冷徹な差し
9R 進入順
①福島陽子(岡山) 34
②水口由紀(滋賀) 21
③渡辺千草(東京) 23
④三浦永理(静岡) 21
⑥高橋淳美(大阪) 30
⑤大瀧明日香(愛知)27
昨日に続いて、水口が2コースから差しきった。とは言え、今日はパワー云々とは無縁のスリット隊形の勝利だ。イン福島がコンマ34のドカ遅れ。水口も平凡なスタートではあったが、1艇身近いアドバンテージがある。そこから福島の伸び返しを視野に入れて、慌てず騒がず1マークまで直進。福島を回してから、冷静沈着な差しハンドルを突き刺した。この勝ち方では正味のパワーは測るべくもないが、連日の気配からして悪いわけがない。特に回り足は節イチ級と断言していい。
2着には、1マークで的確なまくり差しを繰り出した三浦。さすがのターンスピードで、無理な先マイから真横に流れた福島を完璧に捕えきった。三浦は直前でピストン、リング交換など大整備をしているが、それが当たったとは断言できない。あの展開から、2着を外すレーサーではないから。ただ、バックで水口ににじり寄りながら、結局は千切られたあたり、やはりパワーは水口のほうが上だろう。
3着はスタートで後手を踏んだ福島。まったく余裕のない先マイでズブズブに差されてしまったが、それでも3着に残したのは評価していい。ターンマークごとの旋回にも力強さが感じられたし、やはり節イチを争うパワーと見ていいだろう。
ツケマイの脅威
10R
①平高奈菜(香川) 14
②守屋美穂(岡山) 17
③中谷朋子(兵庫) 22
④長嶋万記(静岡) 16
⑤岸 恵子(徳島) 16
⑥喜井つかさ(岡山)19
見えないところから飛んでくる3コースの全速ツケマイ。インコースにとって、これほど厄介な奇襲はない。平高は、それをモロに喰らってしまった。スリットは申し分のないコンマ14のトップS。4カドの長嶋がやや覗いて見えただろうが、すぐに締めて来る気配はない。当然、平高の警戒心は内に向く。握り過ぎないインモンキーを心がける。
そこに、いきなりソレは外から襲い掛かった。中谷のスタートはもっとも遅いコンマ22。半艇身先にいて、しかも間に2コースの守屋が入っているから、平高には中谷がまったく見えない。その見えないところから、中谷は急発進した。わずか2秒ほどで、守屋を引き波にはめた。この瞬間、やっと平高の視野の片隅に赤いカポックが飛び込んだだろうが、もう遅い。艇を合わせる間もなく、中谷が右横を突き抜けて行った。
もちろん、この勝利をして「中谷超抜」とは言い切れない。ツケマイという奇襲は、パワーとは別の次元(気合や初動のタイミングなど)で決まるものだ。準優に入れば中堅レベル、というのが私の勝手な見立てである。
2着は二転三転の大熱闘の末、平高がもぎ取った。一時は4、5番手に喘いでいたから、見事な巻き返しといえるだろう。ただ、他の面々が道中でもたついた印象もあり、私の評価はランクA、上位級あたりだ。
その平高に競り負けて3着に甘んじたのが長嶋。果たして、足負けだったのかどうか……ターンマークで常に舳先の返りが甘く(遅く)見えたのだが、サイドの掛かり云々よりハンドルの入りが甘い気がした。記念戦線で揉まれに揉まれて、ややリズムを落としている長嶋。このプチスランプを乗り切ればもう1段階スキルアップするのだろうが、今はまだ復調途上という気がしてならない。足そのものは上位レベルだと思っている。
女王たちの洗礼
11R
①小野生奈(福岡) 21
②海野ゆかり(広島)13
③谷川里江(愛知) 09
④松本晶恵(群馬) 10
⑤鎌倉 涼(大阪) 11
⑥樋口由加里(岡山)11
おそらくスリット全速にこだわり過ぎたか。小野生奈、スタートが甘かった。コンマ21というヌルい発進に、半艇身抜け出した海野ゆかりが黙ってはいなかった。締める締める締める。ぐいぐい締め込んで、まくり倒しに行った。果敢に抵抗してまくりを許さなかった生奈だが、1マークに残されたマイシロはほぼゼロ。ただただ先に回るだけで、あさっての方向に飛び散った。わずかでもミスをしたら、容赦はしない。元女王の意地とプライドが、水面に如何なく投影された。
もちろん、まくりをブロックされた海野も無傷ではいられない。張られながらの差しハンドルに勢いはなく、その傍らをこれまた百戦錬磨の元女王・谷川がズッポリと差し抜けて行った。まさに展開一本の差し抜け1着で、このレースの勝者のパワー評価も微妙ではある。平凡なレースタイムや道中で海野、松本に詰め寄られているあたりは、とてもトップ級とは言えないだろう。準優に入れば、良くて中堅だと思う。
差を詰めた2着の海野は……私の勝手な評価では中堅上位くらいか。そう思えたのは、さらにその後方から追撃した3着・松本の足が、素晴らしく良く見えたからだ。整備なのか、気温が10度ほども下がったのが幸いしたか、その原因はわからないが、直線・ターン回りともにド迫力の気配だった。今日のレースだけで言うなら、おそらく節イチ。この足が、準優にそのままスライドしたら、ダークホースとしてもっとも怖い存在だとお伝えしておく。
第一関門
12R
①今井美亜(福井)03
②寺田千恵(岡山)12
③日高逸子(福岡)07
④宇野弥生(愛知)07
⑤平山智加(香川)12
⑥池田浩美(静岡)20
23歳にして予選トップを奪取した今井美亜が、なんとか第一関門を突破した。結果だけでいうならイン逃げ楽勝に見えたが、「なんとか」はやはりイン選手のキモ、スタートだ。かなり早めに起こした今井は、残り70mあたりから上体を起こしっぱなし。もちろんレバーをニギニキしていただろうし、全速とは真逆のただ合わせるだけのスタートになった。コンマ03。入っていて良かったね、と声を掛けたくなるようなドッキリSだ。
まあ、これがハナからの作戦だとしたら、怪物級の強心臓ではあるな。先月、イン屋の神様・冨好和幸さんとお会いしたとき、こんな話を聞かせてくれた。
「優勝戦の1号艇になるくらい噴いているときは、かなり早めに起こしてレバーを揉みながらでも、しっかり入れきればいいんです。全速にこだわりすぎると、下手を打つ可能性が高くなる。1マークまでに伸び返せるパワーなんやから、ただ入れておけばええんですわ」
結果的に、まさに今日の今井がそうだった。揉み揉みニギニギしつつ、1/3艇身のアドバンテージと強烈な出足~行き足で外の攻撃を完封してしまった。それができる超抜のパワーであることを見せつけた。だから、これがすべて作戦だとしたら完璧な勝利なわけだが……違うだろうなぁ(笑)。気がはやりすぎて、起こしが早まった。で、慌ててアジャストしたんじゃないかと思う。
さて、明日の第二関門もまた1号艇、おそらくインコースである。12秒針が回る間の美亜ちゃんの思いやいかに? 今日の“失敗”(作戦なら成功)を気にしてスリット全速にこだわりすぎたりすると……惨劇になる可能性が高い。とにもかくにも、相棒のパワーを信頼すること。これに尽きるな。今日の勝ち時計1分46秒5はブッチギリもブッチギリ、2位の1分47秒8を1秒3!!も置き去りにするシリーズレコードだった。先に松本を今日の節イチと記したが、この時計だけで言うなら今井のパワーはモンスター級かもしれない。それを信じきれるか。信じきれれば、今日と同じようなレースでも、もう2回逃げきれると思うのだが。
2着には1周2マーク、逆転の小回りターン一発で平山がもぎ取った。寺田と宇野が競っているのを尻目に、最内から最内へ、最短コースをくるりんと回って2番手浮上。桐生順平が良くやるアレだ。丸亀の実況アナが「これは好旋回でありまして」と絶賛するアレだ。展開が向いたのも確かだが、素晴らしい好旋回だった。それが平山のテクなのかパワーなのかを見定めるのは難しいが、おそらくその両方が噛み合ったのだと思う。今節はピンロクの成績で、ストライクゾーンの狭さに四苦八苦している印象がある智加ちゃん。あのターンを見る限り、今日の回り足は今節で最高最良だろう。この足を維持し、さらに自慢の伸びを上積みできたりしたら……2度目の戴冠がぐっと近づく。
3着のテラッチの足は、初日からずっといい感じなのだが、勝ちきれるだけの“何か”が足りないでいる。全部が上位のバランス型であり、それが逆に突き抜けられない弱点にもなっているような……明日以降、どんな方向に軌道修正するのか、それともこのままバランス重視を貫くのか、そのあたりに注目していきたい。(photos/シギー中尾、text/畠山)