BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――氷雨に咲く花

午後になっても雨は降り続いている。

気温は上がらず、ピットは震えるほど寒い。

3月とはとても思えない空気の中、冷たい雨はやむ気配を見せない。  

 

 

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係留所には、守屋美穂と樋口由加里。

操縦席で、言葉をかけ合いながら、

何度もスクッと立ち上がっている。

モンキーターンのフォームを繰り返しているのだ。

理想的なフォームを模索しているのだろう。

雰囲気としては、樋口が守屋に問いかけ、

守屋が実践してフォームを見せているといった感じ。

まず守屋がモンキーの体勢をし、

続いて二人一緒にダブルモンキー。

まるでモンキーターンの“素振り”を繰り返すように、

守屋と樋口は延々とこれを続けていた。 

そのとき、ピット内の信号灯は赤いランプを点していた。

これは試運転禁止を告げる信号。

レース開始の数分前に点灯し、

次のレースの展示航走が終了すると緑のランプに変わる。

緑ランプがついている間だけ、水面を走ることができるわけだ。

つまり、守屋と樋口は赤ランプの時間帯を利用して、

モンキーの練習をしていたということ。

そして、係留所にボートがあるということは、

次の緑ランプを待っているということでもある。

10Rの発走時刻は間近に迫っている頃だった。 

10Rが終わり、11Rの展示も終了する。

守屋と樋口はやはりカポックを着込んで、ヘルメットを手にしていた。赤ランプがついているうちにヘルメットをかぶり、

モーターを始動させる。やがてランプは緑に。

速攻でまずは守屋が水面に飛び出していった。  

 

 

 

 

 

 

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その守屋と足合わせを始めたのは、落合直子だった。

落合のボートがどの場所に係留されていたかは見逃してしまったが、つまり落合も守屋や樋口と同様に、

ランプが緑に変わるのを待っていたのだ。

二人が1マークのほうに疾走していくと、樋口もこれに続く。

3人は、足合わせになったり単走になったりしながら、

試運転を続ける。昨日も書いたように、

多摩川の試運転タイムは11R発売中まで。

本日最後の試運転を、3人は時間を惜しむように走り続ける。

冷たい雨を切り裂いて、ひたすら走る。  

 

 

 

 

 

 

 

 

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ふと、視線を感じた。

ペラ室だ。整備室入口の左右に1つずつのペラ室がある多摩川ピット、向かって左側の室内からは水面が見渡せる。

五反田忍が、じっと水面を見つめていた。

ペラ調整をしながらも、若き後輩たちの様子が気になっていたのだろう。五反田は真剣な表情で水面に視線を向け続け、

2マークをターンしていく落合や守屋の姿か

ら目を離さなかったのだった。 

やがて、まず落合と樋口が陸に上がる。

五反田はペラ室から駆け出し、そのエンジン吊りに加わった。

やはり、五反田は落合らに声をかけている。

内容は聞こえないが、アドバイスの類いであろう。

落合は先輩の言葉にうなずきながら耳を傾け、

真剣な目を向けていた。  

 

 

 

 

 

 

 

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やがて、ランプが赤に変わった。試運転終了。

ちょうどそのとき、守屋が2マークに差し掛かるところだった。

そして、ターン。えっ!? ランプはもう赤なのだが。

守屋はターンしたあとにそれに気づいたのか、

それともターンの手応えだけは確認しておきたかったのか、

2マークを回って少しして減速、ハンドルを逆に切って、

ピットへと戻ってきている。氷雨のなかの試運転は、

こうして終わったのだった。 

ピットに上がった3人の情報交換が始まる。

収穫はあっただろうか。特に落合と守屋にとって、

あと2日のみが水神祭のチャンス。

そのためのヒントを得ることはできただろうか。

 

 

 

 

 

 

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さて、勝負駆けだ。もっとも沈痛に見えたのは、松本晶恵である。

4着条件だった10R、道中はたしかに4番手を走っていた。

しかし、逆転されて5着。これで5・60まで

得点率を落としてしまっている。

松本を抜き去って行ったのは田口節子。

女王は1マークの失敗を盛り返す捌きで松本を逆転したのである。

松本はもしかしたら、実力の違いを見せつけられた気分になったのではなかったか。女王にあって、自分にはないもの。

それを突き付けられたかもしれない。 

肩を落とす松本に寄り添ったのは横西奏恵である。

松本が控室へと戻っていく途上で横西は松本をつかまえ、

数分間、言葉をかけていた。他の5選手がとっくに控室に消えても、

黄色いカポックとヘルメットをかぶったままの松本はピットに残り、

偉大すぎる先輩の言葉を神妙に聞いていたのだ。

この経験と絶対女王の言葉は、間違いなく、

松本にとって大きなスキルとなることだろう。  

 

 

 

 

 

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対照的に笑顔爆発は藤崎小百合。

11Rは6号艇という不利な枠ながら、2着で堂々の予選突破! 

持ち前のキュートな笑顔が春の花のように満開になっていた。

インタビューを受けている藤崎を前田“マエクミ”くみ子さんと見物しながら、二人して「かわいいねー!」「かわいーっすよー!」と

大盛り上がり。ほんと、笑顔が素敵っす! 

めっちゃ寒かった終盤戦のピット。

でも、藤崎の笑顔を眺めているときだけは、寒さを忘れました、はい。優出したら、どんな笑顔を見せてくれるのかなー。

 

 

(PHOTO/中尾茂幸=松本、藤崎 池上一摩=それ以外 TEXT/黒須田)