すでに書いたが、ピットの隅っこには喫煙所があって、
選手も報道陣も利用する。狭いスペースなので、
選手が多くいるときには近寄らないようにしていて、
空いているスキに一服するという次第。
3Rの締切5分前くらいだったか、
遠目に確認してみると、おっ、空いているぞ。
JLC解説者の沖口幸栄さんがひとりタバコをくゆらせている。
チャンス! とことこ近づいていくうちに、
金色のラインが入った頭が見えた。あら、誰かいた?
この髪型は重成一人。まあ、重成だけだし、許してもらえるだろう。
というわけで、失礼しまーすと喫煙所に足を踏み入れた。
!!!!!! 服部幸男!
なんと、早々に4Rの展示の準備を終えた黄カポック姿の服部が、
死角でゆったりと紫煙を味わっていたのである。
なんという存在感。なんという迫力。
思わず、すみませーんと叫びそうになってしまったのだった。
緊張しながらでも、服部の横で喫うタバコはうまかったっす。
服部が去ったあとには、
重成に「このお二人(沖口さんと私)には街で会いたくないっすわ~。絶対に目そらしちゃう」と笑われました。
重成と和やかに喫うタバコもうまかったっす!
3R、装着場に置かれているJLCのモニターでレースを見ていたら、
誰かがふと横に立った。「おぉ、4号艇誰っすか?」。
峰竜太だった。出走表を見せながら、並んで観戦。
峰は感嘆の声をあげながら、先輩たちの走りを見守っていた。
隊形がほぼ固まったころ、
峰が「やっと良くなってきましたよ」と笑顔で言った。
キャリーボディーを交換したそうで、伸びはいまひとつだが、
戦える足にはなっているという。この笑顔が出れば、もう大丈夫。
本当に悪い時は、こんなふうに話しかけてくることなどないし、
こちらからも話しかけにくいほど作業に集中し、
何事か考え込んでいる。すれ違って挨拶しても、笑顔がなかったり、笑っても頬がひきつっていたり。2Rで逆転3着だったことも、
気分を良くしているだろう。
「なんで4着って書いてあるんすかぁ~」と、
2周目くらいに前とやや離れた4番手だったことから
「4」と書き込んだ2R5号艇の欄を指さして突っ込まれたりもしたが、
その表情も実に愉快そうであった。
峰は予選6走だから、まだまだチャンスは残されている。
厳しい条件ではあるが
「ピンピンピンで行けますよね。1号艇も残ってるし、
4号艇も残ってるし、いや、6号艇でも1着獲りますよ!
命かけていきます!」とニコニコでエンジン吊りに峰は向かった。
ちなみに、レース後にシャワーでも浴びたのか、
なんかいい匂いが漂ってましたよ。
さてさて、2Rと3Rで爽快なまくりが決まっている。
3Rは田口節子がカド一撃!
鮮やかなレースぶりに、笑顔があふれる田口であった。
岡山勢もにこやかで、横西奏恵も微笑している。
強敵相手のまくり一発だから、心が弾んで当然だろう。
一方、2Rで3コースまくりを決めた藤丸光一は、
ピットに戻ってきても凛々しい表情を崩さなかった。
ボートリフトの手前でヘルメットをとってから、
仲間に出迎えられて陸にボートを上げるまで、
笑顔はいっさい見られなかったのだ。
もちろん、その後には人の好い笑顔を見せてはいたが、
そのキリリとした表情が印象に残った。
これもまた、充実感の表現なのだ。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)