BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――意外な静けさ

●11R

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 レース直前の菊地孝平は、とにかく考えに考えに考え込んでいた。ピット内を歩いて移動する際にも、うつむき加減で一点を見つめている。時に立ち止まって、彫像のように固まる。展示が終わり、いよいよ出走準備というタイミングでは、緑のカポックと勝負服を身にまとい、待機室前の手すりに突っ伏す格好で、5~10分ほど微動だにしなかった。スタート展示では結局、動いても誰も譲らない枠なりオールスロー。本番も同様の展開が予想される中、勝負駆けを突破する糸口を何とか掴もうと、それは必死でもがいている姿だった。
 菊地は最内を差してなんとか3着。しかし、それはファイナル行きを決めるものにはならなかった。12Rの結果次第で可能性は残されていた分、表情はそれほど深刻には見えなかったが、納得できる結末でなかったのは明らかだった。

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 このレースからファイナル行きを決めたのは、まず寺田祥。2コースから差して2着、23点なったことで当確となった。レース後は淡々としており、また会見でも的確に回答をしていたが、声色が明らかに変わったのは、今村豊さんのことを質問されたときだった。「今村さんのためにも頑張りたい」。寺田はたしかにそう言った。グランプリジャンパーの胸に書かれた今村さんのサイン。それはやはり、寺田にパワーを与え、特別な思いに至らせるものだったのだ。理想としては、白井英治とともに黄金のヘルメット獲りに向かうことだっただろう。先に書いてしまうと、白井は勝負駆けに失敗した。となれば、寺田は白井の思いも背負って優勝戦のピットに入ることになる。それは確実に、寺田の背中を押すものとなるだろう。

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 もう一人は、逃げ切り連勝の西山貴浩! ニッシーニャがとうとう、グランプリのファイナルに名を刻んだ。徳増秀樹に祝福されて、「人生のピークが来てますわ~」。西山らしい物言いだが、レーサー人生の“キャリアハイ”であることは間違いない。
 で、今日の西山も、はしゃいだりおどけたりといったシーンは、人生のピーク発言以外には見当たらなかった。事故レースということもあったのかもしれないが、笑顔らしい笑顔も見せていない。むしろ顔は引き締まっており、もう一段、ギアが入ったようにも見えた。会見では相変わらずコミカルなコメントも発するものの、足の部分に関してや調整に関してなどについては、西山らしからぬ真面目さを発揮していて、それはグランプリのファイナリストらしさに満ちていた。まあ、「峰さんがポルシェなら、僕は軽トラですよ! 差せると思ってるんですか!」みたいなコメントもたくさんあったけどね。それは西山一流のスパイスのようなもので、気合がまるでいつもと違うのは明らかであった。ちなみに、明日も本体を割って、ピストンリングを交換するとのことです。

●12R

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 トライアルの最終戦とは思えない、静かなレース後だった。逃げ切って勝負駆け成功の新田雄史にも、まるで高揚したところがない。勝利者インタビューのため、エンジン吊りとボート洗浄を仲間に託して足早にピットを後にした時も、表情は一つも変わることがなかった。会見では、足に自信はないが勝ちに行くと力強く宣言しているが、レース後の様子にはそうした雰囲気すら見えていなかったのである。

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 2着で勝負駆け成功の平本真之にしても同じことだ。何度も何度もしつこく書いているように、喜びも悔しさも、感情を隠そうとしない平本が、エンジン吊りやボート洗浄の間はひたすら淡々としていて、控室に引き上げるときにもほとんど笑顔を見せなかった。まあ、新田と違うだろうと思うのは、3度目のグランプリにしてついに初優出、その喜びに浸っていたという可能性はある。会見でも、これが夢だったと語っているから、その淡々とした感じこそが歓喜の表現だったかもしれない。

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 3着で勝負駆け成功の松井繁もまた、表情をほとんど変えていない。粛々とエンジン吊りやボート洗浄を終え、顔色ひとつ変えることなく控室へと消えていった。松井にとって、グランプリ優出はもちろん何度も経験したことであり、また到達点ではない。ここに戻ってきたという充実感はあったとしても、それ以上に感情を突き動かすものでもなかろう。
 ただ、会見では昨日よりも言葉数が減っていた。やや不機嫌にも見えるほどセンテンスは短く、また顔つきも厳しいものだった。優出が決まり、またたく間に王者モードに入ったと見たが、どうだろう。それこそ、過去に何度か目にした、優出会見の光景なのだ(今回はリモートだけど)。
 ちょっとだけ苦笑いが混じったのは進入について聞かれたとき。そりゃあ誰だって、6号艇の松井といえば前付けを想定するわけだが、松井は頑なに「わかりません」と繰り返した。まあ、今日のトライアル2nd2戦とも枠なりオールスローだったわけだし、となるとスロー6コースが勝ち筋になるとは考えにくい。他艇の腹の内もまだ見えないし、ここはその答えしかなかったかも。で、平本も新田も「松井さんがわからないというなら、僕もわかりません」と苦笑いでした。

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 無事故完走でファイナル1号艇が当確となっていた峰竜太は、まさしく無事故完走の6着。菊地孝平に「お前が勝ってたら、俺が残ってたのに」とからかわれて、「早く言ってくれたらもっと頑張ったのに」と笑い返していたが、まあ本音というわけではなく、他愛のないじゃれ合いであろう。
 気になるのは、会見でのテンションが明らかに低かったことだ。昨日はあれだけ「勝って1号艇」など前向きな言葉が並んでいたのに、今日は結局、守りに入ってしまっていたという。致し方ないこととも思えるが、結果が6着だったことも含めて、それが峰の気持ちを落としてしまっているようだった。こんなに意気が上がらない「優勝戦1号艇が決まった選手」、これまでのグランプリで見たことがない。特殊な状況での1号艇ゲットがもたらした、不思議な光景と言えようか。これがどんな影響をもたらすのか、ともかく明日の朝の様子を確認してみたい。

●シリーズ

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 8Rを勝ち上がったのは深川真二と秦英悟。逃げ切った深川は、出迎えた峰竜太らににこやかに微笑んでおり、気分上々。また、会見では「(グランプリとシリーズ)どちらも佐賀支部が勝てれば最高」と語っている。峰にバトンを渡す役割を果たせるか。

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 秦はSG初出場初優出! 事故レースではあったものの、井口佳典、久田敏之との混戦を制してのものだけに値千金。初の舞台で冷静に捌いたあたりも見事である。ピットに上がると、とにかくさまざまな選手が嬉しそうに祝福していた。大阪支部はもちろん、他支部の選手もだ。次々に親指を立てられて、秦は嬉しそうにサムアップを返していた。

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 9Rを勝ち上がったのは坂口周と前本泰和。前本は1号艇で2着と、やや複雑な勝ち上がりで、控室に戻る際、一瞬だけ顔色が変わる場面があった。今日の敗因は、畠山の原稿でも話題になっていた「うねり」で、これでボートが浮いてしまったことを悔しそうに振り返っている。
f:id:boatrace-g-report:20201219181237j:plain 坂口は、3月の当地クラシックに続くSG優出! あのときは7Rあたりの時間帯にペラを破損。「僕の大黒歴史ですわ」と笑わせた。「明日は陸の上で細心の注意を払います」とも。何しろ、昨日までは伸びに特化させようとしていた調整を、今日は伸びを捨てようとしたら出足が来たどころか結局伸びもさらにアップ。課題だったピット離れの悪さも解消したという。万全で臨む優勝戦だ! 明日は3カドもあるかも!? なお、写真の二人は83期の同期生!

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 10Rを勝ち上がったのは、池田浩二と石渡鉄兵。石渡は地元勢の砦として、最低限の結果を出したと言える。6号艇ではあるが、まずは安堵といったところだろう。もともとそういうタイプではないが、前付けはないだろうとのこと。6コースからどんな戦略で地元水面を盛り上げてくれるだろうか。

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 池田は10度目のSG制覇に王手。陸に上がるや、右腕を突き立てて、杉山正樹とハイタッチもしていた。シリーズとはいえ、優勝戦1号艇をゲットしたことは会心であろう。明日は気合を込めて戦うとも宣言。一見クールにも見える男のホットな発言だ。足的にも万全、死角は非常に少ないように思えるがどうだろう。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)