少々緊張しているのではないか。そう感じたのは、佐藤隆太郎ではなく、西山貴浩だ。若松に特別な思い入れを持ち、だからこのクラシックには特別な決意で臨んだ。若松SG優出は、ずっと願ってきたことだ。あれは21年オールスター。準優の直前、一人でストレッチをしていた西山は「優勝戦乗せてください。今年はもう優勝戦に乗れなくてもいいから」と呟きながら身体を動かしていた。それは神様への願いの言葉だった。それが今日、かなった。そしてそれは、若松でSGを獲るという最大の目標に手を届かせかけたということだ。神妙になるのも不思議ではない。彼が今節何度か口にしている、中田達也の魂とともに、という言葉。一緒に走りたかった若松SG。中田さんへの思いもさらに強くなっているかもしれない。
佐藤隆太郎はといえば、ひとまず落ち着いているように見える。少なくとも4Rまでは動きらしい動きを見せておらず、エンジン吊りで姿を見たのみ。その作業をしている様子に、浮足立っているような雰囲気は見当たらない。報道陣にも声を掛けられたりしているが、淡々と受け答えをしている。緊張がゼロとはまったく思わないが、少なくとも現時点では、それに搦めとられてはいない。調整を始めて、水面に出て、と準備が進みながら、どんな心持ちになっていくのか。なにしろモーターは抜群。普段の1号艇時と同じように戦えるかどうか、課題はそれしかないだろう。
宮地元輝は、整備室の壁際で今日もやはりペラと向き合っていた。この徹底したスタンスは、優勝戦の日でも変わらない。きっとそこにいるのだろうと、ピットに入って真っ先に整備室を覗き込んだくらいで、想像通り真摯な顔つきでペラを見つめる様子を見て、なんだか嬉しくなってしまった。とことん勝利を目指すのみ。そのための準備をとことん行なう。どんなレースでも、宮地はそれを貫くのみだ。
で、整備室を覗き込んで宮地の姿を確認してすぐ、驚いてしまったのだ。池田浩二が本体を割っている! 準優の敗因は起こしで鳴いたことがすべて。ようするに、レバーを握った瞬間、思いもよらぬ挙動となって、まともに前に進んでくれなかった。今日はまず、その解消をはかるだろうとは思っていたが、その手段が本体整備。あるいは、そのうえでさらにパワーアップをはかってもいるのか。3R発売中に整備を終えたあとは、いったん一息入れていたようだが、その整備が気配アップにつながるかどうかは展示などで注視したい。
塩田北斗はプロペラに焼きを入れていた模様。つまりすでにある程度調整して、乗ったときにペラが開かないために焼き入れをしていた、ということだと思われる。記者会見では、足はいいが乗りにくいと言っていた塩田。その部分を解消させるために、今日は調整を煮詰めていくことになるだろう。もちろん、西山同様、地元SGへの思いは強い。そして、中田さんは愛弟子である。強い決意は西山とも変わりはないだろう。
いちばん余裕がうかがえたのは、馬場貴也ということになるか。2R発売中には、昨日と同じように装着場で点検作業。その様子も落ち着き払っていて、貫禄を感じさせた。毒島誠や守田俊介との談笑も実に自然体。足的にも精神的にも仕上がっていると見ていいだろう。
最後に優出メンバー以外の話題。峰竜太は今日が誕生日! あの泣き虫王子が40歳ですよ! 信じられん。「オジの仲間入りを果たしましたよ」と悪戯っぽく笑っていたが、その様子がちっともオジっぽくないんだよなあ。やっぱり若い!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)