BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――涙のダービー王

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 毒島誠の瞳から、涙が溢れ出た。
 SG優勝6回目。なぜ涙が出るのか。初めてデイ開催のSGを優勝したから? SG2連続優勝に感動したから? それは違う。いや、それぞれに感慨はあるだろうが、涙をこぼさせるまでのものではないだろう。

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 そこに江口晃生がいたから。
 これまでの5回のSG制覇の時、師匠である江口はピットにいなかった。毒島はこれまで、師匠不在のときにSGを勝ってきたのだ。それでももちろん嬉しいことで、達成感のあることで、自信につながったことに違いない。ただ、師匠の目の前でSGを制するというのは、毒島のひとつの念願だった。「目の前で恩返しというか、強くなった自分を見せたかった」。それが、このダービーでかなった。それが毒島の涙腺を緩くした。
 勝利者インタビューが終わり、ガッツポーズ撮影が行なわれる。それを感慨深そうに見守る江口。隣で久田敏之が、毒島の隣に行くことを江口に促した。それでも江口も躊躇している様子。撮影が一段落ついたとき、久田がさらに強く背中を押した。毒島のもとに向かう江口。それに気づいた毒島。

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 涙が溢れ出たのはその瞬間である。
 師匠の姿を視界にとらえたとき、毒島の涙腺が崩壊した。「グランプリを獲るまで泣かないと決めてたんですけど、涙腺が……」。やはり師匠の存在は偉大なのだ。その師匠と優勝ボートに乗り込み、改めて撮影が始まる。肩を組みフラッシュの雨を浴びるのは、毒島にとって最高に幸福な瞬間だった。

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 2着は石野貴之。レース後は、意外なほどサバサバしているように見えた。これで石野は賞金ランク7位に浮上している。ついにベスト6を視界に入れられるポジションまで来た。もちろんグランプリ出場は当確。その安堵が石野の悔恨をやや緩くしてくれただろうか。

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 3着は馬場貴也。日本一の2コース差しは、今日は差さらなかった。ヘルメットを脱いだ馬場はやや硬い表情で、道中抜いての3着とはいえ、レースぶりに不満が残ったかもしれない。しかし去年の今頃は、守田俊介先輩のダービー制覇にただ感動していた馬場が、1年経ってごく当たり前にSGを獲りに行き、獲れなかったことを悔しがるのだから、明らかにたくましくなっている。今年もグランプリ出場は当確、2ndで敗退した昨年のリベンジを視野に、さらに力強さを増していくだろう。

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 SG初優勝を狙った外枠3人は、結果的に大敗となってしまった。3着も見えていた松田祐季は、さすがに悔しそう。レース後、萩原秀人が「どうなんですか?」と僕に質問してきた。何がどうなのかというと、チャレンジカップへの出場権。3着なら当確、4着でも前田将太との兼ね合いで当確がついたかもしれなかった。それが5着。その場では答えられなかったが、どうも選考締切の10月31日までもつれ込みそうな感じで、まだチャンスは残されている。ただ、レース前にその話が萩原との間で出ていたからこその、彼の質問なのであって、その分も含めての悔恨があっただろうことは想像に難くない。

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 前田将太も、出迎えた岡崎恭裕や篠崎元志に向かって、思い切り顔をしかめた。ほとんど見せ場なく敗れたことで、明らかな不完全燃焼感が残ったことだろう。松田を抜いて4着となった木下翔太も同様。こちらは逆に表情が固まっていて、6号艇だから中間着で良し的な発想がまるでなかったことがうかがえた。2度目のSG優出、木下のなかにもはっきりとSG制覇が視野に入ってきたように思う。

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 それにしても、毒島誠の強さはやはり圧倒的だ。今日も恒例と言っていい“ギリペラ”で優勝戦に臨んで(ペラ調整を終えて着水したのが、11R締切10分ほど前。展示ピットにつけるにはギリギリの時間だ)、しっかり答えを出してしまう。8月のメモリアル優勝戦では、菊地孝平の3コースまくり差しに脅かされ、自身もやや外したターンをしてしまう危ない展開で、それを毒島はおおいに反省したという。SG制覇で良し、とはならなかった。それが今日の逃げ完勝に活かされたわけだから、ますます強さが増しているということである。
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 次のSGは地元桐生でのチャレンジカップ。その次はグランプリ。ともに得意ということになっているナイター開催で、驚異のSG4連続優勝も!? そんな期待感も生じてくる、毒島の圧倒的な実力である。
 ただ、毒島はこうオチをつけた。「淡水のレース場でSGを勝てていない(笑)」。なるほど。丸亀メモリアル、下関チャレンジ、若松オーシャン、丸亀メモリアル、大村メモリアル、児島ダービー。全部海水のレース場だ。ナイターばっかり、の次は、海水ばっかり、ですか(笑)。しかし、ボートレースファンは今日、見たはずだ。毒島誠は、そうした“ジンクス”のようなものをあっさりと覆す力があるのだということを。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)