脳汁ランナウェイ
11Rシリーズ優勝戦 進入順
①篠崎元志(福岡)11
⑥西島義則(広島)20
②石渡鉄兵(千葉)20
③池田浩二(愛知)12
④湯川浩司(大阪)14
⑤石野貴之(大阪)16
このレースは、2マークで見ようと決めていた。西島義則が動く。抵抗する湯川浩司と石野貴之を振り切って、舳先をスタート方面に向ける。観衆がどっと沸く。歓声、奇声、怒声、罵声……いろんな声が混じっているが、誰もが待機行動の行方を固唾を呑んで見つめている。私も、この進入のカタルシスに酔いしれる。これでも篠崎が逃げるかもしれないし、石野がアウトまくり差しを突き刺すかもしれない。6人に平等に勝つチャンスが与えられた。そんな気になる。
12秒針が回った。枠なりの穏やかな起こしより、スタンドのボルテージははるかに高い。篠崎を応援する者も、石野を応援する者も、より必死に声援を送る。私も◎石渡鉄兵の名前を連呼した。内2艇が極端に深くなった、絶好の3コース。これでスリット同体なら、石渡がまくりきれる。スリットのはるか手前で、脳汁が毛穴という毛穴から噴き出す。 げ。
石渡が遅れた。私も含め、石渡を応援した人々の声だけが止む。代わって、池田党が俄然盛り上がった。
「池田や、いってまえーー!!」
「池田や、池田で決まりや!!」
ところが、シリーズトップ級のパワーを誇る石渡がもこもこと伸び返し、まくりそうな池田に舳先を掛けてしまった。池田党の声が歓声から奇声に変わり、それで途絶えた。 その後は、1マークまで劣勢にも思えた篠崎党の喜びが爆発した。
「よっしゃ、逃げたーーー!!」
「助かったーーーっ!!」
「ええぞ、篠崎ィィ!!」
いっぺんに聞こえた。安堵の声が多かった。篠崎党はみんな、まさに固唾を呑んで声も出なかったのだ。
ここは住之江、1号艇から安心して買えるレースがあっていい。そうじゃなきゃ困るという本命党も多いことだろう。だが、私は大一番であればあるほど、こういう誰もが進入から脳汁が噴き出すようなレースが好きだ。今日のヒーローは、博多の男前ナンバーワンだった。単なる楽インからあっさり逃げるレースではなかった。80m起こしでトップスタート。いいイン逃げだった。こういうイン逃げは、記憶力の悪い私でも忘れないのだ。そして、こういうレースの後では、私は必ずこう思うのである。
西島がいてくれて、面白かったな。
今日も思った。おめでとう、篠崎。あれがとう西島。
(photos/シギー中尾、text/H)