BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット@グランプリ――水も滴るカッコいい男たちよ!

 

 

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 午後3時すぎ、プロペラ修整室にはファイナル組の何人かの姿があった。最後の調整のためだ。毒島誠は微妙な力加減で軽く軽く叩きながら、何度もゲージで形を確認。精緻な調整のようだ。篠崎元志はほとんどハンマーを持たず、ゲージで形状をチェックしているようだった。誰もが、最終段階の微調整をしていた。

 そんななかでただ一人、山崎智也だけは力強く、ガンガンガンガンとハンマーを叩きおろしていた。この時間帯に!? 試運転の時間はほとんど残されておらず、ほぼぶっつけ本番になりそうなタイミングで、形を叩き変えるかのように大きな音を響かせている。智也、やっぱり足はもうひとつなのではないか。1号艇ではあるが、大丈夫なのか。何より、直前にこんなに叩いても大丈夫なものなのか。おおいに気になったのである。

 そうなると、トライアルでの1号艇2度は、ともに逃げることができず、1マークでは差されてしまっていることがさらに引っかかってくる。初戦は抜きで1着は獲ったが、敗れていてもおかしくなかった、いや、桐生順平の謎のオーバーターンがなければ明らかにそうなっていたはずの展開だった。1着ナシでファイナルに臨んでもおかしくはなかったのだ。今日も同じ1号艇。またトライアルの再現となるのではないか……。

 

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 そういうことを、このスーパースターに当てはめても無駄なのだな。杞憂も杞憂。智也は茅原悠紀の前付けにも動じず、堂々と逃げ切った。トライアル2走を思えば、危なげなかったとも言える、逃走劇。毒島誠が1マークで攻め込んできて、さらに道中は猛追を見せたりもしたわけだが、終わってみれば智也はきっちりと逃げ切った。ちなみに、足はやはり劣勢だったようである(会見で本人談)。そんなことは智也にとっては、別にたいした問題ではなかった、ということになる。

 それにしても、なんと絵になる男なのだろう。優勝戦は、雨が降りしきるなか行なわれた。グランプリ優勝戦が雨の中で行なわれたことって、今までにあっただろうか? 僕の記憶にはない。実況でおなじみ内田和男さんに問いかけると、内田さんはそれこそ第1回からの記憶をよみがえらせながら、「うーん、あったかどうか……」。どんよりと曇った空のもとの優勝戦は記憶にあるが、いずれにしてもこれは実に珍しい優勝戦なのである。ナイター照明が雨粒を照らし、幻想的とも言える水面で、賞金トップの男が1号艇で先頭を走る。出来すぎである。だが、山崎智也という男に出来すぎはツキモノだ。というか、この男の手にかかれば、ごく当たり前にやってのけたかのような錯覚を覚えてしまう。お子さんが生まれた直後の優勝、ということだって本来は出来すぎ。しかし、結婚直後、奥さんの引退直後にこの舞台で優勝を飾ってきたことを思えば、それはもはや予定調和にも近い出来事と思えてしまうのである。

 

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 表彰式を終えて、会見場にあらわれた智也は開口一番、言った。

「子供の顔を早く見たいので、さらっといきましょう」

 他の人が言ったら鼻白むような言葉も、智也が言うと感動的な一言になってしまう。子煩悩な智也、と想像すると、なんか感慨深いですよね。やっぱりこの人は特別な人である。

 というわけで、ここではあえておめでとうなどとは言わない。これでSG10冠となり、あの植木通彦さんに並んだことを聞かれ、「まあまあすごい選手っすね」と笑った智也。だったら次は、その「まあまあ」が取れることを期待するのみ。12冠の松井繁の背中も見えてきたわけだから、これに並び、超えれば、もう「まあまあ」とは言えないだろう。

 といったあたりをまとめれば、勝つべき男が勝つべくして勝った、という陳腐な言い方になってしまうのか。でもいいや。智也に捧げる言葉は、凡百のオッサンとしては、それが精一杯だし、それが似合う。山崎智也よ、あんたはスゴすぎです。

 

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 2着は毒島誠で、群馬ワンツー! 戦前から「二人でワンツーするぞ」が合言葉だったようで、群馬支部にとっては最高の結果となった。だから、ピットに戻り、ボートを降りた瞬間に二人は祝福しあっているし、その後には抱き合って喜びを分かち合っていた。

 だが、痺れた、毒島に。智也に向けた笑みは口元だけだったし、智也と離れた瞬間に顔色をさーっと変えたのだ。トライアルでの毒島は、表情をほとんど変えずに、ただ己への怒りを噛み締めていた。それを僕は憤然と書いた。だが、今日の毒島は、顔をゆがめた。湧き上がった感情を抑え込むことができないかのように、その思いを表情に出したのである。智也さん、おめでとう。それはまぎれもない本音でも、それと同時に自分の敗戦をとことん許せないというもっと大きな本音がそこにあったのだ。群馬ワンツーは願っていた。だが、自分がワンでありたかった。だから、2番手を走りながらも諦めなかった。そんな毒島が、最高にカッコいいと思う。この男、まだまだ化ける。まだまだ進化する。どこまで強くなっていくのか、なんとも楽しみだ。

 

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 レースを盛り上げたのは、茅原悠紀だ。前付け! 2コース! トライアルをすべて外枠で戦い、ここまで辿り着いた男が、優勝戦でついに動いた。枠なり想定が圧倒的趨勢だったと思われるなか、茅原は予想外の勝負に出たのである。

 もちろん、茅原は勝利だけを考えて動いた。6コースから連にからめればいいなんて発想は皆無だった。昨日は、外からも勝てる選手が理想なのだと6コースから勝利を目指すと表明したが、今日になってさまざまな要素を考慮に入れて、6コースからの勝ち筋がないと判断した。だから、動いた。その判断はとことん尊い。

 勝つために動いたから、結果が出なかったことを茅原はとことん悔やんでいた。ナイスガッツ、と僕が称えても、しばらくは納得できないような表情を見せていた。そんな茅原が、最高にカッコいいと思う。いろいろあった1年だが、お疲れ様。今年はいろいろな感動を見せてもらったぞ。なんて話をしていたら、茅原はやっと爽快に笑った。来年もまた、勝つことだけを考えて走る茅原悠紀を見せてもらおう。

 

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 とまあ、二人の若者の悔しがる様子を称えているわけだが、他の3人にしたって、同じことである。もしかしたら誰よりも大きな思いを抱えて戦った石野貴之が、レース後にせつない表情になるのは当たり前である。そして、誰もがその思いを理解しているから、石野にかけられる声は、どれもこれもが優しげに見えた。川上剛も、単なる敗者に対してならイジって笑いに変えていたかもしれないが、石野を出迎えると途端に優しい表情になり、その心中を慮っている。レース前の凛々しさも、レース後の切なさも、ど

ちらもカッコ良かったぞ、石野貴之! この男の大舞台での戦いを見るのは、もはや巨大な楽しみである。

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 池田浩二は、レース後、かなり長い間、ヘルメットをかぶったままだった。確認はできなかったが、その奥の顔はいわゆるしかめっ面だったに違いない。反対に、わりと早くヘルメットを脱いだ篠崎元志は、今日もまた真っ直ぐに前を見つめ、あえて淡々とした表情を作っている。これが、元志の悔しい表情だと僕はもう知っている。王道を歩む男の悔しがり方だと、僕は確信しているのだ。

 今年もどでかい感動を残して、グランプリは終わった。第30回が雨のグランプリであったことを、水も滴るいい男たちの奮闘とともに、僕は忘れないだろう。

 そしてこれは終着点ではなく、2016年の戦いのゴングでもある。そう、あと1週間もすれば年が明けて、またROAD to グランプリはスタートするのだ。最高にカッコ良かった男たちの来年の戦いを想像すれば、ここで一息入れるわけにはいかないのである。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)