BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット@グランプリ――柔らか

 

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 今日のシールド越しの表情は、昨日に比べるとずっと柔らかかった。石野貴之だ。6号艇から前付け敢行で2着。これで明日に勝負はつながった。その安堵が大きかっただろうか。石野のモーターを運搬しながら並んで歩く木下翔太の顔も明るい。石野からポジティブな言葉が出ていた証しであろう。やはりこの男は追い込まれると強い。もちろん明日もまだ予断を許さない状況なわけで、気合の勝負駆けを戦うだろう。

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 毒島誠の表情も、非常に柔らかいものになっていた。歓喜もあっただろうが、どちらかというと感慨に浸っているという雰囲気だ。考えられるのはまず、これで優出がほぼ当確となったこと。今年の毒島は、SGではモーターに苦しんできたという印象。グランプリを決めたのも、好機を引いて実力を見せつけて優勝したチャレンジカップ。つまりギリギリである。それが、トライアル1stでも順調に運び、2ndに進んでさらに順調にポイントを重ねた。最後の最後に最高峰のファイナルに立てるのは、感慨深くて当然だ。そしてもうひとつ、今日は奥様の幸美さんの誕生日である。毎年この日はグランプリ開催中。この舞台に立てば、一緒に過ごすことはできない。だから、毒島にとっては勝つことがプレゼントとなる。幸美さんはチャレンジカップの優勝戦もテレビで緊張しながら見守ったというから、今日も遠く住之江で戦う毒島の姿を見守ったことだろう。そしてきっと、勝利に感動した。それを毒島がすぐに思い浮かべたとするなら、あの表情になるのが自然というものだ。

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 まったく対照的な表情だったのは原田幸哉。2走9点は、ボーダー21点とすると明日1着でも優出には届かない得点である。当然、そこに思いは至ったであろう。敗れた幸哉があそこまで表情を硬くするのは珍しいと思う。控室への帰途、寺田祥が幸哉に声をかけている。ちょうど展示中だったということもあっただろうが、幸哉は最初それに気づかなかった。脳裏にさまざまな思いがよぎっていたのであろう。この敗北は幸哉の聴覚を狂わせるほど、大きいものだったということだ。

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 12Rはなんといっても桐生順平だ。正直、目を疑ったのである。1着ゴールを決めて戻ってきた桐生は、ボートリフトに辿り着く直前、出迎えた須藤博倫や中田竜太に見せつけるように、フロントカウルを拳で叩いたのだ。その鈍い音は、間違いなく「やったぜ!」と聞こえた。しかし、桐生はそんなふうに喜びをあらわにするタイプではない。だから、それは一連の動きがたまたまそうなった、という程度のことかもしれないと考えたほどだった。池上カメラマンはファインダー越しにそれを見ていて、やはり痺れていた。やったのだ。桐生はそれをやったのだ。1号艇で迎えたこの一戦を、桐生はそこまでの強い思いで戦ったのである。

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 前付けが奏功しての2着となった菊地孝平は、むしろ険しい表情をしていた。6号艇を克服した快哉とか、明日の勝負駆けにつながった安堵とか、そうしたものは菊地の様子からは感じ取れていない。6号艇であろうとも、菊地は勝利のみをもぎ取りにいっていたということか。あるいは、足的に課題が見つかったということなのか。いずれにしても、菊地はトライアル第2戦を笑顔で区切りをつけようとはしていない。ゴールした直後から、すでに第3戦が始まっているのだ、というふうに。

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 森高一真も、ひとまず望みをつないだ。2走続けての外枠、しかもともに6コース。相当に厳しい戦いを強いられながら、今日は展開を突いて3着に入り、首の皮一枚つなげたかたちとなったわけだ。控室に戻る際、森高は石野のようにヘルメットのシールドを下げたままだった。ただ、その向こうにはたぶん笑顔があったのではないか。並んで歩く井口佳典がガハハハッと笑い声をあげたのだ。後ろに続く田村隆信もニコニコしている。得点状況はともかく、なんとか連に絡むことができた(ようするに舟券に絡むことができた)ことでテンションは保たれたのである。

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 さてさて、トライアル2nd第3戦の枠番抽選。いや~、恒例というか何というか、今年も出してしまった。松井繁が緑を。松井の属するB組は、一番先に引いた桐生がいきなり1号艇を出し、続く石野が2号艇。5番目の松井の順番の際には、赤と緑が残っていた。「何が残ってるんや」と確認してガラポンを回した松井は、出た玉を見て、固まった。そして選手班長の湯川浩司をにらみつけた。その松井に、緑玉を突き付ける湯川。この一連の流れに、会場は大爆笑である(笑)。松井と6号艇の縁をみな知っているのだ。心中穏やかでないはずの松井も、そんな空気に笑みを見せる。王者には悪いけど、僕も笑っちゃいました。

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 それにしても、茅原悠紀もまた、抽選運には恵まれない。一昨年の出場時には、トライアル1stから2ndの5走、すべて5枠か6枠だった。それで優出したのがすごいのだが、その優勝戦も6号艇である。今節は、1st初戦は賞金順で2号艇も、2戦目で引いたのは黄。2nd初戦は5号艇で、今日は3号艇だったが、明日も黄。枠に恵まれていないのに勝ち抜いてきたのはたいしたものと言うしかない。明日はおおむね2着以上が必要となりそうだが、5号艇から勝ち上がったとしたら、茅原悠紀をもっともっと高く評価するべきである。

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 どうも今回はいい枠が最初のほうに出てしまう傾向があるようで、A組も一番手の毒島が赤、2番手の菊地が黒、3番手の井口佳典が青、である。4番手は峰竜太。はしゃいでいた昨日とは対照的に、今日はなんだか神妙で、レース後の表情も昨日とは正反対の硬さで、それを引きずっているようにも見えたのである。無言で、特にアクションもなく引いたら、これが白! まったく現金なもので(笑)、峰のテンションが一気に上がった。もうニッコニコ。そしてガッツポーズ。そのピュアな感じというか、天然な感じが峰竜太らしさであろう。

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 というわけで、最後の二人には5と6しか残っておらず、5番手原田が黄を引き、自動的にラストの白井英治は緑。白井は微妙な表情を見せながらも、松井と顔を見合わせて大笑いするのであった。6号艇同士のグリーンスマイル(笑)。笑うしかないよね。ただ、松井にしろ、白井にしろ、6号艇では前付け必至である。選手には申し訳ないが、これで明日のトライアル最終章は激戦必至となった。もう、今から興奮しちゃうのである。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)