BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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w優勝戦 私的回顧

ガバ差し

11Rシリーズ優勝戦
①池田浩二(愛知)18
②深川真二(佐賀)12
③坂口 周(三重)13
④前本泰和(広島)17
⑤秦 英悟(大阪)14
⑥石渡鉄兵(東京)13

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 3年前の平和島ダービーに続いて、深川が2コースからズッポリ差し抜けた。最大の勝因はスタートか。逆に言うと、インコース池田の敗因もスタートに収束される。最後の最後にフライング持ちが響いたか。

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 スリットでのふたりの差は1/3艇身ほどで、そこから出て行ったのは深川の方だった。さすがトップ級の出足。1マークのはるか手前でジカまくりが可能な差になったが、深川はそこでじっと待つ。ここ1年の2コース成績はまくり5勝、差して23勝! 考える余裕のあるポジションで、深川は己の得意とする戦法を選んだ。

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 まくられたら一巻の終わりという態勢だった池田は、深川に圧迫されながら1マークを先取りした。が、スタートからの“借金”が響いて軽やかに旋回すべきマイシロがない。仕方なしにターンマークに寄り添ったインモンキーはずるり外へと流れ、その瞬間を待ち構えていた深川がトドメの差しハンドルを突き入れた。

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 大ベテランならではの老獪かつ冷静的確な差し抜け。「平和島のホーム向かい風は2コース差しが決まらない」が定石なのだが、この2コース差しの鬼には何の障壁でもなかった。SGタイトルはどっちも平和島、そしてどっちも2コース差し。あ、今節の初日に「平和島の水神様は吉川姓がお好き?」などというチャラい記事を書いたのだが、平和島での直近3度のSGを振り返ると【深川~吉川元浩・昭男コンビ~深川】という実に渋いダンディたちが牛耳っている。なんのことはない、平和島の水神様は単なる「おっさんずラブ」なのかも知れないな(笑)。

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 この優勝で、深川は来年3月の福岡クラシックの権利をGETした。福岡は前付け選手にはなかなか険しい環境のレース場というイメージがあるのだが、ピットアウトからレースを活性化してくれる選手が増えるのはありがたい限り。70m起こしも辞さない、男前なアタックを魅せてもらいたい。

ガバドンの涙

12R GP優勝戦 並び順
①峰 竜太(佐賀)01
②西山貴浩(福岡)02
③寺田 祥(山口)04
⑥松井 繁(大阪)03
④新田雄史(三重)04
⑤平本真之(愛知)08

 2020年の平和島グランプリは、佐賀のガバイ旋風とともに幕を閉じた。シリーズ戦の深川真二Vに続いて、こちらは峰竜太がインから圧逃V。2年ぶり2度目のGP覇者へと返り咲いた。

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 新型コロナウイルスの影響で入場人員が制限された平和島スタンド。6年前の当地GPの喧騒とはまるで別物の、誰もが好きな立ち位置で観戦できるほど余裕がある空間。こんなグランプリは、おそらく後にも先にも起こりえないだろう。
 夕焼け色に染まる西空にSGファンファーレが鳴り響くと、ほとんどの観客が拍手でそれに応じた。これもまた、GPらしからぬ静かにして厳かな拍手。こうしてレース場に足を踏み入れ、年間で最大最高のレースを現場で観られる喜び。それを噛みしめているような拍手に思えた。

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「松井、行けよ、行ってくれよ~~!!」
 誰かしらが叫んだ声が響く響く。そして、6号艇の松井はその叫びに呼応するようにエンジンを噴かせた。西島義則を思わせるモンキーターンでの激しい前付け。抵抗したのは峰、西山、寺田の3艇で、新田と平本は潔く身を引いた。1236/45。内4艇はほぼ横一線で進んでいくから、なかなかに迫力のある最終隊形だ。

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「やっべ、ヨンゴゴーヨン、あるんじゃね!?」
 若者の声も茜色の空にコンコンと響く。私のにわか脳内レースもヨンゴゴーヨンの出し抜け映像を作り出した直後に12秒針が回る。ダッシュ2騎が早々に発進し、スロー4艇はやはり横並びのジャスト100起こし。さほど深くならなかったのは、11Rが終わったあたりから強くなったホーム向かい風のせいだ。が、その風はダッシュ勢の加速度を際立たせるファクターでもある。

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 自然、私の目は外へ外へと向いたのだが、スリット隊形はわずかながらスロー勢に分があった。それもそのはず、インコース峰のスタートはコンマ01!! さらには西山が02で寺田が04で松井が03、4人ともにキワのキワまで突っ込んでいた。助走の最中にわずかでも風が弱まれば、GP史上最悪の惨事が起きたかも知れない。

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 だがしかし、コンマ01でも踏みとどまってしまえば絶品のタッチS。峰が1マークを先取りし、西山が差し、寺田が渾身の握りマイを放った。その強ツケマイは相手をよろけさせるほどの迫力に映ったのだが、峰のインモンキーがまた凄い。例によって長身を折り曲げ、高く腰を跳ね上げながら上体を内へ内へと捻る独特のフォームは、いつにも増して美しかった。白いカポックが夕焼け色に染まっていたからか。寺田を応援していた私がほんの一瞬だけ見蕩れている間に、峰は寺田を3艇身ほども置き去りにしていた。

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「足は2段階くらいアップして、もう節イチです」
 おとといあたりから、峰はこんなラッパを吹き始めたが、この圧勝をもってしても私は節イチパワーと認める気はない。今日も含めて4戦のうち3戦が影をも踏ませぬイン逃げで、昨日は後方でほぼレースをしていない。まるでパワーの比較材料がないまま、峰はグランプリの頂点に立ってしまった。今日の「3艇身の瞬間移送」もパワー云々ではなく、あの美しいフォームのなせる業かも知れないのだ。

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 ブッチギリの一人旅で3周を走り終えた峰がド派手なガッツポーズを繰り出した瞬間、またスタンドの人々は一斉に拍手をしはじめた。もちろん、ファンファーレの厳かなそれとは違う、祝福の拍手、拍手、拍手。舟券が当たって感謝を込めた拍手、外れても峰の強さに酔いしれた拍手、そしてこの場で勝者をジカに祝福できる喜びの拍手……そんなこんなが入り混じった拍手は、峰竜太という人柄をしっかり反映しているようにも思えた。

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 レース終了からウイニングランまで10分ほど待たされただろうか。スタンドから何十人かの人たちが立ち去ったが、それ以外の観衆はそのままヒーローの登場を待った。待たせて待たせて、やっと現れた千両役者はわんわん泣いている。何度も何度も両手で涙を拭う、掛け値なしの号泣。それを見て爆笑する若者も中にはいたが、ほとんどのファンは拍手しながら口々に「おめでとー」と叫ぶ。もらい泣きしている女性もいる。その声援に、また峰が涙を拭う。
 うん、やっぱこの男は舟券の当たりハズレあたりを超越して、老若男女に愛される本物のアイドルなんだな。
 そんなことを思った。この優勝で、峰は今年の主要なレーサー褒賞をほぼ独占することになりそうだ。最優秀選手賞、最多獲得賞金賞、最高勝率賞、最多勝利賞。そして記者大賞も含めた5冠王になることだろう。恐ろしく強いのに、日本中の老若男女に愛される天然キャラ。その両方を、今日も私は目の当たりにしたわけだ。せっせと峰以外の舟券を買いながら。
 怪獣ガバドン。
 ガバイ旋風からの連想もあって、私は号泣している峰とある怪獣を重ね合わせる。ウルトラマンに登場するガバドン(正確にはガヴァドンだが)は、少年の落書から生まれた愛すべき怪獣だ。ウルトラマンでさえも子どもたちの「ガバドンを殺さないで!」という声に抗えず、年に一度、(たしか)七夕の日に再会できる宇宙の星へと変貌させた。なんだか、今日の水面やスタンドでのあれやこれやがこの愛らしい怪獣とぴったり重なり、もはやボートレース界での特殊な存在=星というかアイドルというか、になってしまったんだな、と実感した次第だ。ん、変な成り行きになったが、なんとなくわかってもらえるだろうか。

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 あ、最後に、今年のGPでもっとも全国に名を売ったのは、西山貴浩で決まりだろう。いや、もともと全国的に名前が売れている選手なのだが、単純に「ボートレース界のお笑い怪獣」ではなく、とんでもない勝負根性&度胸の持ち主として認められたはずだ。トライアル2ndに突入してからコンマ07・05・06・02。お祭り男の真骨頂は、陸の上だけではなかった。(photos/チャーリー池上、text/畠山)