BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――春の風

 風が一向に収まらず、水面には白波も目立った3日目。しかし、風が雲を吹き飛ばしたのか、終盤の時間帯には快晴となり、風を感じない場所ではなんとも気持ちいい春の空気。そんな陽気だからなのか、整備室にもなんとものどかな光景が見られたのでありました。

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 そもそも、岡孝が完全に整備室の主になっているのである。整備しまくってる? いや、リードバルブ調整所にただ座っているのだ。たたずんでいるのだ。整備室内に目を向けて、緩やかな時間を過ごす。時折、整備や点検をしている選手に声をかけて、セクシーな笑顔を見せたりして。岡にとって、いちばん居心地のいい場所がそこなのか? そう思いたくなるほど、岡はただただ、そこに座っているのである(その理由を尋ねようと思ったが、「ヒマそうですね」みたいな質問になるんじゃないかと躊躇しております)。

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 今日はそこに、さらにズラリと選手の顔が並んだ。11R後のことだが、瀬尾達也のエンジン吊りに馳せ参じた岡が、モーターを整備室に運んで、その近くにいた今村豊と立ち話を始めた。その間に、岡の定位置には山口博司がすわって、のんびりした表情。さらに、その隣に亀本勇樹、大川茂美、森脇徹と並んで、微笑みを浮かべつつ、静かに整備室内を眺め始めたのだ。そこに陽が当たっていたら、ほんと、縁側の日向ぼっこのようですね。匠サロンに穏やかな時間流れる春の午後、というか。で、今村との立ち話を終えた岡は、すっかり混雑したベンチのいちばん端っこの定位置に、割り込むようにふたたび収まる。やっぱ居心地いいんでしょうなあ。今日はちょいと一日ドタバタしていた私ですが、夕刻に素敵なベテランたちの柔らかな姿を目撃して、すっかり癒された次第でありました。

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 もちろん、彼らはただ和やかに集っているわけではないぞ。なかでも、大川茂美は、何度も何度もギアケース調整をしているのを見かけている。青山登さん曰く、大川は成績こそ伴っていないが、足はいいとのこと。それが飽くなき整備の賜物であったとするなら、明日以降も穴の使者として気を配っておくべきだろう。 ともあれ、皆、自分の仕事をきっちり終えた後の、和やかタイムというわけなのだ。まあ、なぜ控室ではなく整備室で、という疑問もあるにはあるんですけどね。いいタイミングがあったら、ちょいと聞いてみよう。

 

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 風のないところはのどか、といえども、風がしっかりあたる場所、特に水面ではそうはいかない。午前ピット記事で、山室展弘がスリット写真を見ながら……という話を書いているが、後半の山室も同じように、スタート展示後にじっくりとスリット写真などを覗き込んでいたものだった。

 つまり、なんだかんだ言いながらも、山室はしっかり準備をしてレースに臨んだのだ。11R、山室はゼロ台スタートを決めてカドまくり! 風を制してみせたわけである。これぞ、個性派実力者の真骨頂であろう。

 レース後の山室はさすがにニコヤカ。「水野さーん、すいませんでしたー」なんて笑顔で言われたら、真っ先に飲み込まれた水野要だって「どもー」と笑顔になるというものだ。井川正人も、岡本慎治に捌かれ3着という結果が悔しくないわけがないけれども、山室との感想戦ではダンディに笑っているのであった。

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 で、不思議に見えたのは岡本慎治。山室は実はレース後真っ先に「慎治、ごめーん」と岡本に歩み寄っているのだ。声をかけられた岡本は、振り返って山室の姿を認めると、なぜか深く腰を曲げた。まるで先輩に健闘をたたえられた後輩、という図に見えるものだったのだが、この2人、同期である。地元の大一番で1号艇を活かせず、呆然とする中で声をかけられて咄嗟に出た仕草だったのか、それとも同期と言えども年齢が違うといろいろあるのか、よくわからないけど、とにかく妙な光景に思えたのであった。

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 不思議な光景といえば、新良一規のことも記しておこう。12R発売中、閑散としていた装着場を一人歩き回る新良。右へ左へ、フラフラというわけではないが、無軌道に歩いている姿を見て、思わず「徘徊?」という言葉も失礼ながら浮かんでしまったわけだが、よく見るとヒモ付きのマグネットを手にしている。ペラ装着の時に落ちる鉄くずなどを拾い集めているのだ。つまり、装着場のお掃除。言うまでもなく、これは本来は新兵の仕事。しかし新良は、手が空いている人がやればいいのだとばかり、地元という意識もあってか、受け持っていたわけである。もちろん自ら買って出たものであろう。不思議な光景と書いたが、それは「新兵仕事」という先入観があるからであって、排除して見れば押しつけがましくもない自然な雰囲気。新良の人柄と、特に整備などする必要はないという余裕を感じた次第でありました。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)