BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――キャリアと勢い

 

 

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 畠山が昨日、美熟女軍団の活躍に触れていたが、ここ一番の彼女たちのキャリアは、やはり無視できない。

「差して正解、よね?」

 9Rを勝利した水口由紀が、ピットに戻って武藤綾子にそう問いかける。

「めちゃ正解!」

 武藤は水口の判断を称える。スリットで1艇身近くのぞいていた水口、隊形的にはジカまくりかと思われたが、インの福島陽子が伸び返してくるや、素早く差しハンドルを入れている。この冷静な判断こそ、数々の修羅場を経験してきた者の強みだろう。血気盛んな若手なら、まくりに行って福島の伸び返しと競り合うかたちになったかも。ターン回りの足が良ければこその判断だったかもしれないが、いずれにしても見事な捌きだったというべきだろう。

 

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 11Rの海野ゆかりも同様だ。やはりスリットで半艇身ほどのぞいており、いったんはイン小野生奈の頭を叩きに行っている。しかし、小野が伸び返して抵抗の気配を見せると、すーっと引いて差しに構えた。マイシロがなくなった小野は流れ、自身も谷川里江のまくり差しを浴びてはいるのだが、あそこで競り合っていたら道中捌いての2番手浮上という目はなかったかもしれない。これも賢明な判断だったと言えるだろう。

 

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 内の二人の動きをきっちり見据えていた谷川もお見事。まくり差しのタイミングは、まさしく絶妙であった。谷川はトップスタートを切っており、海野が引いた瞬間に叩いて出る手もあっただろうが、小野の何が何でも先マイの気配を感じたのだろう、実に的確なまくり差しを放っている。まもなく名人世代となるので、ベテランと言って差し支えないと思うが、そう、まさにベテランらしい鮮やかな捌き。やっぱり美熟女は、強い。

 

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 まだ30代だが、中谷朋子のツケマイのタイミングもお見事。スタートタイミング的にはいちばん遅かったが、まさに見えないところからのドンピシャなツケマイ。先マイ逃走を信じていた平高にとっては、青天の霹靂だったはず。中谷といえば、差し、まくり差しのイメージも強いが、きっちり握るべき時は握る人でもある。ここと決めたら強攻。その腹のすわり方が、やはり経験のタマモノなのだと思う。

 

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 美熟女と言うにはまだ10年以上の歳月が必要だが、経験という意味では、平山智加が積み重ねてきた経験は、やっぱり一味違う。これまでの王座では優勝戦1号艇とか予選トップとか、プレッシャーを強く感じさせられる立場が多かったわけで、準優進出戦5号艇はまったく気楽に臨める戦いだったはず。だから平山の自然体で柔らかい雰囲気は印象的だったわけだが、レースでは2マークをくるりと捌いて4番手から2番手浮上。今年はSG常連としても活躍しているわけで、その経験もまた大きいか。平山としては必死の逆転劇だったかもしれないが、やけに簡単に捌いてしまったと見えるほど、鮮やかな逆転だった。もちろん、ピットに戻った平山は笑顔だった。

 

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 などと言いつつ、若手の奮闘にももちろん拍手を送っておきたい。とりわけ、平高奈菜の10R3周1マークの切り返しの見事さと言ったら! 平高といえば、肉食系の攻撃力がとにかく魅力。この切り返しも、その範疇に入るものだろう。2周1マークでも長嶋万記に仕掛けて交わされており、2周2マークでもやはり前を行く長嶋にアタックして、その間隙を喜井つかさに突かれた平高は4番手に下がっている。それでもこの人は諦めない! 4番手からさらに切り返しに打って出て、一気に2番手まで浮上したのだ。3-1を持っていた人は大拍手でしょう。持っていないワタクシも、やっぱり大拍手だ。

 レース後の平高は、ボートリフトに乗った瞬間にヘルメットを脱いで、長嶋に頭を下げた。後輩としては、当然の礼儀だろう。もちろん長嶋はうなずき返しており、後腐れなどいっさいナシ。その後の平高は、1号艇を勝利で飾れなかった悔しさと、しかし2番手まで獲り切った充実感とが入り交じったような表情をしていた。まあ、一言で言うなら、カッコ良かった! 明日も縦横無尽に暴れまくってくれ!

 

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 さて、準優進出戦はマスターズ(名人戦)とは方式が変わり、ちょっとややこしさを増した。というか、進出戦4~6着の選手は「4日目まで(つまり進出戦も含む)の得点率上位6人が準優へ」というもので、誰がその6人に入るかを想定しにくかったのだ。これは選手も同様だっただろう。いや、もしかしたら「3着までに入れなければ敗退」と思い込んでいた選手もいたかも!? なにしろ小野生奈はピットに戻って絶望的な表情をしていたのだ。小野のあれほどまでの暗い表情は初めて見たような気がする。1号艇で6着に敗れるという事実に暗澹としていたのかもしれないが、その後に準優出のインタビューをオファーされて意外そうな顔をしていたのを見たので、準優進出に失敗したと思い込んでいた可能性はある。実は11Rを走る時点で、無事故完走で準優当確だったんですけどね。もちろん小野自身はそれを把握はしていなかっただろう。

 

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 鎌倉涼も、把握していなかったフシがあるな。12Rの結果で、鎌倉の準優行きは決まっている。僕は12Rメンバーがピットに帰ってくるまでに素早く計算を済ませたので、鎌倉の姿を探した。ところが、彼女の周辺は、特に沸き立ったような様子はない。そりゃそうだ。エンジン吊りに出なければいけない彼女たちに、計算をしている時間はないのだから。これは12R5着に敗れた宇野弥生も同様だったかもしれない。レースを走った直後にすべてを計算し切って状況を把握する、なんてできるわけないですよね。きっと「ああダメかも」という思いでピットに戻ってきたことだろう。

 で、逆に言うと、一度は準優をあきらめたのだから、彼女たちにもう失うものはないだろうな、ということになる。明日、5号艇と6号艇のメンバーはけっこう怖い存在だと思うのだがどうだろう。特に、いま名前をあげた3人はちょっと狙ってみようかなという気にさせられるのだけれども。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)

 

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今井美亜の逃げ切りはお見事! スタ展でピット離れ遅れたときには、選手たちみんなが心配そうに見ていて、展示後にはいろんな選手が今井に声をかけていた。本番はきっちり逃げ切り! さあ、あと2つだ!