BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――明暗分かれる12人

 昨日のVTRを見るような……は言い過ぎだが、初日に好枠で結果を出した選手が今日も好枠に入り、そしてまた結果を出すという流れとなったトライアル第2戦。初日外枠で大敗の選手が今日もまた、という流れもあって、優出がかなり難しくなった選手も複数出ている。だから、2戦目にしてかなり明暗が分かれた感があった。

 

11R

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遠藤エミ……2日連続で11Rを逃げ切り。ほぼ危なげない快勝だったと言っていいと思う。出迎えた今井美亜はニッコリ。ヘルメットを脱いだ遠藤の表情にも、充実感が浮かんでいる。これでもちろん優出は当確。足的にも手応えをつかんだようだ。それでいて、勝って兜の緒を締めており、浮かれた様子は皆無だった。

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海野ゆかり……会見で「足はいいが、そんなに出ているという感じもない。みんな、さすがですね」と、他も底上げしており、エース機と言えどそれほど差はないという意味のコメントを出したことが印象に残った。遠藤は、海野の気配が良かったと証言しているのに。つまり、海野のなかのハードルが高いのだと思う。ハードルを上げているのは、もちろん絶対に優勝したいから。何気ないコメントだが、海野の決意がにじみ出ているものなのだ。

山川美由紀……3着でも満足している様子はなかった。当たり前か。この人に、こんなもんでいい、などという発想はあるわけないのだ。明日につながった安堵が多少はあったとしても。

細川裕子……6着敗退に、さすがに表情はカタかった。疲労感のようなものも見えた気がした。静かに控室へと戻っていったが、内心の忸怩たるや、いかばかりか。

田口節子……エンジン吊りの最中から“岡山会議”が始まっていて、堀之内紀代子や金田幸子らが樋口ともども取り囲んでいた。そこで周囲から笑みがこぼれていたので、ちょっと不思議に思ったのだが、ヘルメットを脱いだ田口は苦笑いを浮かべていたのだった。ヘルメットの奥で、ちょっと愚痴ったりしていたのだろうか。久々のクイクラ、優出は厳しい状況となった。やるせない思いになったとしても、仕方ないところだ。

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樋口由加里……エンジン吊りをしながらも、師匠である田口に歩み寄っている。岡山会議はそうして始まったかたちだ。師弟ともども、そろって大きな着を獲り、厳しい状況に追い込まれてしまった。田口を見上げる樋口の表情は、何か救いの言葉を求めているようにも見えていた。走る女・樋口も、さすがに控室にはとぼとぼと歩いて向かっていた。その背中にはたしかに落胆があった。

 

12R

小野生奈……2日連続で12Rを逃げ切り。こちらも快勝だ。レース後の表情はやはり遠藤とよく似ていたと言っていい。会見で小野は言った。「グランプリシリーズに出て、グランプリを見たらテンションが上がりました。だから、見ている人のテンションを上げるレースをしたい」。その気持ちを知っていることは、絶対に強みだ。小野、遠藤、長嶋は精神的にアドバンテージをもっているのだ。

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寺田千恵……粛々とポイントを積み上げている。“本紙予想”では、昨日の二の轍を踏むまいと思えばまくるはず、などと書いたが、とんだ見立て違い。目標はトライアルで1着を獲るではない。優勝することだ。そのあたりを、唯一のクイクラ皆勤賞はよく知っているということだろう。レース後の様子も粛々。一歩一歩トライアルロードを踏みしめているという印象だ。

松本晶恵……2走連続4着に、ディフェンディング・クイーンはやや顔をひきつらせていた。明日の勝負駆けが厳しくなったことを肌で感じていたことだろう。控室に戻る際には佐々木裕美が肩を並べて、声をかけていた。癒しは得られただろうか。

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平高奈菜……初戦の大敗を巻き返した、とまではいかないが、勝負駆けにつなげる3着ではある。ホッとしたようなふるまいはほとんど見えなかったが、足取りは決して重くなかった。

川野芽唯……うーん、連続6着。さすがに終戦を意識せざるをえなかっただろう。悔しさをにじませるというよりは、結果的に何もできなかったことでむしろサバサバしているようにも見えた。もちろん、胸の奥までサバサバしているとは思わないが。

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長嶋万記……他の選手に声をかけられると笑みを浮かべて言葉を返したりもしていたが、会話がなくなれば表情は一瞬で変わる。晴れ間にあっという間に雲がかかるような感じだ。初日の好成績組では唯一外枠を引き、そして見せ場を作れずに大敗である。ツートップが連勝を決めているだけに、優勝戦線でもビハインドを背負った格好である。それを思えば、本音の顔が晴れるわけなどない。

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 さあ、本日も枠番抽選だ。今日は、珍しいことが起こっている。B組の小野生奈がいちばん最初にガラポンを回したとき、会場が大きくどよめいたのだ。小野が出したのは、黒である。黒でどよめくなんて! 理由はもちろん、その前に遠藤エミも黒を出していたから。ツートップがトライアル3戦ともにまったく同じ枠番なのだ。小野と遠藤はニッコニコでハイタッチ。黒なのに(笑)。ちなみに、もし明日も遠藤と同じ着順だったとしたら、同得点は選考順位順に上位が決まるので、優勝戦は小野が内枠となる。ともに3連勝を飾れば、ポールポジションは小野だ。

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 A組のほうは2番目に引いた寺田千恵が黄で顔をしかめ、3番目に引いた山川美由紀が緑でうなだれた。溜息をもらす山川に、寺田が腕を絡みつけて慰める。明日はこのベテラン二人が外枠で、進入から動きがあるかも! 寺田は会見で「考える」と連動を示唆したともとれるコメント。前付けをするタイプではないが、明日はわからないぞ。「勝てるコースがあるなら教えてください」と笑いもとっていたが、はい、インコースだと思います(笑)。

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 その外枠攻撃を受ける1号艇を引いたのは松本晶恵だ。怖い怖いテラッチ&パワークイーンが外枠にいるのも忘れて、顔を上気させていたぞ。やはり白を出したらテンションが上がる。多少深くなっても、大村のインはアドバンテージも大きいのだ。2連覇に向けて、とにもかくにも糸は切れなかった。

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 B組は、まず小野生奈が黒を出し、海野ゆかりは赤、そして3番目の平高奈菜が白を出した。4番目以降は外枠決定。早々に好枠が出るという流れは、B組のほうに残っていた。溜息をつく田口節子、細川裕子。真ん中で二人の肩を抱いて励まし合おうとする長嶋万記。そのなかで最も内枠である青を出したのが長嶋。色を見た瞬間、小さくガッツポーズをして、最後の細川を気遣ったのか、その手を引っ込めている。それにしても、田口は久々のクイクラでオール外枠とは……。

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 シリーズ組。ボーダー争いはなかなか熾烈。圏内から複数の選手が得点率を下げ、圏外から複数の選手が得点率を上げ、10Rが終わった瞬間、僕の脳みそはパニックを起こしていた。どこまでが予選突破なんだ!? そこに香川素子から声をかけられた。「犬童さん、乗れますか?」。へっ、犬童!? たしか犬童千秋の名はボーダー近辺にあったはず。手元の資料をひねくって、相変わらずそのあたりっぽいが……。ふと顔をあげると、犬童本人もそこにいた! うわ、適当なことを言うわけにはいかん! というわけで、返した言葉は「ギリギリのあたりっす」。それしか言えなくてすみません!

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 二人はエンジン吊りに向かったので、その間に必死で計算。えーっと、この人とこの人が落ちて、この人とこの人が浮上して、犬童は1、2、3……18番目か!? ということで、エンジン吊りを終えて整備室にいた香川に報告。「たぶん乗れると思います」。そばにいた犬童の顔が明るくなった。間違ってたらぬか喜びさせることになるので、もう一度、計算…………そしたら、犬童が問うてきた。「優美ちゃんは?」。へっ、優美ちゃん!? 顔をあげると、渡邉優美が不安そうに立っている。たしか渡邉の名前もボーダー近辺にあったはず。えーっと、えーっと、1、2、3、4……犬童が18、そして渡邉が19か!? 気がつけば福島陽子や大山千広もこちらの答えを待っていて、「次点かも……」の僕の返答に溜息が一斉に漏れる。渡邉の顔は一気に曇り、落胆があらわになる。あぁ……。

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 準優メンバーをご存じの方なら、お気づきでしょう。私の計算ミスなのです! 圏内にいて大敗を喫した森岡真希の数字を書き換えておらず、18位以内に加えて数えていたのだ。つまり、優美ちゃん、滑り込み成功! それに気づいて、すぐに謝りに行きましたよ。そしたら、渡邉の表情は一変。ぱーっと明るくなって、「嬉しいです!」と笑ったのだった。いったんは優美ちゃんの表情を曇らせてしまって、本当にすみません! 平謝りの私でしたが、犬童の「でもいったん下がって、上がったんだからよかったよね」の言葉に救われました。お気遣い、ありがとうございます!

 というわけで、4日目の18位をめぐる攻防は、選手の気持ちを不安にもさせ、またその結果に対して本気で喜んだり悲しんだりするものということである。準優に乗れるか乗れないか。それが実に大きな大きなテーマなのだということを改めて知らされた次第である。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)