BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――いろいろあった……

●10R

 まさかのF……。イン森高一真が後手を踏んだように見えたスリットだが、実は森高以外がかなり踏み込んだスタート。そのなかで、守屋美穂が勇み足となってしまった。守屋は先月、児島周年で準優F。そして今回、SG準優でF。女子の第一人者が向こう1年、SGから遠ざかることとなってしまった。SGや記念でも活躍するべく、努力を重ね、己と向き合いながら踏ん張ってきた守屋が、SGとGⅠで準優2号艇に乗る活躍を見せ、そこで勝負を懸けた結果、哀しい結末を迎えてしまった……。思うところはたくさんあるけれども、守屋がこれで折れないことだけを祈る。少しだけ大舞台からは遠ざかるが、さらに強くなって戻ってくることをひたすら願う。

 スリット隊形としては外にのぞかれる格好となった森高は、だから外マイに出た守屋に抵抗している間に、差されることとなってしまっている。守屋としては、Fを切った挙句に森高と競る格好になり、それもまた迷惑をかけたと己を責めるものになっていたようだ。ピットに戻って森高に、守屋はすみませんでしたと頭を下げ、さらに両手を合わせてもういちど、より深々と頭を下げた。森高は、右手を軽くあげて守屋に気にするなというポーズをとり、申し訳なさそうにしている守屋の左肩をポンポンと2度ほど叩いて慰めた。森高にもいろいろな思いはあろうが、痛い思いをしている守屋をいたわったのだ。敗れたのはもちろん悔やしいだろうが……。とにもかくにも優出。明日は準優の分もまとめて借りを返すだけだ。

 勝ったのは馬場貴也だ。馬場もコンマ01と際どいスタート。僕が守屋さんを引っ張った部分もあるかも、と会見では少し声を落とした。ただ、自身が攻めるつもりだったところを、展開を見て素早く差しに切り替えて先頭に立ったのはさすが。そして、今年に入って結果を出し切れなかったなかで、この優出はリズムを変えるものになるだろう。馬場自身「ホッとした」と笑みを見せており、優勝戦はいい流れで迎えられそうだ。馬場と森高には、準優に漂った重い空気を優勝戦で弾き飛ばす活躍を期待したい!

●11R

 毒島誠が出たのか、末永和也が遅れたのか。リプレイを見ずに書いているが、4号艇の末永と5号艇の毒島がピット離れで入れ替わり、それどころか末永は6号艇の井口佳典にも主張されての6コース。結果的にはこれが大きなカギとなった。磯部誠が3コースから握った展開を見据えて、毒島が差しハンドルで2番手浮上。もちろん、末永が同じ航跡を描くことになったわけではないだろうが、結果的に磯部の外が優出したのだから、末永にとっては痛恨の極みだろう。

 逆に毒島はしてやったりの2着。さらに先頭との差をぐいぐい詰めたように、2着で良しの走りでもなかった。充実した走りでの優出は、レース後の毒島の表情を実に明るくしていたのだった。末永は毒島の、あるいはSGの修羅場をくぐり続けている者の凄みを、改めて知ったと思う。この経験がいつか必ず、末永和也をそういう存在にするだろう。

 毒島とは盟友関係とでも言うべき桐生順平は惜しくも3着。最終日前日につき、選手総出のボート洗浄作業があり、それを終えると肩を並べて控室へと向かい、2着と3着の感想戦を繰り広げた。身振り手振りで言葉を交わし合うふたり。最後は桐生が「くっそー」と悔しそうに苦笑いを浮かべ、毒島は納得の笑みを見せた。桐生も今日は調整を続け、奮闘したのだが、結果的に今日は毒島にしてやられたというところだったか。

 宮地元輝がイン逃げ! 先述のように最後は毒島に差を詰められはしたが、形的には快勝だったと言っていいだろう。ピットに戻るとすぐに桐生が歩み寄り、左肩をポンと叩いた。これは同期生からの祝福と、今日は負けたよとの脱帽の表明だろう。
 ただ、今日は調整を失敗したそうだ。毒島に詰められたのも、そのあたりが影響したものだろう。それもあったのか、レース後の宮地はどこか難しい顔をしているように見えた。少なくとも、勝利の会心はあまり感じ取れなかったのだ。明日はそのあたりの再調整に忙しくなりそう。なお、会見ではスタートが「情けない」と声をあげてました。コンマ24。「僕がお客さんだったら許しませんよ!」と首を傾げている。やはりこの男、常に視線はファンのほうに向いている。人気が出るはずである。

●12R

 ピットに戻ってきた定松勇樹は、思いのほか、表情がなかった。笑顔もなかった。今日は本人曰く「吐くくらい」緊張したという。いざ敬礼をしてボートに乗り込んでからは冷静だったというが、ただでさえ緊張する予選トップ→準優1号艇である。キャリアも浅い23歳の若者が、これだけのスーパースターたちのなかでメインカードの1号艇に入るのだから、人生で感じたことのない重圧があって当然である。そして、そのなかで勝ったことも、直後はどこか現実味がなかったのではないか。それもまた当然のことだと思う。山田康二だったか宮地元輝だったか、一声かけた瞬間に、初々しさも感じられる、しかし誇らしくもある笑顔! 優勝戦1号艇を決める逃げ切りに、喜びが沸き上がってきたようだった。
 明日はさらなる緊張が襲うのか。それとも、意外と落ち着いて過ごせるのか。とにかく、登番5000番台初のSG制覇とか、23歳のSGウィナーとか、いろいろな修飾がまとう戦いに臨むのだから、まずは自分との戦いとなるのだろう。この若者が、おそらくは初めて味わう本物の修羅場とどう向き合うのか、本当に楽しみだぞ!

 2着は瓜生正義で、これはもう、定松とは対照的な淡々としたレース後である。松井繁が追いすがった2番手争いも冷静に切り抜け、その松井とは実に自然な感じで健闘を称え合ってもいた。こうした百戦錬磨の強者と、定松は明日、対峙するのだと思えば、ますます楽しみな優勝戦。瓜生にも匠の技を期待するとしよう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)