BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――地元の気合!

 やはり西山貴浩が一味違うのである。8R、3コースまくり差しで快勝。さぞやテンションを高めるかと思いきや、実に淡々としたレース後である。口元に微笑が漂ってはいるのだが、目が笑っていない。気合にたぎる目つき、という感じではないけれども、ひとつの勝利で喜んでなどいられない、見ているものはもっと先にある、あるいは上にあるのだという雰囲気だ。普段の節だってもちろん真剣勝負をしている。だが、若松ではさらにギアが上がる。地元ビッグというのはそういうものだろう。着替えを終えるとさらに西山は、外回りの調整をしていた。やはりこの1着で満足してなどいないのであった。

 10R、渡邉和将の3コース攻めに粘って粘って先攻めに出た仲谷颯仁のレースぶりも、やはり地元SGへの思いが伝わってくるものだった。レース前には、8Rを勝った西山と話し込む姿もあった。同じ若松を純ホームとする、快勝劇を見せつけた先輩との会話はそれだけで刺激になったはず。自分も続くのだという決意は高まったことだろう。結果的に原田幸哉の差しを許してしまったけれども、それはそれ。2着であがってきた仲谷は、少しばかり顔をしかめていて、それを見て西山は満足げに笑っていたのだった。全力を尽くし、しかし結果には満足していない後輩を頼もしく思ったことだろう。福岡県には3場あって、すべてが地元とはいうけれども、そのなかにも特に思い入れがある場がある。それを改めて知らしめてくれる、“若松ブラザーズ”である。

 そんな気持ちのいいレースぶりの裏には、しかし敗者もいる。8R、西山にまくり差された1号艇の菅章哉。当然、納得のいっていない表情であがってくるわけである。前検でチルト3度を試したが、ダメだった。1号艇でチルトを下げて、2着には残ったけれども、勝つことはかなわなかった。心に少しばかりの靄がかかってしまうのは致し方ない。着替えを終えたあとは、しばし整備室で過ごしていた菅。ひとまず大きな作業をしている様子はなかったけれども、今後の調整に思いを馳せていたことだろう。

 10Rでは、1号艇の遠藤エミが外からの攻めをズブズブと浴びて、6着大敗だ。レース後の表情の渋いこと渋いこと。結果に対しても、レース内容に対しても、足色に対しても暗鬱になるしかないものだった。そこまで表情に悔しさがあらわれるタイプだとは思わないが、だからこそその渋面は印象に残るものだった。初日は2走で大きな着を並べてしまった。巻き返しの一手は何になるのか。明日は笑顔を見たい。

 9R、1マークの展開にスタンドは沸いた。西山のまくり差しが届いたときもそうだったが、ピットにまで歓声は響いてきた。池田浩二の5コースまくり差しだ。かなりインパクトの強い、艇団を割っての突き抜け。池田の真骨頂とも言うべき、鮮やかなハンドルだ。
 ところが、1号艇の吉川元浩も負けてはいなかった。2周1マークでは豪快ツケマイ! このときにもスタンドの歓声がピットに聞こえた。池田アタマの舟券を買っていた方の溜め息も混じっていたかも。少々両者でもつれるところはあったものの、ここで吉川が逆転。素晴らしすぎる豪快な競り合いである。二人ともマスターズ世代とは信じられない!

 もちろん、レース後はノーサイドだ。エンジン吊りを終えた吉川と池田は、肩を並べて控室へと戻っていく。笑顔で会話を交わしながら。つまり、レースの内容を振り返り合う感想戦の様子だ。まさしくラップ状態で歩く二人は、スピードこそ違うけれども、水面での並走を再現しているようでもあった。今日は終盤にはやや風は収まったものの、安定板付きの荒れ水面でのレースである。そんな条件下でも強烈な戦いを見せるあたりがSGのクオリティ! 自分の予想はまるで外れていたけれども、爽快な気分になれますね。

 さて、今節は選手代表を務めている永田啓二。多忙な代表の職務のかたわら、本体整備を行なっている。レースではやや厳しい足色を見せていて、それを永田も感じていたはず。改善が必須となれば、どんなに忙しいといっても調整をおろそかにするわけにはいかない。いや、本当に永田の姿、ピットにいればあちこちで、頻繁に見かけるのである。代表の任務をしっかりこなしながらの大整備、なんとか上向いてくれればと思わざるをえない。明日は1R1回乗り。気配をしっかり確認したい。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)