや、まずは来週のBBCトーナメントあたりででも、桐生らしさを爆発させてほしい。

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 岡崎は2着。スリットから明らかに出ていく足色は、節イチ級と言っていいだろう。淡々としたレース後ではあったが、その顔つきには充実感がちらりと浮かんでおり、機力には確かな手応えを感じているようであった。
 グランプリ行きについては、「それはおまけのようなもの」と一笑に付すようなところがあった。準Vで現在16位の西山貴浩を超える計算だが(西山の特別選抜A戦次第ではある)、岡崎はただただ「明日、優勝したい」という思いでレースに臨むというのである。それを叶えれば、文句なしにグランプリ行き。岡崎はただただ優勝だけを狙って、明日の12Rに臨むのである。

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 1着は毒島誠。もう先に書いてしまうが、結果的に優勝戦1号艇である。12Rで1号艇の稲田浩二が敗れたとき、毒島は……実に淡々としていた。表情をひとつも変えることなく、もちろんはしゃぐこともなく、他の選手と笑い合うこともなく、自然体なのであった。それは、勝っていれば1号艇だった稲田への気遣いもあっただろう。そして、何号艇だろうとただ優勝を目指すだけだという思いもあるはずだ。毒島も、優勝すればトライアル2nd1号艇と問いかけられて「それは結果ですから。優勝した、というだけです」と岡崎と同じような言葉を会見で口にしている。ラッキーが転がり込んだと喜んでいる場合ではないのである。
 事実、その後に毒島はすぐにプロペラ修正室にこもった。明日への準備を怠りなく進めているのだ(岡崎に伸びられていたので、そこを修正したいと言っていた)。だからこそ、ますます明日は盤石という気がしてくるんですけどね。

11R 激闘

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 2号艇が「篠崎」だったからというわけではないが、5年前の峰vs元志の激闘を思い出すデッドヒートでしたね。そう、メモリアル優勝戦で元志が制した一戦。今日勝ったのは仁志である。
 勝っても負けても淡々、飄々の稲田浩二なので、このスーパービッグチャンスで2着に敗れた後も特に表情を変えてはいない。ただ、どうだろう。ほんの少し険しさが増していたように思えたのは気のせいなのか。ちょっと走ってしまったように見えた1マーク手前、やはり平常心ではなかったかもしれず、そのことに対する後悔のようなものは脳裏に浮かんだかもしれない。
 それでもSG初優出である。4号艇は、むしろ気楽に臨める枠番でもある。枠なりなら、イナダッシュ炸裂も!? 晩秋の蒲郡を沸かせるレースを期待しよう。

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 仁志もまた、淡々粛々としたレース後だった。激戦を展開した仁志と稲田、そのレース後の挨拶に先に向かったのは仁志だった。ヘルメットをとり、稲田に頭を下げる。こうした戦いの後は、相手に敬意が生じるのが自然というものだろう。
 今節の仁志は、プロペラをほとんど触っていない。数字のないモーターながら感触、動きがいいのだから、それがプロペラが引き出しているものなら、大きくいじらないほうが良かろうという判断だ。ただ、決して超抜ではないし、優勝戦の内枠に陣取る群馬勢は好仕上がり。また、外には直線足抜群の岡崎もいる。さあ、明日はどんな判断をするだろうか。ペラ室にこもる仁志の姿があったなら、一発大勝負をかけてくるということだろう。その動きには注視したい。

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 ちなみに、同じレースを走った西山貴浩が、仁志を称える場面があった。4番手あたりを走りながら、前方に競り合う後輩の姿が見えていたのだろう。よくぞ勝ち切った、ということか。西山自身は初のGP出場が目前! 明日は特別選抜A戦でしっかり稼いで、自力で頭角を決めろ!

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 女子のほうは、今日が勝負駆け。8R、1着勝負で6号艇、田口節子が果敢に前付けに動いた。残念ながら実らなかったが、その闘志に拍手だ! レース後はペラ室にこもって調整をしていたが、ということは前付けで深くなっても戦えるような調整を施してレースに臨んだということだろう。決意と覚悟の勝負駆けだったのだ。そのことは結果はともかく称えられなければならない。前付けが極めて少ない女子戦ということもあわせて、腹の括り方がカッコよかったのだ。田口は現在女子11位。なにしろ14~16位とボーダー付近の選手が揃って優出しているだけに、明日は冷や汗を滲ませつつ、自身は少しでも上積みするべく奮闘する。

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 1位通過は守屋美穂だ。8R、田口を入れて4コースに引き、まくり一撃快勝! 自力で寺田先輩を超えてポールポジションをつかみ取った。これもまた、見事な腹の括り方だったと言える。レースぶりが男前だよね!
 で、レース後。着替えを終えてピットに戻ると、ペラ室の隅で調整中の樋口由加里を発見した守屋は、その背中にギューッと抱き着いた! それまではクールに振舞ってもいたのだが、盟友と言うべき樋口には喜びを全身で表現したのである。やっぱり嬉しかったのだ! そして、そんなミポリンが実にかわいかったです(笑)。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)