池永太に聞きたいことがあった。
昨日の優出記者会見で、茅原悠紀はハッキリと「SG」のことを口にした。まあ、茅原なら早晩SGにやって来ることになるだろうが、
それでもこの新鋭王座の先にはSGがあることを
意識する発言をしていたのだ。茅原の場合、
チャレンジカップが地元で開催されることも大きい。
それに出場するためには、その前にSGに参戦しておきたい。
新鋭王座優勝がその第一歩となることを、
茅原はたしかに意識しているのである。
ならば、池永太はどうだ。同期の西山貴浩がSGを経験し、
まだ選考締切は半年も先のことであるが、
ダービー勝率もボーダーより上にいる。
そろそろ自分もSGへ、そういう意識はないのか。
「それがわかっていたから、とにかく最低でも
優勝戦には乗らなきゃいけないと思ってここに来ました。
乗れてよかったですね」
期待していた言葉が返ってきて嬉しくなった。
それは明らかに、池永が一段階上のステージに
突入したことを意味するからだ。
そして、これなら大本命の茅原とも互角に戦えるはず。
機力やコースではなく、精神的に真っ向勝負ができるはずなのだ。
それが結果にどう反映するかはともかく。
もちろん、池永はもはや優勝しか考えていない。
ダービーについては一戦一戦を大事に戦うことしか
今は考えられないというが、今日の優勝戦はただひたすらに
勝利だけを見据えている。「これを獲って、総理杯、行きます!」
行きます、のところだけボルテージをぐんとあげて宣言した池永。
優勝戦にその思いがどう表現されるのか、注目しよう。
大池佑来は、「緊張はぜんぜんしてません」と童顔をほころばせる。「人気もないでしょうし(笑)」と付け加えながら。
たしかに優出メンバーでもっともキャリアの浅い大池だから、
その通りかもしれない。それを重圧なく戦える材料として、
大池は平常心を保てているようだ。
新鋭王座は昨年、一昨年と関東勢が制しており、
大池もそれは意識しているという。しかし、
気負うつもりはまったくない。精一杯戦って、
そういう結果が出ればそれでいい。
初のGⅠ優出ということで、仮に緊張していたり気負っていたりしても、きっと同じような言葉が聞かれたりするのだろうと思うわけだが、
実際に話してみた雰囲気からは大池の言葉を額面通り
とらえていいのではないかという気がする。
そうであるなら、ちょっと怖いな。なにしろモーターは
お墨付きの良機なのだから、無欲の一発も充分ありうる。
朝のピットで直接話ができたのはその2人だけ。
あとは動きを見ての僕の感覚ということになるわけだが、
少なくとも朝から緊張に襲われ、表情や動きがカタい選手はいない。
あえて昨日までと少し違うと思えたとすると、
土屋智則の歩くスピードが遅いということだけで、
それもにこやかな土屋の顔を見ていると、
たいしたことではないように思えてくる。
松尾昂明は、早くから自艇の装着作業を始めていたが、
同時に新兵の仕事もせっせとこなしていた。
本来、松尾はもう新兵ではない。
今年は104~106期も一人ずつ参戦し、
100期の松尾にとっては後輩がどーんと増えた新鋭王座である。
しかし松尾はそこにいる人間が動けばいいんだとばかりに、
積極的に働いていた。控室から整備室までゆうに1
00m以上もある芦屋ピットでは、
最終日には“カポックコンテナ”が登場する。
モーター返納作業に素早く取り掛かれるように、
選手はリフト付近でカポックを脱いで整備室に向かい、
それをコンテナに積んで若手が控室(カポック脱ぎ場)に運んでいくという次第。そのコンテナを、1R前に松尾が準備して
リフトのほうへと運んでいた。松尾がやる必要はないのに。
だから、それを目ざとく見つけた上野真之介が大慌てで駆け寄って、松尾からコンテナを奪おうとしていた。
松尾も上野も気持ちのいい若者である。
奈須啓太は、自分の作業はもちろん、
その合間に今日も班長の仕事がある。
今節は本当にいろいろあって、そのなかで優出を果たしたのだから、拍手! そうして忙しい時間を過ごしているからということもあるのか、奈須にも緊張は感じられない。
ただ、実に凛々しい表情ではあったぞ。
そして大本命の茅原悠紀。坂元浩仁とかなり長いこと話し込んでいる姿があったが、笑顔も見え、表情もごく自然で、
今のところは1号艇のプレッシャーも襲ってはきていないと見える。
さすがに人気を背負う男なだけに、
報道関係者が次々と言葉をかけている時間帯もあったが、
それも自然にこなしている。なんだかますます死角がないぞ。
ちなみに、動き始めは優出メンバーのなかでは
松尾と並んで早いほう。完璧な調整で、
その松尾の強烈伸びにも対応できるよう、万全を期す心づもりだろう。
(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)