BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――優先事項

 水神祭に姿を見せなかった中亮太。その頃、どこにいたかというと、整備室である。前検から感触の悪さを漏らしていた中は、初日は1号艇で6着大敗。4カド畑田汰一にまくられたのはともかく、道中もまるでいいところがなかった。このままでは這うだけ、となれば、急ぎ整備の必要があるだろう。だから中は整備室にこもった。ピットでは「佐々木翔斗選手の水神祭を行ないます」というアナウンスがわざわざ流されたというのに、中は整備室にとどまったのである。
 勝負師としてこの振る舞いは正しい。1号艇だから、それなりに人気を集めた。しかし応えられなかった。それで水神祭で大はしゃぎしていたら、ファンはどんな思いをするか。おそらく中はそれをわかっている。そして、このままでは終われない。そんな思いも強いのである。明日は外枠2走。ひとつは6号艇だから苦戦は必至かもしれない。しかし整備で上向かせて好レースを見せ、9R終了後に水神祭が行なわれるのならぜひ顔を見せてほしいものです。

 水神祭にいてもおかしくなかったのにいなかった、そのもう一人は宮之原輝紀である。118期の同期生。板橋侑我は一緒に飛び込んでおり、10Rの展示を終えたばかりの新開航も顔を見せていた。しかし宮之原は、その場にやって来なかった。9R終了後というのは、12Rのスタート特訓が行なわれるタイミング。もちろん宮之原もそれに参加している。その後、係留所にボートをつけた宮之原は、そこで回転調整の作業を行なっていた。その間に水神祭は行なわれ、宮之原は間に合わなかったのだ。同期の水神祭には出たい。だが、ドリーム戦で人気を背負う身として、調整を怠ることはできない。これもまた、正しい振る舞いと言うべきだろう。水神祭が終わり、佐々木が報道陣の取材を受けている最中に、宮之原はようやくそこに辿り着いた。佐々木の取材が終わるのを待って、宮之原は佐々木に詫びを入れている。佐々木もその意味をよくわかっていただろう。水神祭はもちろん大切な儀式だが、それよりも大事なことが選手にはあるというわけである。

 ドリーム組といえば、9R発売中に定松勇樹が少しドタバタした空気を醸し出していた。ボートを装着場に置いたまま、本体を外したのだ。レースがかなり近づいた段階での本体取り外しに、選手たちも心配そうに定松の周りに集まってくる。異常事態のように感じられたのだろう。傍目からは、キャリアボデーを交換しているように見受けられた。ただ、直前情報に交換の情報は出ていないから、いったん交換したものの好転せず、元に戻したものと思われる。ともあれ、ギリギリまでパワーアップを模索して、定松は奮闘したということだ。

 さて、9Rの3番手争いが熱かった。板橋侑我と田頭虎親がゴールまで大接戦を繰り広げたのだ。やや先行する板橋に田頭が逆転を仕掛けるという格好で続いたデッドヒート。3周2マークで田頭はバランスを崩したように見えながらも、力づくで態勢を立て直して、ゴールは写真判定に持ち込んでいる。ピットには、内にいた板橋が先に戻ってきていて、ギリギリ粘ったかのようにも思われたが、実はそのとき、確定板にはまだ「ゴール判定中」と表示されていたのだった。

 全員がピットに上がってエンジン吊りを始めても、まだ確定は出ていなかった。田頭は周囲に声を掛けられながら、苦虫を噛み潰したような表情になったり、少し首を傾げたりして、やや悔し気な雰囲気と見えている。競り合いに敗れたという手応えだったのだろうか。いいえ、あなたは競り負けていない。なんと3着同着だったのだ! といっても、別に3着を目指していただけではないわけだから、さほど喜んでいるようには見えなかった田頭。着替えを終えると板橋と顔を見合わせ、笑顔でレースを振り返り合っていた。

 10Rの2番手争いがこれまた熱かった。澤田尚也と新開航が激しく競り合ったのだ。澤田がやや先行しながら、新開は小回りで迫るといった攻防となり、いったんは新開が澤田を捕らえた瞬間もあった。しかし、最終コーナーで澤田はドンピシャの外マイを放って新開を置き去りに。競り合いというよりは駆け引きに敗れたような格好となった新開は、悔しそうに苦笑いを浮かべていた。

 澤田はといえば、実に息が荒かった。ハァハァと疲労困憊のような息遣いで、迫力ある目つきでピットに戻ってきている。それだけ全速で握りまくったし、もちろん身体も使った。全速ターンで踏ん張っているときは無酸素運動になっているはずだから、そりゃあ息も切れるというもの。そして、それで新開を競り落としたのだから、心地いい疲労だったはずだ。澤田は1着2着と初日好発進。昨日のびわこ周年では深井利寿が優勝し、馬場貴也がメモリアル、遠藤エミがレディチャンとビッグを立て続けに優勝している。次は俺の番、とひそかに狙っているはずだ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)